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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界放浪編
64/157

戦乱の赤月

 赤い月。

 世界を滅ぼす予言の凶兆。

 それと同時に報告された事態は、それこそ世界を滅ぼすに値する事態だった。


「……まあ、何だ」


 強硬派の王、アーサー=サニーホワイトが残念そうにため息を吐く。


「お前の気持ちは分かる。だが、起きちまった事は仕方が無い」


 人間側の王暗殺。

 しかも、暗殺したのは魔物。

 ここから考えられる展開は、絶望的だ。


「恐らく、人間達は直ぐに報復して来るだろう。しかも、今までに無い規模でな」


 魔物と人間の確執。そこから起こる戦争。

 しかも今度は、人間側にも戦を起こす理由がある。

 この戦は、絶対に止まらない。


「俺達強硬派は、穏健派の奴らに会って共同防衛態勢に入る。ここは慌ただしくなるだろうから、お前等は早めに街を出ろ」


 それだけ言い残して、アーサー達がベランダから出て行く。

 取り残されたのは、ヤマトと俺と仲間達。

 その誰しもが、言葉を失っていた。


(何で……こんな事に……)


 呆然としながら、手に持っている二つの指輪を眺める。

 魔物と人間を繋ぐ、想いの籠った指輪。

 その指輪に施されている太陽とハートの紋章が、泣いているように見えた。


「ミツクニ君……」


 不安そうに見つめて来るヤマト。

 そんな時、ポケットに入っている連絡用の手帳が鳴り響く。

 呆然としたまま手帳を取ると、懐かしい声が耳に響いて来た。


「私よ」


 挨拶も無い不躾な言葉。それを聞いて、俺は安堵の息を漏らす。


「リズ。久しぶりだな」

「時間が無いの。用件だけ話すわ」


 言いたい事は沢山あったのだが、リズの真剣な口調に封殺されてしまった。


「まず、国王が暗殺されたわ。首謀者は、商業組合に雇われた魔物よ」


 それを聞いて、胸が締め付けられる。


「街での姫強襲。城での姫暗殺。これらは王から姫に意識を向かせる為のダミーだったようね。それを利用して、王の警備が薄くなった所に魔物を送り込んだ。してやられたわ」


 手帳の奥でリズがため息を吐く。

 淡々と話しては居るが、殺されたのは彼女の祖父だ。悲しくないはずが無い。


「リズ、お前……」

「良いから、黙って聞きなさい」


 言葉を遮って話を続けようとするリズ。その行為でリズの心境が読み取れてしまい、辛くなる。


「私達が集めた情報のおかげで、暗殺が商業組合の陰謀だとは分かったわ。だけど、私達がそれを公表する前に、商業組合の奴等は国民を先導して、報復部隊を結成した。今真実を暴露しても、私達の言葉を真実とは受け止めてくれないと思う」


 国王の孫とは言え、報復部隊を結成した商業組合が犯人だなんて、誰も信じてくれるはずが無い。

 どうやら、全てが商業組合の筋書き通りになってしまったようだ。


「リズ達は今どこに居るんだ?」

「私は護衛という名目で、王街の端に監禁されたわ。王族全員よ。シオリは何とか家に帰れたけれど、私は監視が付いて動けない」


 再び魔物との和平を切り出されないように、王族は全員監禁か。

 これで、商業組合は大手を切って、魔物と戦争が出来るって訳だ。


「私からの情報はこれだけよ。これから監視が強まると思うから、連絡も出来なくなると思う」


 そこまで言って、リズがふうと息を吐く。

 吐いた息が震えて居るのが、スピーカー越しに伝わって来る。きっと彼女も、一杯一杯なのだろう。

 俺は頭に浮かんだ負の感情を押し殺して、改めて口を開いた。


「リズ」


 俺の呼びかけに答えないリズ。

 だから、俺の方から言ってやった。


「大丈夫だ。こっちは俺が何とかする」


 沈黙。


「だから、リズは王族の人達を守ってくれ」


 リズは、まだ何も言わない。


「それじゃあ、やる事が出来たから切るぞ」


 そして、通話を切ろうとした時だった。


「……ないで」


 スピーカーから響く、小さな声。


「……お願いだから、無理をしないで」


 それは、リズの心の底からひねり出された一言。

 その言葉を聞いて、リズの傍に居なかった自分の行動を悔やむ。


(……リズ)


 言いたい事が、山ほどある。

 だけど、今はそれを言っている暇が無い。

 だから俺は、こう言うんだ。


「また、元気な姿で会おう……必ず」


 少しの沈黙。


「……うん」


 ぽつりと響くリズの声。

 それは、お互いの不安を紛らわせる為の、大切な約束となった。


「それじゃあ、またな」


 名残惜しかったが、その気持ちを胸にしまって通話を切る。

 手元に残る無音の連絡用手帳。

 その先に、リズの懐かしい笑顔が浮かんだ。


(……良し!)


 だけど、もうリズの事は考えない。

 今の俺がやるべき事は、この戦争を止める事だ。

 魔物と人間が殺し合うなんて、絶対にさせやしない!!


「リンクス! ミント!」


 呼び声に反応して二人が現れる。


「二人はアーサーさんと一緒に行って、穏健派との橋渡し役になってくれ!」


 俺の言葉にリンクス達が頷く。


「ベルゼとヤマトは魔法学園に向かってくれ!」

「魔法学園? 何で?」


 ヤマトが首を傾げる。


「魔法学園は魔物を保護しているから、狙われる可能性がある!」

「そっか……了解。分かったよ」


 頷くヤマト。

 それを見た後、俺はベルゼに小声で言う。


「ベルゼは宇宙船に戻って、隠ぺい工作をしてくれ。鹵獲されたら大変だ」

「うむ。移動装置の修理は既に終わっている。適当な場所に動かしておこう」


 二人で頷き、今度はメリエルを見る。


「メリエルは帝都の偵察を頼む!」

「お断りします」

「よし。それじゃあ……!」


 次の言葉を言いかけて、言葉に詰まる。

 ……今、否定されたよな?


「メリエル?」

「私は、ミツクニに着いて行きます」


 それを聞いて、思わず苦笑する。


「いや、帝都の偵察は重要な……」

「ミツクニは戦場に行くのでしょう? それならば、偵察はその時にします」


 メリエルが俺の前まで歩き、頬に触れて来る。


「どうせまた、無茶をするのでしょう?」


 ……参ったな。

 俺の考えなんて、バレバレのようだ。


「ミントも一緒に行くぅ!」


 俺の足にしがみ付くミント。


「みつくに! 一人じゃ駄目! 一緒に居るの!」


 半泣きで俺を見詰めて来る。これは、どうやっても引き剥がせそうにない。


「……分かった。一緒に行こう」


 それを聞いた二人が笑顔で頷く。

 これで、俺達の行動は決まった。


「よし! それじゃあすぐに行動だ!」


 掛け声で全員が一斉に散る。

 俺は湧き上がっていた不安を全て飲み込み、出口へと歩き出した。



 メリエルとミントを連れて、街の出口へと足を進める。

 その周りで慌ただしく動いている街の魔物達を見て、緊張感が高まる。

 飲み込まれてはいけない。

 俺達は、俺達の出来る事をやるだけだ。


(だけど、どうやって……)


 戦いを止める為に、俺達は戦場へと向かう。

 だけど、まだ手段が考えつかない。

 このままでは、行った所で何も出来ない。


(いっそ全員で総攻撃するか……でも、そうなると被害が……)


 そんな事を考えていると、突然人にぶつかってしまう。

 俺の前で倒れ込む女子。

 それは、蹂躙のネクロマンサー、ネクロ=ネイターだった。


「ミツクニさん!」


 ネクロが俺に気付いて、嬉しそうに立ち上がる。


「お陰様でスケルトンを消す事が出来ました!」

「あ、ああ……良かったな」


 考え事をしながら話を続ける。


「ネクロはどうしてここに来たんだ?」

「一応私、強硬派の幹部だったんで、挨拶してから魔法学園に行こうかと思いまして」


 ネクロは勇者ハーレムの一角だ。

 暴走していたスケルトンを制圧した代わりに、勇者ハーレムに合流してもらう事になって居た。


「いやあ。本当に大変でした。でも、無事にネクロミノコンも回収出来たし……」


 それを聞いて、ハッとする。

 ネクロミノコン。

 スケルトンを操っていた魔導書。


「なあ、ネクロ」

「何ですか?」

「そのネクロミノコンを使えば、誰でもスケルトンが使役できるのか?」

「はい、魔力次第でいくらでも。私は暴走しちゃいましたけど」


 てへへと笑うネクロ。

 それに合わせて、俺も笑ってしまう。

 その手があったか!


「ネクロ!」

「は、はい!?」

「そのネクロミノコン貸してくれ!」

「え? ええ……?」


 首を傾げるネクロの手を強く握る。


「頼む! どうしても必要なんだ!」

「わ、分かりました! 分かりましたから!」


 顔を真っ赤にしながら手を離して、本を差し出してくるネクロ。

 全身黒のハードカバー。いかにも魔法書って感じの本。

 それを手にして、俺はニヤニヤと笑う。


「みつくに?」


 疑問の表情を浮かべるミントの頭を撫でる。そんな俺の姿を見て、メリエルも微笑んだ。


「何か思いつきましたか?」

「ああ。凄い事を思いついた」


 それぞれに散って行った仲間達。残ったメンバーは、魔王と天使と貧弱な俺。

 そして、ネクロミノコン。


「戦争をしよう」


 相手は人間側の大軍勢。

 こちらはたった三人。


 この無謀な戦いで、人間達を止めてやろうじゃないか。

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