第2章-2
【8月9日 金曜日 相原孝行】
高校3年生にとって、夏休みほど忙しい時間はない。
そして、夏休みほど暇な時間はない。
「次の英文の空欄にあてはまる最も適切な語句を、語群から選べ。」
「日本の選挙制度に関する次の説明について、正しければ○、誤りがあれば×を答えよ。」
「傍線部1の理由を説明したものとして最も適切なものを、次の中から選べ。」
俺は夏休みの時間のほとんどを、過去問演習に充てていた。
そしてそれが、唯一の暇つぶしだった。
俺が住んでいるのは、栃川から電車で30分の位置にある、常浜市風和区奈良浜。野球好きの間では、「常浜高校の近く」といえば通じる位置である。
そういえば、7月の末に常浜高校の前を通りかかった時、「祝 全国大会出場 野球部」という垂れ幕がかかっていた。やはり常浜強し、県立さくらは足元にも及ばない、などと熱烈なファンは言うのだろうか。
全国大会はすでに始まっている。新聞には、今日の対戦カードが書かれていた。それによると、常浜は今日が初戦、相手は関西の学校だった。
もちろんそんなものには興味はない。常浜が勝とうと負けようと、それは一部の野球ファンと常浜高校関係者だけに関係のあることだ。さくら高校の生徒である俺には、まったく関係がない。それよりも1月のセンター試験、2月の一般入試をどう戦うかのほうが肝心である。
……色々と詭弁を並べてきたが、実のところ、「みんなで力を合わせて戦う」という概念が、どうにも理解できないのである。
小学生のころから常に1人だった俺には、1人で戦うほうがよほど慣れている。




