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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界放浪編
63/157

娘さんを俺に押しつけないでください

 広場でのゴタゴタが片付き、強硬派の大将に会う為に足を進める。

 辿り着いたのは、要塞中央にある建物の最上階。広いベランダがあり、街を一望出来るような場所だった。


 領主は出掛けているとの事なので、それぞれが適当な場所で待つ。

 俺はベランダで街を眺めて居たのだが、ヤマトとウィズが微妙な距離感で横に居たので、落ち着いて街を眺める事が出来なかった。


「本当に賑やかな街だね」


 ぽつりとそう言ったのは、ヤマト。


「ここの人達が人間と戦争して居るなんて、本当に思えないよ」

「ああ、そうだな」


 それだけ言って、小さくため息を吐く。

 勇者ハーレムを作る為に、親友役として召喚された。

 しかし、今や世界中を駆け回り、戦争を止める為に奮闘している。

 俺のやっている事は、親友役から外れて居ないだろうか?


(世界を救うのは……ヤマトなのになあ)


 横で街を眺めているヤマト。耳に掛かった黒髪をサラリと払い、静かに微笑んで居る。

 改めてしっかりと見ると、幼さの残る可愛い女子だと感じだ。


(……そう、女の子なんだよなあ)


 古い考えなのかも知れないが、世界を救う勇者というのは男が定番だ。

 それなのに、俺はヤマトを勇者にして、世界を救わせようとしている。

 男として、果たしてそれで良いのだろうか?


(とは言え、俺の力じゃ世界は救えないからなあ)


 などと考えて居る途中。

 突然空から降って来て、ドスンと音を立ててベランダに立つ男。

 腰まで伸びた青黒髪。血のように赤い瞳。ボロボロのスーツに黒いマント。

 間違いない。彼が強硬派の大将。リズとウィズの父親だ。


「よう」


 男がクルリと宙を舞い、手すりに飛び乗って胡坐を掻く。


「強硬派のボス。アーサー=サニーホワイトだ」


 アーサー。俺の世界では伝説の英雄王。

 その名前だけで、彼がどれだけ偉大な存在か分かってしまった。


「お前が噂のミツクニか?」

「は、はい。そうです」

「そうか……」


 顎に手を置き、品定めするかのように、俺を眺めて来る。

 そして、ふっと笑って言った。


「娘達をよろしく頼む!」


 その言葉に、俺は固まってしまう。


「……は?」

「頑固な娘達だが、どちらも生涯の伴侶として役に立つだろう」

「ど、どちらも!?」

「子供は一姫二太郎で六人頼む」

「生涯設計まで!?」

「なあに。お前が貧弱でも、俺の孫だから丈夫に育つよ」

「貧弱なのはバレているのか!」


 変な方向に進んで行く会話。

 心なしか、横に居るヤマトの視線が痛い。

 ここは話題を変えなければ!


「ええと、アーサーさん? 俺は彼方と話がしたくて……」

「お父さんと呼べ」

「呼べるか!」

「恥ずかしいのか? なら親父と呼んでも良いぞ」

「そう言う問題じゃないんだよ!」

「おお、威勢が良いな。やはり息子はこうでなくちゃな」


 楽しそうにガハハと笑うアーサー。そして、静かに殺気を放ち始めるヤマト。

 このままでは、勇者対魔物総大将の構図が完成してしまう。


「アーサーさん。取りあえず、その話は後で……」

「親父と呼ばないと戦争を始める」

「親父さん! 親父さぁぁぁぁん!」

「うむ。羞恥心を感じるが、まあそれで良いだろう」


 精一杯叫んだ後、肩で大きく息をする。

 流石はウィズとリズの父親。

 一方的過ぎて太刀打ちできねえ!


「それで? 話を聞きに来たんだろう?」


 アーサーの言葉で本来の目的を思い出す。

 俺は一息ついて自分のペースを取り戻すと、真っ直ぐにアーサーを見た。


「アーサーさん。俺は……」

「親父」

「親父さん。俺は、この戦争を始めた理由を聞きに来ました」


 そう言うと、アーサーが小さく頷く。

 そして、真剣な瞳で言った。


「戦争を始めた理由は、領地が減ったからだ」


 それは、最初から分かって居た事。

 だけど、俺が聞きたかったのは、そんな事じゃない。


「領地は確かに減りましたが、住むには十分な土地が残って居ます」

「まあ、そうだな」

「それに、戦争なんてしなくても、ここは平和で潤って居る」

「お前の言う通りだ」

「それなら、戦争をする意味なんて、無いじゃないですか」


 それを聞いたアーサーがふっと笑う。

 その笑みは、言うだろうと思っていた、と言うような表情だった。

 少しの沈黙の後、アーサーが空を見ながら語り始める。


「ミツクニ。ウィズから聞いたんだが、お前は異世界から来たんだよな」

「はい。そうです」

「お前の世界では、戦争は起こっていないのか?」

「世界中で起こっています」

「理由は?」

「はっきりとは分かりません。ですが、宗教的な理由や生活の為が、主な理由だと思います」

「それと同じだ」


 そう言い切ると、アーサーは懐からパイプを取り出し、煙を吸い始める。


「どんなに今の生活が豊かでも、俺達は領地を失った。失ったという事は、存在した物が無くなったという事だ。それが、どういう事か分かるか?」


 真っ直ぐに見つめて来るアーサーの瞳に、俺は黙らせられる。


「あった物が無くなると、人はそれを求める。そんな時、横に豊かで広大な領地を持っている国が存在したら、どうなる?」


 言葉と共に伝わって来る静かな圧力。言いたい事があるはずなのに、何も言えない。


「当然、戦争だ。相手と元々敵対していたのであれば、尚更な」


 敵対。

 この言葉が、戦争を起こす一番の理由。

 魔物と人間が敵対していなければ、こんなに早く戦争は起こらなかっただろう。


「俺は強硬派の奴らをまとめた。おかげで小さな抗争は無くなったが、相変らず失った領地を取り戻したい奴らは多い。もう、俺一人の思いじゃ止められないんだよ」


 その言葉が、俺の心に引っかかる。

 俺一人の思い。

 それは、つまり……


「親父さんは、戦争をしたくない?」


 その言葉に対して、アーサーが唇を噛み締める。

 そして、腹の底から吐き出すかのように言った。


「当たり前だろう……!」


 再び俺を見つめるアーサー。


「穏健派は同族! 人間側は俺の家族が率いてるんだぞ……!」


 悔しさを必死に押し殺すように、拳を強く握る。その行為は、行き場の無い怒りを自分に向けているようだった。

 黙ってしまったアーサー。

 その悲しそうな姿を見て、心が締め付けられる。


(家族……か)


 ふと思い出して、胸元をまさぐる。

 取り出したのは、精霊王の首飾りと王家の指輪。

 そうだ。

 アーサーは人間の女性と結婚したんだ。


「それは……」


 持って居た指輪を見て、アーサーが目を丸める。


「どうして、お前がそれを……」


 驚いているアーサーを不思議に思ったが、質問されたので答える。


「国王に会った時に貰いました」


 それと同時に、国王に言われた言葉を思い出す。

 だから、俺はそれも言ってみた。


「これを持っていれば、道が開かれると」


 少しの沈黙。

 小さく笑い出すアーサー。

 やがて、豪快に笑い、持っていたパイプを懐にしまった。


「なるほど……! そう言う事か……!」


 そう言った後、アーサーが首元をまさぐる。

 そこから現れたのは、鎖に繋がれた小さな指輪。


「ほらよ」


 鎖から指輪を外して俺に投げる。

 慌てて受け取る俺。

 その指輪に刻印されていた模様は、太陽の紋章だった。


「それは、エルザと俺の婚約指輪だ」


 エルザ=レインハート。リズとウィズの母親で、国王の次女。

 運命に導かれるかの如く、再び出会った二つの指輪。

 そして、アーサーが語り出す。


「俺とエルザは一目惚れでな。その頃はまだ魔物と人間があまり仲良くなかったんだが、周囲の反対を押し切って結婚したんだ」


 アーサーが優しい顔でウィズを見る。


「結婚した俺達は、魔物と仲良くしようとしていた王の庇護を受けて、王宮の端で静かに暮らしていた。そして、リズとウィズが生まれた」


 ふっと笑い、空を見上げる。


「本当に嬉しかった。王も喜んでくれた。だけど、生まれた双子は、それぞれに別の魔力を持っていたんだ」


 それを聞いて、思わず声が出てしまう。


「人間と魔族の魔力……」

「そう。リズが人間、ウィズが魔族だ」


 それを聞いて、分かってしまう。

 何故彼らが、別々の場所で暮らして居るのかを。


「ただでさえ、魔族と人間のハーフは忌み子だ。それに加えて別々の魔力。二人の子供の事を考えると、一緒に過ごす訳にはいかなかった」


 片方は人間の魔力を持った王族。片方は魔族の魔力を持った王族。

 それらが人間の王宮に住んで居たらどうなるかは、容易に想像出来た。


「だから、俺はウィズを連れて王宮を出た」


 種族間の争いで切り離された家族。

 まるで、悲劇の映画に出て来る、ヒーローとヒロインのようだ。

 だけど……


「だが、後悔はしてねえ。今は離れちまってるが、エルザの事は愛してるし、大切な娘達もこうして元気だしな」


 アーサーは、それでも笑って居た。

 強硬派の大将。アーサー=サニーホワイト。

 晴れ渡る空のようにどこまでも広く、種族に染まらぬ白い心。

 リズとウィズの父親は、その名の通りに偉大な男だった。


「しかし、その指輪がここに来たとなると、少し話が変わって来るな」


 アーサーが手すりから降り立つ。


「その指輪はな。俺とエルザが再開する時の為に、王に預けた物なんだ」


 意味が分からずに首を傾げて見せると、アーサーがふっと笑って言った。


「つまりな。それがここにあるって事は、王が俺と会見したがってるって事だ」


 それを聞いて、全ての疑問が解ける。

 この指輪を俺に預けて、道を示してくれた王。

 要するに、この指輪は、強硬派と人間の和解の兆しだったのだ。


「流石は俺の息子だな。こんな重要な役を託されるとは」

「いえ、俺はただ、これを持たされただけで……」

「だから、王は信じてたんだよ」


 アーサーが俺の肩をポンと叩く。


「お前が必ず、ここに来るってな」


 それを聞いて、目頭が熱くなる。

 この世界に召喚されて、世界を救う為に世界中を回った。

 その行為は、勇者ハーレムを作るという、本来の目的からは外れていた。

 だけど、その行為が実を結び、今こうして魔物と人間の懸け橋が出来た。


 俺が召喚された意味が、今ここに成されたのだ。


「俺は……」


 言葉にならない。

 沢山の人に助けられて、託されて。

 ようやく、一つの到達点に辿り着いた。

 俺の辿って来た道は……間違いでは無かった。


「ミツクニ君……」


 俺の横で微笑むヤマト。

 これからは魔物と人間の和平が始まり、間を取り持って来たヤマト達が、その中心となるだろう。

 世界を救うのは、勇者であるヤマトと、勇者ハーレム。

 俺は親友役として、使命を果たしたんだ。


(これで……)


 見えた。

 俺達の目指した平和が。

 勇者ヤマトと勇者ハーレムが救う世界が……



 ……それなのに。



「大変です!」


 突然ベランダに駆け込んで来る竜兵。

 その険しい表情が、見えたはずの平和を一瞬にして崩す。


「人間側の王が……!」


 ああ、分かっている。

 だけど……言うな。

 お願いだから! 言わないでくれ……!



『周囲が闇に覆われて、赤い月が空に立つ』



「人間側の王が! 魔物に暗殺されました!」


 終わらない。

 世界はまだ……平和を望んで居ない。

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