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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第一幕 はじまり
20/60

試験の終わり

桜の花びらが舞う季節となり、私たち合格者は【白天】の中心に建つ屋敷に集められた。

この屋敷に名前は無い。単純に「屋敷」だとか「お屋敷」などと呼ばれる。



屋敷に入るのは一年以来。天井が低く、中は広々としている。部屋にも通路にも、その壁にも何も飾らない質素なところに好感を持つ。

「この部屋です」

依雲が私の足にブレーキをかける。襖に触れる手が小刻みに震えていた。

「なんか緊張してきた……」

「心配しなくても皆様方がいますよ」

大きく息を吸って吐く。やっとのことで決心し、襖を開けた。


「いらっしゃい、水音ちゃん」

「こんにちは」

「ようこそ。そこに座ってくれ」

中では織火と木織が正座をして待っていた。織火は薄桃の着物、木織は深緑の袴姿。滅多にない和装だった。

当主の二人だけでなく他の合格者も集まっている。話し声で緊張感はさほどない。美煉や舞花も既に来ていて、手を振ってくれた。

私は手を振り返すと、織火に言われた通りに畳の上に座る。い草の匂いに不思議と落ち着いた。


「これで全員揃ったな。話を始めよう」

室内が静寂に包まれる。その変化に全員が反応して、自然と姿勢を正した。

「合格した十五人の皆、おめでとう。これで白天士の一員となる訳だが、此処で安心してはならない。今後も訓練を継続し、悪魔討伐に励んで欲しい。よろしく頼んだ」

「はい!」

流文、麦、舞花、美里、美煉、彩奈、俊佑、私を含む合格者十五人が大きく返事をする。


それを見た織火と木織が顔を見合わせて頷き、屏風の裏から段ボールを引き摺り出した。コートやベルト、拳銃までチラリと見えて「うえっ」と小さく声が出る。

「白天士必須の備品たちを紹介する。後でちゃんと配るから、しっかり耳に入れること。じゃあ木織よろしく」

「また僕なの?」

入団式でも【白天】の話を担当していた木織はため息を吐きつつ、段ボールから取り出した備品を紹介してくれた。



一つ目はコート。天界特注なので、特殊な生地を使用していて破れにくい。多少ではあるが魔術耐性もあり、コートで体を守る事が可能だ。ベルトに付けている小物が見えないよう、どのコート丈も腰が隠れるくらいに統一されている。


二つ目は拳銃。こちらも天界特注のもの。簡易武器の一種で、緊急時に用いる。いざという時に使えるように、白天士全員の所持が義務付けられている。簡易タイプなので数回の使用で壊れるが、威力は半端ない。そのうえ、消費魔力も最低限で問題なく使える。弾丸も悪魔のみ攻撃が通るよう細工が施されている為、人間は撃たれても無傷で済むというのもポイントだ。


三つ目はミニ救急箱。ガーゼに絆創膏、消毒液、包帯、その他諸々が詰まった便利なもの。これらが有れば、一時的な応急手当が可能となる。また、ベルトに装着できるミニサイズで使いやすいのが特徴だ。


四つ目はベルト。天界特注品パートスリー。壊れにくい特殊な革と金具を使用して作られており、耐久性に優れている。拳銃やミニ救急箱の装着、これは人によるが剣などの武器を携えるのに使う。


五つ目は簡易武器。拳銃とは別口で、希望者のみ支給される。小型の槍や火薬玉など種類豊富で、私が第一試験で夜星に借りたナイフもある。

これに関しては貰うも貰わないも自分次第だが、「貰わずに後悔しても自己責任だよ」と木織から忠告を受けた。

私はナイフを貰うつもりだ。使い方は既に分かっているし、自分と相性が良い気がする。

直感だけど!



「はい、紹介終わり。今から順に配るので、名前を呼ばれたら前に来てね」

「まず流文から」

「はい」

少し強張った顔つきで流文は立ち上がり、二人の方へ足を運ぶ。彼が備品を受け取って戻って来ると同時に美煉が呼ばれた。

彼女も相当だった。握り締める拳に、かなり力が籠っている。


何もそんなに緊張することないのにね。

部屋に入るまで異常に緊張していた私が思う事でもないのだが。そう考えている内に私も名前を呼ばれた。何事もなく備品を受け取って、簡易武器にナイフを希望する。

木織が段ボールからナイフを出してくれている間、織火に囁かれた。

「なあ、水音は緊張しないのか」

「……別にしませんけど」

「そうか。やっぱり姉妹だな」

織火が苦笑する。私は意味が分からず「どういうことですか」と尋ねた。すると木織が段ボールを漁りながら教えてくれる。

「皆、僕らを吃驚する程に尊敬しているんだよね。だから面と向かって話すのも緊張するみたいで、誰もが無理した顔をするんだけど……水音ちゃんと花彩ちゃんだけは澄ました顔で僕らを見てる。はい、これね」

鞘に仕舞われたナイフを貰う。軽くて持ちやすい。あの時の感覚が蘇った。


合格者全員への受け取りが終了した。最後に織火から話があるらしい。

「皆の初仕事は来月からになるので、それまでは自分の学校に行って欲しい。義務教育だからな。通う間に悪魔の情報が出れば集めろ。遭遇すれば討伐してくれ。詳しい話は依雲に聞くこと。以上、解散」

解散が言い渡され、皆がバラバラと部屋を出て行く。私も寮に戻らなくては。正座していた影響で痺れた足が治り、私も漸く立ち上がる。

「水音ちゃん、一緒に帰ろう」

背後から声がした。振り返ると、すぐ其処に美煉がいた。いつの間にか背が伸びて、視線も近くなったように感じられる。



【白天】に来て、もう半年以上が経過した。美煉たちにとって此処は自分の家で、帰る場所なのだろう。でも私は、此処は住まわせて貰っている、皆と時間を共有する場所だと思っている。自分の家は、やっぱり彼処だ。家族と過ごしたあの家だ。

この認識の違いは何だ。私はおかしいのか。


「水音ちゃん、どうしたの?」

「あ、ううん。帰ろうか」

私は適当に誤魔化して、美煉に合わせる。この空気に調和するように。

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