学園アイドル三人衆(一人自称)
「ふぅ、満腹満足……」
サラ達が作ってくれた最高の昼食を食べた後、遺跡の屋上へと登り、双眼鏡で遠くを眺める。
その行為は、この遺跡を拠点とした時から、俺が繰り返して居る日課。
遺跡には監視システムがあるので、俺が監視をする必要は無いのだが、ここから見える景色が好きなので、毎日足を運んで居た。
「いやぁ……今日も良い天気だなぁ」
屋上に設置していた椅子にだらりと座り、大きくあくびをする。
雲一つない青空。心地良い風が俺の頬を撫でる。こういう日は何も考えずに、ダラダラと過ごすのが一番だ。
「最高だぁー。敵が来なくて最高だぁー」
気分が良くなったので、オリジナルの歌を適当に歌い始める。
「飯も旨い敵も来なーい。よぅ! ようよぅ……」
歌の途中で、ピタリと動きを止める。
この気配……もしかして、後ろに誰か居る?
「あら、もう歌わないの?」
その声を聞いて、身体中に電撃が走る。
どうやら、最も聞かれてはいけない人間に、歌を聞かれてしまったようだ。
「流石はキモオタね。聞いて居るだけで、悪寒がする歌だったわ。この歌を歌い続ければ、戦争をしなくても世界が滅ぶんじゃないかしら?」
「そ、そこまで言うか……」
「仕方ないじゃない。真実なのだから」
視線を落としてガックリとうなだれる。
リズに見つかるまでは、あんなに気分が良かったのに……
「どうしたの? お腹でも痛い?」
「いや、痛いのは心だよ」
「ふうん。ミツクニの心は何色かしら?」
……あっはい。
どうしたの? 頭でも打った?
「もしかして、暇なのか?」
「暇よ」
「ああ……そうですか」
それだけ言って、やれやれとため息を吐く。
どうやらリズは、俺を茶化して暇を潰そうとしているようだ。
逆に俺は、サラ達が来るまで暇が無かったので、たまには一人でゆっくりしたかった。
「リズよ」
「何かしら?」
「俺は今、敵が来ないかを監視して居る。邪魔をしないでくれないかな」
「あら、私と一緒じゃ嫌なの?」
リズがゆっくりと移動して、俺が座って居る椅子の手すりに座る。
「今までずっと離れて居たから、たまには一緒に居たいじゃない?」
……マジですか?
いや! 騙されてはいけない!
これは、リズのお色気トラップだ!
「そそそそ、そんなの冗談だろう?」
「そう思う?」
ガクブルしている俺を挑発するリズ。フフッと笑った後、上から俺の顔を覗き込む。
「リ、リズ!?」
「黙って」
リズが真っ直ぐに見つめて来る。
顔が近い! 凄く近い!
これはあれですか! 定番のあれですか!?
(ええい! ままよ!)
俺は流れに任せて目を閉じようとする。
そんな時だった。
「ミーツークーニィィィィ!!!!」
どこからか聞き覚えのある声が響く。
次の瞬間、目の前に巨大な炎の渦が現れた。
(この爆炎は……)
前に見た事がある。
確か魔法学園で、二人目の勇者ハーレムに出会った時だ。
そうなると、この炎を操って居るのは……
「昼間からイチャイチャしてるんじゃないわよ!」
炎の渦と共に空から現れる女子。
彼女の名前はエリス=フローレン。
魔法学園の人気ツンデレヒロインだ。
(……最悪のタイミングだ)
爆炎を纏ったエリスが、俺めがけて真っ直ぐに飛んで来る。
こいつはヤバい! まともに食らったら確実に死ぬ奴だ!
「またこの展開かよ!」
今回はいつも助けてくれるシオリが居ない。そして、横に居るリズは絶対に助けてくれない(確定事項)。
これは……本当に死んだかも知れない。
「……仕方ないわね」
ぽつりと言うリズ。
次の瞬間、俺達の前に魔法障壁が現れる。
その障壁は炎を簡単に掻き消して、激突したエリスを遺跡の外まで吹き飛ばした。
「……なあ、エリスが飛んで行ったんだが」
「良い気味だわ」
「お前……エリスが居るのを分かっていて、わざとお色気トラップを仕掛けたな?」
「さあ、何の事かしら?」
とぼけた表情を見せるリズ。
やはり、エリスが居る事を分かって居たようだ。
「お前なあ、いくら暇だからって、勇者ハーレムを茶化すような真似は……」
「ミーツークー二ィィィィィィ!」
話の途中で割り込んで来る黄色い声。
この声も聞いた事があると思、ため息混じりに空を見上げる。
「この世に蔓延る悪の使徒! この魔法少女マーリン様が……!!」
「ぽーい」
間髪入れずにスタングレネードを投げる。
爆発。
閃光が魔法少女の目に突き刺さった。
「バル○!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫と共に遺跡の下へと落ちて行く、マーリン=デスゲイズ。
やれやれ、賑やかな人達だなあ。
しかし、これで俺とリズの邪魔をする奴は、居なくなったぜ……
「ミ・ツ・ク・ニ・君!」
突然後ろから首に手が回る。
ふわりと香る花の香り。
ちょ! 今は横にリズが居るから!
「ふふ……今の光、昔を思い出すなあ」
この透き通った綺麗な声は……
……誰だっけ?
「ど、どちら様でござるか?」
「あれ? 分からない?」
後ろの女子が俺の頬をツンツンする。
この馴れ馴れしい感じは、もしかして……
「ネール……」
「邪魔ね」
ぽつりと言って魔法陣を展開するリズ。それに少し遅れて、俺の首から手が外れて、女子がクルクルと宙に舞う。
予想通り、俺の後ろに居たのは、魔法学園のアイドル、ネールキャラバンだった。
「あれー?」
落ちていく。
魔法学園のアイドルが、何の前触れも無く遺跡の外に落ちていく。
「……大丈夫なのか?」
「あれでも魔法学園の生徒よ。死にはしないわ」
「それなら良いけど」
それだけ言って、ため息を吐く。
やれやれ、何と言う一日だ。
リズと勇者ハーレムのせいで、俺のまったりとした午後が台無しだ。
「それにしても、あの三人はどういう編成だ?」
「それは、どういう意味かしら?」
「何というか、あの三人には繋がりを感じないんだが」
「確かにそうね」
二人で首を傾げて見せる。
「わ、私達は……!」
屋上の端から声が聞こえてくる。
どうやら、誰かが頑張って壁を登って来ているようだ。
「私達は! 魔法学園のアイドル三人組ぃ……!」
「ぽーい」
スタングレネード投下!
「バ○ス!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
魔法少女が再び落ちて行く。
まあ、エリスとネールが学園アイドルなのは知って居るよ。
だけど、マーリンはどうでしょうね?
俺的には出会った時から出オチキャラなんだが。
「ア、アンタ達ねえ……!」
拠点の中から金髪ツインテールが現れる。
「会っていきなり攻撃とかどうなのよ!」
「最初に攻撃して来たのはエリスだろ?」
「う、うるさいわね! イチャイチャしてたアンタ達が悪いのよ!」
いやいや。あれはリズの罠だから。
まあ、それを言った所で、エリスは信じてはくれないだろうけど。
「エリス」
彼女の名前を呼び、椅子から立ち上がる。
「また会えて嬉しいよ」
そう言って、にこりと笑う。
すると、エリスは顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。
「……べ、別に会いに来た訳じゃないわ。戦いに来たのよ」
「うん。それでも、会えて嬉しい」
「そ、それは……私も……」
もごもごしながら俯くエリス。相変らずのツンデレっぷりだ。
ああ、懐かしいなあ。
まるで、魔法学園に戻ったみたいだ。
「と、とにかく! 私はミツクニと戦う為に……」
「それは出来ないみたいだよー」
後ろから軽い口調の声が聞こえる。
振り向いた先では、ネールが屋上の手すりに乗って、遠くを眺めていた。
「あれは……」
椅子の横に置いていた双眼鏡を手に取り、示された方向を眺める。
そこに見えたのは、砂ぼこりを巻き起こして進軍して来る、人間側の軍隊だった。
「……ラプターね」
そう言って、リズが表情を曇らせる。
ラプター。人間側の対魔物軍隊。
遂に本腰を上げて攻めて来たのか?
「あれ? 何か変だなあ?」
おでこの上に手を乗せながらネールが言う。
「何が変なんだ?」
「兵隊さん達が鎧を着ていません」
それを聞きいて、双眼鏡の倍率を上げてみる。
そこに見えた兵士達は、鎧では無く法衣のような物を着ていた。
「あれはアンデット特攻部隊よ!」
それを言ったのは、再び頑張って外壁を登って来たマーリン。
「帝都には色々な魔物に適した部隊が存在しているの!」
なるほど。
つまりあれは、俺達が使役しているスケルトン専用の兵隊という訳か。
「なあマーリン。あの兵隊達は、そんなにアンデッドに強いのか?」
「浄化呪文で瞬殺だろうね!」
「それは困ったなあ。今の俺達には、スケルトン以外の足止め方法が無いんだが」
いざとなったら全員で攻撃すれば良いのだが、それでは相手を傷付け過ぎてしまう可能性が高い。
……だって、今この遺跡に居る人達、手加減が出来ない面子ばかりだから。
「スケルトンが浄化されなければ良いの?」
それを言ったのは、手すりの上に立って居たネールだった。
「出来るのか?」
「多分ね。要は相手の浄化魔法を、無効化すれば良いんでしょ?」
そうなのか? と、リズを見ると、リズは黙って頷いた。
「それじゃあ、お願いしたい」
「うん、良いよ」
あっさりと承諾してくれるネール。
ええと、君達は俺を倒しに来たんじゃなかったっけ?
「ふっふっふ……腕が鳴るぜぇぇぇぇ!」
腕をブン回して元気に笑うマーリン。
「仕方ないわね。手伝ってあげるわよ」
ふうとため息を吐くエリス。
「私は手伝わないわ」
バッサリと言い切るリズ。
おかしいな? この中で仲間なのは、リズだけなはずなのだが?
(……まあ良いか)
そう思い、小さく笑う。
敵はアンデット特攻部隊。それに対して、こちらは魔法学園のアイドル三人に、キモオタとスケルトン軍団。
この異色の組み合わせで、ラプターを追い返してやろうじゃないか。




