第2章-3
【8月9日 金曜日 高木すみれ】
甲子園球場に入ると、中はものすごい熱気だった。常浜高校は強豪校だし、相手もそこそこ強い。しかも地元の高校。ついでに言うと、この前の第2試合も近くの高校だった。
ちょうど入れ替わりの時間帯だったから、席自体は結構空いてた。一塁側内野席の上から3段目に、3席空いているところを見つけ、急いで座り込む。
左から、結衣さん、私、香織の順。……やばい。挟まれてしまった。
「すみれ先輩っ、すみれ先輩っ」
座った瞬間から、結衣さんはこんな感じだった。
「すみれ先輩は好きな選手とかいるんですかっ?」
「うーん……よくわかんない」
「私は断然、常浜の津川ですねっ」
「それ結衣さんのお兄さんだよね?」
「そうですけど何かっ?」
ずーっとこの調子。それは試合が始まっても変わることはなく、
「すみれ先輩っ、今のファールフライ凄かったですよっ」
「すみれ先輩っ、見逃し三振ですよっ!あれは打てないですねっ」
「すみれ先輩っ、センターオーバーで二塁打ですよっ!」
少しは静かになるかと思ってたけど、むしろうるさくなった気がする。
5回裏が終わってグラウンド整備のときに、
「あ、ちょっと焼きそば買ってきていいですかっ?」
と言って結衣さんが席を立ったときは、ほっと胸をなで下ろした。
「はあー……」
思わずため息をつきたくなる私の気持ち、分からない人はいないと思う。
「なんであんな人連れてきたの?」
「聞きたい?」
「別に聞きたいってほどじゃないけど」
「じゃあ言わない」
「お待たせしましたーっ!」
結衣さんが戻ってきた。安息の時間、終了。
「すみれ先輩っ、津川がバッターボックスに入りましたよっ!」
「すみれ先輩っ、二塁ランナーの上野がリード取りましたよっ。あれは盗塁ですねっ」
「すみれ先輩っ、センターフライですよっ!あの山口をセンターフライですよっ!」
後半に入っても結衣さんはこの調子。というかさっきより「っ」が増えてる気がするんだけど。
試合結果は、3-0で常浜の勝ち。
……正直に言うと、結衣さんがうるさくて集中できなかった。まあ結衣さんは試合を見て興奮してただけだから、非はないんだけど。
で、帰りの新幹線でも結衣さんは結衣さんだった。
「すみれ先輩っ、2回の津川のダイビングキャッチ見ましたっ?」
「すみれ先輩っ、8回の3ランは凄かったですよねっ」
「すみれ先輩っ、6回の中野のショートゴロは残念でしたねっ」
結衣さん、よく覚えてるね。私は結衣さんがうるさくて集中できなかったのに。
「まもなく、新常浜、新常浜。常浜線と、常浜市営地下鉄線はお乗り換えです」
このアナウンスが入ったところで、ようやく結衣さんが静かになった。
……かと思いきや。
「今日はありがとうございましたっ!」
今日一番の音量で挨拶された。多分車両の端まで聞こえたと思う。




