表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界学園編
20/157

親友は裏でコソコソしている

 放課後。俺はいつもの訓練に行かずに、魔法学園の奥にある研究室へと向かう。

 目的の部屋に辿り着き、自分のIDカードを認証させて部屋に入ると、奥でパソコンを操作しているフランの姿が見えた。


「よう、フラン」

「ミツクニさん。おつでーす」


 挨拶を済ませて部屋中央にある椅子に座る。少しすると、フランの作ったドローンが、机の上にコーヒーを置いた。

 俺はコーヒーを飲んで話を始める。


「頼んでいた物、出来上がっているか?」

「勿論です」

「それじゃあ、見せてくれ」

「はいはーい」


 フランがボタンを押すと、部屋の端にあるスクリーンに地図が浮かび上がる。

 それは、魔物と人間の勢力図だった。


「相変らず凄いな」

「褒めても何も出ませんよ」


 そう言いながら、持って来た資料を机の上に置く。俺はその資料を手に取り、一通り読んでため息を吐いた。


「やっぱり、強硬派の勢力が強まって来ているのか……」

「そうですねえ。困ったものです」


 強硬派。それは、第一次世界崩壊時に領土を失った魔物の一部。それらが、人間と魔物の国境周辺に集まって来ていた。


「このままだと、本当に戦争が起きそうだな」

「起きそうじゃなくて、起きます。もう確定事項ですよ」


 ケラケラと笑うフラン。戦争が起こる事に対して笑うのもどうかと思うが、これが彼女のキャラなので仕方が無い。


「ミツクニさん、ヤバくないですか?」

「ヤバいと言うか、俺が戦争に巻き込まれたら、即死だろうな」

「とは言え、魔法学園の生徒なら、戦闘からは避けられないですし」

「そうなんだよなあ……」

「いっその事、学園を辞めて逃げちゃいますか?」

「それが出来たら苦労しねえよ」


 勇者ハーレムを作らなければ世界が滅ぶ。

 その任を任されてしまった以上、この学園から離れる事は出来ない。

 しかし、このまま学園生活を続けて居たら、貧弱な俺では命が危うい。


「どうするかなぁ。いっその事、学生寮にでも籠城するか……」

「学生寮なら、メリエルさんやリンクスさんが居ますもんね」

「まあ、メリエルに殺される可能性も残っているんだけど」


 メリエル。死を司る天使。

 今は仲良くやれているが、彼女の機嫌を損ねたら、簡単に殺される可能性もある。

 結局の所、八方塞がりだった。


「ああ! くそっ!」


 頭を抱えて発狂する。


「俺はただ親友役をやりたいだけなのに! 何でこんな事になってしまうかね!?」

「状況が悪いですからねえ」


 俺の苦悩に対して、ケラケラと笑うフラン。


「それにしても、勇者ハーレムを作らないと世界が滅ぶだなんて、とんでもない予言が出て来てしまいましたねえ」


 楽しそうに言ってコーヒーを飲む。

 実は、俺は第一次世界崩壊の後、フランに予言の事を全て話していた。


「最初に聞いた時は、何言ってんだこいつって思いましたよ」

「だろうなあ。フランは科学者だもんな」

「ええ。ですけど、私に話したのは正解だったと思います」


 人差し指をピンと立てて、フランが立ち上がる。


「こういう予言って、隠さなければいけないって思われがちですけど、そんなルールは存在しませんからねえ」

「だよなあ。たとえ相手が勇者ハーレムの一角だろうと、協力しない理由は無いし」

「話した時点で世界が滅ぶと言うのなら、話は別ですけどね」

「まあ、少し覚悟はしたけど、予言にはそんな事は書いてなかったしな」


 元の世界で漫画やアニメを見ていて、いつも思う事があった。

 それは、自分の状況を話せば協力者を作れるのに、なぜか協力者を作らない事。

 フランの言った通り、縛りがあれば不可能なのだが、大抵の場合は抜け道があり、それ実行してしまえば、事態は解決するのだ。

 ……まあ、それをしてしまえば、話がつまらなくなるのだが。


「いっその事、ミツクニハーレムを作ったらどうですか?」

「それは嬉しい提案だけど、俺は召喚された時点で、立場が決まっているからな。その予言から外れたら、流石にヤバい気がする」

「確かにそうですね」

「それに、予言の話をするのも、フランみたいに遠目から判断出来る奴じゃなきゃダメだ。エリスなんかに話したら、それこそ世界崩壊するぞ」

「それも確かにそうですね」


 コーヒーを飲みながら、冷静に頷くフラン。

 流石は科学者だ。この世界の理から離れた話でも、きちんと理解をしてくれる。


「そういう事だから、フランも勇者ハーレムを脱退しないでくれよ」

「ええー嫌ですよ。私もミツクニハーレムに入りたいです」


 それを聞いて、思わずコーヒーを吹き出しそうになった。


「ち、直球だな……」

「だって、こっちの方が面白そうですから」

「それじゃあ、兼任してくれよ。世界が滅ぶのは困るし、俺もフランの協力が必要だ」

「そうですね。私が手伝わなかったら、ミツクニさんは簡単に死にそうですもんね」


 はっきり言って、その通りです。

 俺はただの親友役なので、居なくなった所で世界は滅ばない。

 だからこそ、勇者達とは違って、簡単に死んでしまう可能性があるのだ。


「死にたくない!」

「分かってますよ。助けてあげますから」

「フランは優しいな!」

「普通ですよ。ミツクニさんの周りが、厳し過ぎるだけです」


 ああ、そうですね。

 俺の周りに居る奴等(特に一名)、簡単に死ねとか言いますから。

 いいなあ。勇者ハーレムは皆優しくて。


「俺も勇者ハーレムに入りたい……」

「真顔でボーイズラヴ発言しないでください」

「優しさが足りてないんだよ」

「分かりましたから、そろそろ真面目に話をしましょうよ」


 淡々と話すフラン。少し寂しかったが、この冷静さこそが、彼女に秘密を打ち明けた理由でもある。だから、それで良しとした。

 改めて、俺達は予言について考え始める。


「それじゃあ、まずは勇者ハーレムの進行状況についてだな」


 コーヒーを飲み、ハーレムリストを開く。


「現在のハーレムは十三人。リストの総数は三十人。三分の一って所か」

「私の作った世界危険値から考えると、順調ではありますね」

「だけど、それはあくまでも推測値だからな。正解って訳じゃない」

「そうですね。でも、様々な地理データや世界情勢から分析していますから、精度は高いはずです」

「科学的根拠か。今はそれに頼るしか無いか」


 予言に対して科学が通用するかは分からないが、常識の範囲で物事を判断する定規は必要だ。その為に、フランには色々と調べて貰っていた。


「それで、次の予言の予想なんだけど……」


 俺が口を開くと同時に、フランも口を開く。


『強硬派との戦争』


 それを聞いて、不謹慎ながら微笑んでしまった。


「流れから考えると、そうなるだろうな」

「そうですね。世界を滅ぼすのは、大抵生物同士の戦争ですから」


 世界が滅ぶ予言。その言葉だけで考えれば、人の力が及ばない何かが発生する可能性もある。

 しかし、この予言は、人を集める事で世界が救われる予言だ。

 それはつまり、人の力で世界を救えるという裏返しでもある。


「とは言え、勇者ハーレムだけで、戦争は止められないだろ」

「そうですねえ。第一次世界崩壊時点で、戦争はほぼ確定ですから、その後に続く何かで、ハーレムに役割があるんじゃないでしょうか」

「そうなると……魔物と人間の仲介とか?」

「難しいでしょう。ヤマトさん達が仲良くしているのは、あくまでも魔物の一部ですから」


 そうなると、残されているのは……


「魔物と人間が和解するきっかけを作る?」


 それを聞いたフランが小さく唸る。


「逆に、ヤマトさん達が魔物を殲滅する可能性も、あるんじゃないでしょうか」


 その言葉を聞いて、大きく息を飲む。

 この世界の人間と魔物は、大きな争いこそして居ない、対立はして居る。

 だからこそ、その可能性は大いにある。


「……困ったなあ。俺は人間と魔物が仲良くなって欲しいんだけど」

「でも、この予言は人間側に伝わっていた物ですから、人間だけが救われる可能性が高いと思います」


 フランの言葉に渋々頷く。

 認めたくは無いのだが、フランの言う通りだ。

 何故ならば、第一次世界崩壊で被害を受けたのは、魔物側だけなのだから。


「一応先に先に言っておくけど、例え予言が人間だけを救う物であっても、俺は魔物を助ける為に努力するからな」

「人間一人が努力をした所で、世界の流れは変わりませんよ」


 それを聞いて、俺は勢い良く立ち上がる。


「馬鹿野郎!」


 そして、全力で語った。


「猫耳! ウサ耳! ロリっ子魔王! そんな人材がゴロゴロしている魔物を全滅させようだなんて、それこそ世界崩壊だろうが! 大体この世界の人間は魔物を一括りにして、彼女達の本当の素晴らしさを……!」


 話の途中でフランが謎のボタンを押す。

 その瞬間、俺の体に強烈な電撃が走った。


「な、何が……?」

「ミツクニさんに渡した護身用の爆弾に、電気が走る装置を組み込んであります」

「お前も……リズと同じなのか」

「不純な理由で魔物を助けようとして居る、ミツクニさんよりマシです」


 よーし、言い訳出来ねえ。

 しかし、それが俺の本意なのだから、仕方がないだろう!


「俺は可愛い魔物のハーレムを作るのだ!」

「人間に対する反逆ですね」

「黙れぇぇい!」


 電撃で震えている腕を机の上に乗せて、真っ直ぐにフランを見つめる。


「人間だろうが魔物だろうが! 俺は助けたい奴を助けるだけだ!!」


 黙って睨み合う二人。

 やがて、フランがふっと笑った。


「……分かってますよ」


 その言葉を聞いて、俺も笑う。

 どうやら、それでもフランは、俺の事を手伝ってくれるようだ。


「なんにせよ、今はまだ次の予言が出て居ません。事態が起こった時の為に、少しでも信頼出来る仲間を作った方が良いと思います」

「ああ、そうだな」


 椅子に座り直してコーヒーを飲む。


「今の所、全部知っていて助けてくれそうなのは、リズとミントと……」

「それなんですが」


 フランが話に割って入る。


「私から一人、紹介したい人物が居ます」


 その言葉の後、スクリーンの裏から一人の女子が現れる。

 それは、高等部の生徒会長、シズノ=アメミヤだった。


「フラン……お前」

「すみません。脅迫されました」


 てへっと笑うフラン。

 勝手な事をされて不愉快ではあるが……仕草が可愛いかったので許す!


「話は全て聞かせて貰った」


 こちらに近付き、正面の椅子に座るシズノ。


「私は人間なので魔物の肩を持つ気は無いが、魔物と人間の関係は良好なものにしたいと思っている。だから、出来る範囲で協力しよう」


 正直な所、会長とは少し前に出会ったばかりなので、完全には信用していない。

 しかし、こうなった以上、隠すと逆に面倒になるので、仕方なく納得した。


「そういう事で、いきなりではあるが、協力しようじゃないか」

「本当にいきなりだなあ」

「そう言うな。こういうのは早い方が良いだろう?」


 確かにその通り。

 流石は生徒会長。決断が早くて助かります。


「学園長に会って来い」


 ……うん。助かりますけど、いきなりラスボス紹介ってどうなのよ。


「いやいや、俺はそこら辺に居るモブな訳で……」

「学園長は魔物との友好を推している第一人者だ。知り合っておくのは上策だと思うのだが?」

「ありがとうございます!」


 机に頭を叩き付けてお礼をする。

 こうしてモブである俺は、戦争を止める鍵となりそうな重要人物と対面する機会を得た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ