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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界学園編
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学園長は三タイプ

 生徒会長の紹介を受けて、俺とリズはヤマトを連れて学園長室に足を運ぶ。

 到着して最初に現れたのは、豪華な装飾が施されている厳重な両扉。

 その重々しい雰囲気は、一般生徒を寄せ付けない圧力を醸し出していた。


「ほ、本当に入るの?」


 後ろで小さくなっているヤマト。強い癖に腰が引けているのは相変わらずだ。


「一応生徒会長の紹介だからなあ。来ないのは逆に失礼だし……」

「それよりも、私に黙って会長に会っていた方が、問題だわ」


 思い切り睨み付けて来るリズ。目がとても怖い。

 今回の一件で、こっそりフランに会って居た事がばれてしまった。


「あれほど言って居たのに、他の女に色目を使うなんて」

「色目じゃない。協力して貰ってるだけだ」

「あら、それなら私も一緒に連れて行けば良いじゃない」

「あのなあ。許嫁だからって、いつも一緒に居なくても良いだろ」


 リズが懐から鉄球を取り出す。


「最近は他の女とも会っているようだし、少し躾が必要かしら?」

「うん、その鉄球を見る度に、俺が愛しているのはリズだけだって思うよ?」

「嬉しいわ。そのまま私の愛に埋もれて、死んでしまえば良いのに」


 二個。三個……夥しい数の鉄球が、ゴトリと音を立てながら地面に落ちる。

 もしかして、本当に愛で埋もれさせるつもりなのか?


「あ、愛が重いって良く言うけど、俺の場合は本当の意味で重い……」

「死ね」


 頭上から鉄球! しかも無数!

 死ぬ! 愛で死ぬ!


「……あ、愛が重いぜ」

「それは愛じゃなくて鉄球よ」

「そうですか……じゃあ、助けて下さい」


 リズが鼻で笑って俺を見下ろす。


「助けて欲しければ、世界の中心で愛を叫びなさい」

「俺の世界の中心は……リズ様です」

「上手い事を言うわね。それじゃあ、叫びなさい」


 この状況で叫べと言うのか!

 鬼だ! 彼女は愛の鬼だ!


「ほら、早く叫びなさい」


 一つ、また一つと鉄球を重ねて行く。

 このままでは本当に死ぬ!

 ええい! 仕方ない!


「俺はリズの事がああああ……!」


 とどめの鉄球! しかも顔面!


「こんな場所で叫ぶなんて、理性というものが無いのかしら」

「……命が掛かってますから」


 そう言って、地面に倒れ込む。

 少し黙って居ると、ヤマトが優しく鉄球をどけてくれた。


「ヤマト……俺の味方はお前だけだよ」

「そんな事は無いよ。皆ミツクニ君の味方だよ」


 確かに味方ではあるかもしれない。

 しかしだな、味方が俺を殺さないとは限らないのだよ。

 現に俺は味方と思っている人間に、鉄球とか電撃とか食らってるからな!


「……とにかく、学園長に会おう」

「そうね。こんな所で遊んで居ないで、早く中に入りましょう」


 そう言って、リズが学園長室の扉をノックした。



 俺が知る限り、アニメや漫画に登場する学園長には、3つのテンプレがある。


 一つ、学園長なのにロリっ子。

 二つ、学園長なのに同世代。

 三つ、学園長なのに間が抜けている。


 勇者ハーレムを作るという状況から考えると、恐らく二番目が濃厚だろうと思っていたのだが、学園長室に入った途端に、その考えが浅はかだった事が分かった。


「はーい。こんにちはー」


 ロリっ子。同じ色の制服リボン。間の抜けた返事。

 要するに……全部だ!


「そう来たか……」


 学園長を見ながら膝を折る。

 俺もまだまだ未熟だ。異世界なのだから、これくらいは当然。これだから異世界と言うのは、ロマン溢れる未知の発見に苛まれ……


「黙りなさい」


 鉄球! お疲れ様です!


「それにしても、まさか学園長が同い年だとは思わなかったわ」


 学園長が無邪気に笑う。


「本当は320歳だよ!」


 なるほど。上乗せですか。

 子供っぽく見せておいて、実は年上。しかも常人では考えられない年齢という事は、人間の中でも長老的な存在として……


「嘘だけどね!」


 おおっと、ここでこう切り返してくるとは。流石は学園長。でも、本当は320歳なのだろう。俺は騙されない。大体、学園長と言うのは、学園のトップであるからして……


「黙りなさい」


 鉄球二個目! 良い区切りだね!


「改めまして。私は学園長のテトラ=ヴァーミリオンでーす」


 朱色のショートカット。赤い瞳。ふくよかな胸。そして、言うまでも無く勇者ハーレムの一角。

 全体像は、リズを幼くした感じだった。


「もしかして、リズの遠い親戚なんじゃないか?」

「それを言ったら切りが無いと思うけど?」

「……まあ、どうなんだろうな」


 最近はヒロインが増えすぎて、それぞれの特徴が薄くなっている気がする。

 しかし、人間の見分けなんて、所詮微小なものなのだから、仕方が無いという事にしておいた。

 ……そういう事にしておいた。


「それじゃあ、早速皆の力を試させてもらうね!」

「……は?」


 次の瞬間、学園長の裾から大量の刃物が飛び出してくる。

 ヤマトは咄嗟に剣を抜いてそれを薙ぎ払い、リズは防御魔方陣で受け止め、俺は全ての刃物を食らって壁に貼り付けにされた。


「うん。大体分かったよ!」


 ニコリと微笑む学園長。

 成程、学園長が強いというテンプレも健在か。


「そのまま壁の絵になってしまえば良いのに」

「リズの毒舌も最早テンプレだな」

「あら、その姿を見れば、誰だってそう思うわよ?」

「そんな事ねえよ。なあ、ヤマト」


 俺がヤマトを見ると同時に、リズもヤマトの事をを睨み付ける。

 とても、もの凄く、睨み付ける。


「……学園長室だから、はく製は有りだよね!」

「お前も言うようになったな!」


 苦笑いを見せるヤマト。しかし、冗談を言えるまでに成長した事を感じて、素直に嬉しくなってしまった。

 このままだと俺の学生服がボロボロになってしまうので、ヤマトに頼んで刃物を抜いてもらう。穴は開いたが、これくらいならザキが直してくれるので、後で彼女に全投げしよう。

 改めて、俺達は学園長と対峙する。


「学園長。俺達は生徒会長の紹介を受けて、ここに来ました」

「うん。話は聞いてるよ。魔物との仲を取り持って欲しいんだよねー」


 俺達が黙って頷くと、学園長は机の引き出しから何かを取り出す。

 それは、真っ黒な腕章だった。


「これは、全施設への入場許可書でーす。これがあれば、魔法学園内のどんな場所でも、許可無しで入る事が出来るようになりまーす」


 そんな物をどうするのかと思って居たら、学園長が話を続ける。


「現在、この魔法学園の様々な場所に、穏健派の魔物方が滞在しています。その関係で、多くの場所に侵入防止の魔法陣が張っていて、いざという時に好きな場所に行けない可能性があります」


 そう言って、机の上に三枚の腕章を置く。


「そういう事なので、何かが起こった場合、彼方達はそれを使って自由に行動して、魔物方を守ってくださーい」


 それを聞いて、俺は少し考える。

 魔物を守る為に使う。

 守る為に……


「ありがとうございます」


 深くお辞儀をした後、リズとヤマトが腕章を手に取る。

 しかし、俺は黙ったまま動かない。


「ミツクニ?」


 リズが俺を見つめてくる。

 俺は腕章を見つめながら口を開いた。


「この腕章は、三枚しかないんですか?」

「沢山ありますけど、流石に全部は渡せませんからねー」


 当然だ。学園側の都合を考えれば、誰にでも渡せるものでは無い。

 それならば、俺の結論は一つだ。


「ヤマト」


 俺は腕章を手に取り、ヤマトに差し出す。


「この一枚は、シオリに渡してくれ」


 それを聞いた二人が目を丸める。


「ミツクニ君、どうして……?」

「俺は弱いから、いざという時に役に立てない。シオリが持っていた方が効率的だ」

「それなら私も……」

「リズは持っていてくれ。その方が安全だ」


 ヤマトが居るのでこれ以上は言えないが、リズがその腕章を持っていてくれないと、俺が困る可能性がある。

 だから、一番信頼出来るリズには、腕章を持っていて欲しかった。


「ミツクニ……」


 真っ直ぐにリズを見つめる。

 腕章を持つ者が一番危険だと言う事は、既に理解している。

 だけど、頼れるのはリズしかいない。


「……分かったわ」


 そう言って、リズは腕章をポケットにしまった。


「学園長、ありがとうございます」

「いえいえ。なんのなんのー」


 ふふっと笑う学園長。それに合わせて俺達も微笑んで見せる。

 微笑んでは見せたのだが、俺の心は複雑な気持ちで一杯だった。



 放課後。屋上に上がり、地面に寝転んで空を眺める。

 どこまでも広がる青空。流れゆく雲。

 この学園は、今日も平和だ。


「感情に浸ってるんじゃないわよ」


 リズが視界の前に現れて、パックジュースを腹に落とす。

 俺が腰を上げてそれを飲み始めると、リズが静かに横に座った。


「それでも私は、ミツクニが腕章を受け取ると思ったわ」


 心を見透かしたようにリズが言う。

 それに対して、俺は小さく微笑んだ。


「本当は喉から手が出るほど、腕章を受け取りたかったよ」


 ストローを口から離して唇を噛み締める。


「だけど……俺じゃ駄目なんだ」


 俺は……弱い。

 自由に動けた所で、誰も助けられない。

 だからこそ、俺はリズに腕章を託した。

 それによって、リズが危険に晒されるかも知れないと言うのに。


「……一つだけ、リズに頼みがある」


 空を見上げながら口を開く。


「絶対に……無理だけはしないでくれ」


 自分で腕章を託していながら、都合の良い事を言っているのは分かっている。

 そして、それを言った所で、リズが無理をしてしまう事も分かっている。

 だけど、それでも俺は……


「……頼む」


 辛い。

 自分に力が無くて、人に託す事しか出来ないのが辛い。

 大切な人達を守る事を、大切な人にしか頼めない事が辛い。

 そして、蛮勇だけでは人を救えない事を知っている自分が……辛い。


「分かったわ」


 それだけ言って黙るリズ。

 今は、彼女の言葉を信じよう。

 力の無い俺には、信じる事しか出来ないのだから。

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