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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第一幕 はじまり
17/60

ご褒美

更新遅れました。申し訳ないっ


そして、いいね付けて下さっている方、ありがとうございます。励みになっております。

さらに、アクセス600になりました!

ユニークも300間近。頑張るぞ〜

長い梯子を登ってやって来たのは寮の屋根の上。其処は流文だけの、お気に入りの場所である。とにかく見晴らしが良く、【白天】全体を見渡すことができるのが魅力的だ。青空に浮かぶ雲がすぐ近くにあるような感覚が、なんとも不思議だった。

「いいだろ、ここ」

「うん。すごく綺麗」

北風が吹き付けると、麦がくしゃみをする。もう二月に近づいていて寒いけれど、この景色が見られるなら気にしない。


屋根の安定した所に座り、木織に貰った箱を開ける。ひよこのケーキが顔を出した。

「お、やっぱプリンじゃん」

この可愛いひよこのスイーツには、スポンジケーキの中に名古屋産の卵を使用したプリンが隠されているらしい。初めて見たが、美味しそうだ。


麦が紙コップに紅茶を注ぎ、私と流文に渡してくれる。温かい。寒い冬にはぴったりだ。この香りもいい。

プラスチックのスプーンとひよこのスイーツを手に取って、やっと食べられる。

「いただきます」

スプーンでつつくと、プルプルと横に揺れた。顔が愛らしくて勿体ないので、背中から手を出すことにした。プリンは滑らかな食感で、口の中でじわじわと溶けていく。美味しい。時折、紅茶を挟むとより美味しい。



ひよこの可愛さより美味しさが勝ち、すぐ完食してしまった。流文も同じく食べ終わり、紅茶を啜っている。麦はというと、顔だけ残ったひよこと睨み合っていた。食べるか食べまいか葛藤中だ。

数分後、やっと心に決めたようで、ひよこは麦の腹の中へ吸い込まれていった。




「ありがとな」

紅茶も空になった頃。突然、流文が言った。私と麦は顔を見合わせて首を傾げる。

「第一試験の時、お前らに助けられたから」

そういう流文の瞳は優しさに満ちていた。以前までの暴君な性格は嘘みたいだ。いつの間に急成長したのだろう。

「私は何もしてないよ」

麦が否定しているけど、そんなことはない。あの時、麦は確実に、悪魔の体力を削いでいた。ただ皆を守るために、天術を連発していたのだ。

「麦ちゃんも朝霞君も頑張ってたよ。二人が攻撃して足止めしてくれたお蔭で、私は悪魔を倒せた」

これだけは嘘じゃない。二人は「そう?」と言いつつも嬉しそうだった。


波乱の展開に転じた第一試験。誰か一人でも欠けていたら、きっと怪我人や死者が増えていただろう。そんな最悪のパターンを阻止できた私たちだからこそ、期待されている。



暫くの沈黙。それを流文が断ち切る。

「少なくとも、俺は俊佑、水音、麦を信用している。頼っていいと思ってる。だから、その……下の名前で呼んでくれないか」

彼は躊躇いがちに言う。流文的に、下の名前で呼んでいいのは信用できる人だけらしい。

最初の頃は俊佑にもきつく当たっていたのに、今ではすっかり仲が良いんだ。何だか微笑ましいな。


「じゃあ、流文君。改めてよろしく」

「よろしくね。流文君」

私と麦が手を差し伸べると、流文が両手でそれを握り締めた。力が籠る感覚が伝わってくる。これが握手だ。

「よろしく頼む」

これで流文は、正式な友達として認定されたのだった。



ドタドタドタ!

下の方から足音が聞こえてきた。三人で屋根から地上の様子を見下ろす。

「おおい、流文! 何やってんだよ其処で!」

俊佑が此方に向かって叫んでいた。こんなに離れているのに声がよく通る。怒り狂った姿は初見だ。やっぱり屋根の上は逆に目立って良くなかったかもしれない。

「おっと。面倒な奴に見つかったな」

「誰が面倒だ、聞こえてるぞ!」

すごい地獄耳だ。それに滅茶苦茶怒っている。


「これ、大丈夫なの?」

「たぶん……うあ」

下を向いた流文が変な声を出す。私は嫌な予感がして、もう一度、地上を見てみる。其処にいたのは、怒りの炎を燃やしまくる織火だった。フォーマルな装いに、派手な赤色のスーツケースがある。どうやら出張帰りらしい。


「流文! お前さては、ひよこのアレを食べてるだろ!」

屋根の上まで見えるのだろうか。何を手がかりに言ったのか知らないが、大正解だ。

「師匠に貰った」

「はああ⁉︎」

事実を言っただけなのに、何故か喧嘩はヒートアップしていく。流石にそろそろ止めた方がいい。でも、それに私より先に気付き、動いた者がいた。


「あ、あの、ご褒美に頂いただけなので」

麦である。サッと仲介に入った。織火の怒りは一瞬で消え、口角が上がる。

「ごめん、取り乱した。木織への怒りを流文にぶつけただけだから問題ない。で、木織は何処にいるか知らないか?」

「モニター室で会いました」

「よし、じゃあまたな」

私が正直に答える。それに織火は満足したのか、スーツケースを引き摺りながら、訓練所の方向へ走って行った。怒鳴り散らされるであろう木織が気の毒だが、仕方がない。


「あ、嵐が去った」

流文はとびきり大きなため息を吐く。麦も安堵の表情だ。決して怒られることはなく、私も安心した。それも束の間である。

「で、流文! 何してるんだよ!」

下にまだ俊佑がいた。中々しぶとい。粘り強い性格が、悪い方に向かっているような。

「佐倉も宮本も、昼食どうすんの!?」

「あ」

プリンで小腹が満たされたものだから、昼食の存在自体を忘れていた。軽くは食べた方がいいだろう。体に悪い。


梯子を伝い、屋根から下りる。ちょっと久しぶりの地上だ。

「それで、何してたの?」

俊佑は未だに諦めていなかった……! 流文も流石に、黙り通すのをやめた。

「第一試験の褒美を食ってたんだよ。師匠に、木織にこっそり食えって言われて屋根の上にいたんだ」

「逆に目立ってたけど」

なんとなく思ってはいたが、やっぱり屋根の上、こっそりとは言えなかったみたい。流文は「嘘だあ」というような疑いの目を俊佑に向ける。それを見て、俊佑はスッと顔を逸らした。

「ま、見つけたのが僕で良かったんじゃない? ほら、桜咲とか、たぶん織火さんと同じタイプだろ」

「あ〜……」

この場にいる全員が納得する。あの二人は色々と似ている所があるからだろう。



「そういえば、水筒どうしよう」

依雲から貰ったが、水筒は返さなければならない。でも、もうすぐで昼食時間が終わってしまう。それに、織火がツノを生やしている状態だ。今からモニター室に行くのは気が引ける。

「後回しだ。おし、食堂行くか」

流文が速攻で後回しに決める。私たちは寮の食堂へ向かって歩き出した。

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