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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界戦争編
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ダンシング百鬼夜行

 俺達がスケルトンで足止めしている事を知ったラプターは、そのスケルトンを一掃する為に、特化部隊を編成して来た。

 本来ならばそれに合わせて、自分達も有利な部隊を編成すれば良いのだが、寄せ集めである俺達に、そんな都合の良い部隊は作れない。

 しかし、俺達には『異世界テンプレ』と言う名の加護がある。

 このピンチの状況で、それを覆せる人間が都合良く現れた事が、その証拠だった。


「皆さーん! 準備は良いですかー!」


 遺跡の屋上から下に居る俺達に手を振る、ネール=キャラバン。

 彼女は勇者ハーレムの一角で、魔法学園のアイドルである。

 以前は舞台照明の件で俺に絡んで来たのだが、それ以外の会話が無かったので、俺は彼女の能力を未だに知らない。

 本人が言うには、相手の浄化魔法を無効化出来るらしいのだが……


(あれは……?)


 魔法で屋上にステージを作り、フリフリの衣装にチェンジするネール。

 その姿を見て、ピンと来てしまう。


(ああ、そうか。アイドルだもんなあ)


 アニメや漫画好きの人間ならば、この状況を見た時点で気が付くだろう。

 間違いない。これは……ライヴだ!!


「よーし! 皆! 行くよー!」


 ステージの後ろから爆炎が巻き上がる。

 それと同時に、ミントがスケルトンの軍勢を遺跡前に召喚した。


「ワン! ツー! ワンツースリーフォー!」


 ネールがマイクを手に取る。

 この後は、アイドルらしいポップな歌が始まるのだろう。

 ……そう思っていたのに。


「ああああああああ……!」


 遺跡に轟く、布を切り裂いたような声。


(……そう来たか)


 ネールが歌いだした音楽のジャンル。

 まさかのデスロック!


「落ちる太陽ぉぉ! 割れる大地がぁぁぁぁぁ!」


 張り裂けそうなイエローボイスに連動して、背景のレーザーが左右に動く。


「踊れ! 踊れ! 死の舞をぉぉぁぁ!」


 マイクスタンドをグルグルと回して、近くにあった椅子を蹴り上げる。

 ステージは完全にお祭状態だ。


「飛べ! 飛べ! 飛べぇぇぁぁ……!」


 ネールの歌に導かれるかの如く、飛び跳ねながら敵陣へと向かう、スケルトンの大軍勢。

 歌の能力のせいなのかは分からないが、仄かに黒いオーラを纏っていた。


(バリアみたいな能力なのか?)


 スケルトンが射程に入ると、ラプターが三部隊に分かれて、囲むように浄化魔法を放つ。

 地面から湧き上がる白い光。それに包まれるスケルトン。

 しかし、スケルトンは浄化されなかった。


「盛り上がって来たぜぇぇぁぁぁぁ!!」


 ステージ上で発狂するネール。それに呼応するかのように、ウエーブを始めるスケルトン達。

 命を掛けて戦うはずの戦場は、完全にネールのコンサート会場と化していた。


「ムズムズムズ……」


 いつの間にか横に居た、魔法少女のマーリン。

 目立ちたがり屋の彼女も、ついに限界を迎えたようだ。


「私もぉぉぉぉぉぉ!」


 魔法のステッキ振って宙に舞い、ステージ上に飛び降りる。そして、ステッキをクルリと回すと、ステッキがギターへと変化した。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!」


 タイミング良く始まるギターソロ。

 ステッキギターはエレキの音をかもし出し、メタルミュージックのように、機械的で深い重厚感を与えていく。


 爆発するステージ。

 頭を振り出すスケルトン。

 止まらない。

 波に乗ったスケルトンの軍勢は、浄化魔法ごときでは止まらない。


「エリスゥゥゥゥ!」


 ステージ上でネールが呼びかける。

 振り向くと、苦笑いでステージを見て居るエリスの姿があった。


「エリス、呼ばれてるぞ」

「知ってるわよ」


 エリスが下を向き、小さくため息を吐く。


「全く、どうして私がこんな事を………」


 ぶつぶつ言いながら屋上に飛ぶエリス。くるりと回って着地した後、呪文を詠唱する。

 現れたのは、炎に包まれたドラムセット。


「行くわよ!」


 手に持った炎のスティックをクルクルと回し、ドラムを叩き始める。

 もの凄いリズムを叩き出しているようだが、音楽素人の俺には、神業としか表現出来なかった。


(流石は魔法学園のアイドル達……)


 その光景を見て、思わずため息が漏れる。


「やっぱり、勇者ハーレムは凄いなあ」

「何普通の感想を言っているのよ」


 俺の横でステージを見上げているリズ。

 その手には、ベースを持っていた。


「……リズ。お前」

「暇なのよ」


 屋上へと飛び立つリズ。

 心なしか背中がウキウキしているのは、気のせいでは無いようだ。


(それにしても……)


 ボーカルにアイドルのネール。

 ギターは魔法少女のマーリン。

 ドラムは炎を纏ったエリス。

 ベースはいぶし銀のリズ。


「これは……金が取れそうだな」

「私もそう思う」


 横でベルゼが同意してくる。

 彼は機械なのだが、そういうのも分かるんだな。


「マスター。そろそろ我々も仕事をしよう」

「ああ、そうだな」


 ベルゼに促されて、置いてあった袋から武器を取り出す。

 取り出した武器は、スナイパーライフル。

 俺はそれを背中に背負うと、ミントに捕まって屋上の端に降り立った。


「ベルゼ。見えるか?」

「ああ、今マークする」


 ベルゼがスナイパーライフルに信号を送る。すると、覗き込んだライフルのスコープに、敵の兵長達がマーキングされた。


「それじゃあ、予定通りに」


 俺達が考えた作戦。

 スケルトンで兵達を足止めをして、その隙に各兵長を落とす。

 兵長を失った部隊は、統制が取れずに撤退する。

 それが狙いだった。


「さてと……」


 スナイピングを始める前に儀式を行う。

 それは、俺自身のスナイプ能力を、極限まで高めてくれる儀式。

 そう。魔物の里でも行った『自分を下げて冷静さを保つ儀式』だ。


「俺はゴミ……ゴミ野郎だ……」


 ブツブツと言いながら、気を静めていく。


「学校ではいつも一人……唯一心が休まる場所は、トイレだけ……」


 悲しい過去を思い出して、心を深くに沈める。


「一番の友達はパソコン……ゲーム内チャットはしない……」

「左三センチ。上一センチ」


 ベルゼのナビに従って引き金を引く。

 放たれた銃弾は風を切り裂いて飛び、兵長の足を貫いた。


「得意な事は紙飛行機を作る事……」

「下二センチ。右五ミリ」


 このスナイピング。やっているのは俺自身だが、やり方が普通では無い。

 何故ならば、ベルゼが俺の感覚を読み取ってナビをして、その通りに撃って居るだけだから。

 それで弾が当たるのだから、ベルゼのナビが尋常じゃない事が良く分かる。


「凄いのはベルゼ……俺はキモオタモブ野郎……」


 気持ちを沈めて無心で撃つ。

 兵長を次々と失い、統制が崩れ始める軍隊。その軍隊をスケルトンが踊りながら押し返していく。

 その光景を見て、ポツリと言葉を漏らした。


「ダンシング百鬼夜行……」


 攻めて来た相手をあざ笑うような作戦。立場が逆だったら、本当に腹が立つだろうなあ。

 だけど、これでお互いの被害が少なく終わるのだから、それで良い。

 汚名やクレームは、全て俺が受け持とう。


「うん、とても良いライブでした」


 そう言って、俺は敵の大将の脇腹を撃ち抜いた。



 敵は全て撤退して、広い荒野に日が沈む。

 他の仲間達は遺跡内に戻り、拠点の入り口に居るのは、俺とエリスの二人だけ。

 俺はふうと息を吐いた後、小さく微笑んでエリスの事を見る。


「本当に、魔法学園に戻るのか?」


 その言葉を聞いて、エリスがふっと笑った。


「私が居なくても、ここは大丈夫でしょ?」


 金色のツインテールがふわりと揺れる。

 本当に綺麗だ。

 初めて会った時も思ったが、彼女が勇者ハーレムだと思うと、ヤマトに対しては嫉妬の念しか生まれてこない。


「私も帰るよ! ここは悪の居城だからな!」

「ぽーい」

「目が! 目がぁぁぁぁぁぁ!」


 今魔法少女的な何かが通り過ぎたが、幻影だろう。

 それよりも、エリスだ。


「ヤマトの事、よろしく頼む」

「そうね。あの子は強くなったけれど、まだ危なっかしいから」


 魔法学園に居た時もそうだった。

 エリスはどの勇者ハーレムよりも、ヤマトの事を心配してくれる。

 俺にとってはエリスこそが、ヤマトの本命ヒロインだった。


(だからこそ、ヤマト許すまじ!)


 こんな可愛い子でさえも、勇者ハーレムの一角。本当に極悪なシステムだよ。


「そうだ。これを……」


 ポケットからコインを取り出してエリスに渡す。


「これは?」

「俺の世界のお金。五円玉って言うんだ」


 麦の刻印が施された輪っか型のコイン。

 刻まれている年号は、平成七年。


「まあ、お守りみたいな物だよ」

「ふうん」


 エリスは五円玉を受け取ると、胸のポケットにしまう。

 そして、俺を見て無邪気に微笑んだ。


「私、男子からプレゼント受け取るの、初めてよ」

「嘘だろ? あんなにモテモテなのに」

「人からプレゼントを貰わない主義なの」

「ヤマトからも貰った事が無いのか?」

「そう言えば……無いわね」


 それで良いのか勇者よ。

 しかし、一人のヒロインに入れ込んだら、他のヒロインとの間が持たなくなるかも知れないし、それはそれで良いのか?

 それ以前に、あのヤマトだもんな。


(プレゼントなんて、思いつかないだろうよ)


 無償でハーレムに支えられて居る勇者様。

 だけど、それこそが勇者である証拠。

 まあ……その勇者も実は女の子だけど。


(そして、俺以外はその事実を知らないと)


 そう思い、鼻で笑ってしまった。


「それじゃあ、私は行くわね」


 軽く手を振って背を向けるエリス。

 フワリと風が吹き、彼女の背中を優しく押す。

 そんな後ろ姿を見て、俺はほっこりとした寂しさを感じてしまった。

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