閉幕
同日に2本UPしています。終幕4をお先にお読みください。
式と晩餐会を終えたフィルートは、『滴の塔』の自室に戻っていた。二人の部屋を設けるまでは、互いの部屋を行き来することになる。
それにしても、夫婦は同室が基本だとは、デュナル王国の人間は愛情深い。アヴァンとその話をしていた時、隣にいたエルゲナが、物言いたげにアヴァンを見ていたのは気になったが。
部屋に入るなり、後ろからついて来ていたアヴァンが、腰を引き寄せた。フィルートが目を丸くすると同時に、唇が塞がれた。
「え、ちょ……っま……っんんー!」
茶を用意しようとしていたラティが、はっと顔を上げて、慌てて部屋を出ていく。
――待って! 今出て行かれると、絶対恐ろしい事態になるから……!
腕を伸ばして引き留めようとしたが、ラティは頬を染めながら扉を閉じた。
熱い舌が強引に口を割り、中に侵入してくる。ぬる、と舌を絡められたら、フィルートの抵抗はほぼ消える。腰を抱き寄せ、後頭部に手のひらが置かれた。アヴァンは無抵抗を良い事に、フィルートの舌を貪り始めた。
「ん……っん、ん……」
少しも隙間を作りたくないかのように、体を密着させ、アヴァンは味わうように深い口づけを執拗に繰り返す。ぴちゃ、とわざと水音を立て、手のひらを体に這わせてきた。背中でごそごそしていると思ったが、既に朦朧としていたフィルートは、良く考えられなかった。
不意に、とさ、とドレスとコルセットがセットで床に転がった。急に楽になった――。
見下ろすと、自分の胸が、たゆん、と揺れる。
「――わっわあああああ!」
――なんで裸? いきなりどうして裸になったんだ僕は……!?
本能的に両腕で胸を覆い隠したが、体そのものを横抱きにされ、抵抗など意味が無かった。見上げたアヴァンは、視線が合うと、また顔を寄せてくる。
「フィルート……ずっとこの時を待っていた……」
「え、まって……んぅ……っ」
歩きながらキスするなんて、こんな高度な技を持っていたのか、『魔王』――!
再び熱い口づけが始まり、ぼう、としているうちに、フィルートはベッドの上に横たえられており、アヴァンが首筋に顔を埋めた。
――ええええ? このまま僕は、頂かれちゃうのか……っ?
挙式が終わった最初の夜なのだから、そうなるのだろうなとは思っていたけれど、もう少し準備とかいろいろあると思っていた。
耳の裏から唇が軽く触れながら首筋を辿る。くすぐったさと、妙な感覚が背筋に走り、フィルートは肩を竦める。
「……んっ」
「フィルート……お前は本当に……美しい……」
熱に浮かされたような声で、アヴァンが胸にそっと触れた。
「ま、まって、アヴァン……っ!」
「フィルート……」
フィルートは声を震わせた。だがアヴァンは止まらず、大きな掌が体をまさぐって行く。腰を撫でていた手が、太ももを撫でる。事態について行けず、フィルートの目に涙が溜まった。
「あ、アヴァン……っ!」
さすがに必死な声は聞き流せなかったのか、アヴァンは体を起こし、真上から見下ろしてきた。フィルートは恐怖のあまり、素直にお願いした。
「あの……もうちょっと、ゆっくり…………優しくして……」
「――」
アヴァンの喉がごくりと上下した。
――あ……なんか、僕、間違えた……?
猛獣の眼差しに、血の気が引いた。そのまま食われる、と思ったのだが、アヴァンは肩に顔をおしつけて呻いた。
「……優しく……優しくな……」
自分に言い聞かせるように呟くと、アヴァンは一つ息を吐いた。若干震えているフィルートの唇に、ゆっくりと啄むキスをする。
「すまない。やっと手に入ると思ったら……余裕がなくなっていた……」
「う、うん……」
愛らしく頷いたものの、フィルートは内心、アヴァンを罵る。
――馬鹿言うな、この野郎! お前なんかより、僕の方がずっと余裕がないんだからな! お前と違って僕は、男の時だってこんな経験はしたことが無かったんだぞ……!
内心では元気に喚けるが、体は恐怖で強張り、文句一つ言えない現状。――切ない。
可憐な天使そのものの、打ち震える美少女を見おろし、アヴァンは誰にも見せない、甘く蕩ける笑顔を浮かべた。
「愛している……フィルート……俺だけの『勇者』……」
フィルートの目がすっと冷えた。フィルートは即座に胸を隠す。
「……『勇者』っていうな」
――くっそ、『勇者』は忘れろよ、『魔王』め……!
アヴァンはくつくつと笑い、再び体に触れてきた。
「……っ」
「俺の元に自らやって来た、可愛い『勇者』。運命の出会いをくれた神に、俺は心から感謝している――」
アヴァンの巧みな手管は、あっという間にフィルートの抵抗を封じた。フィルートは、頬に朱を上らせ、うっとりと潤んだ瞳になる。アヴァンはフィルートの頬に口付け、耳元で甘く囁いた。
「一生……大事にしてやる」
可憐な天使は、『魔王』の腕の中で頬を染め、恥かしそうに、けれど嬉しそうに、小さく笑った。
~Fin~
拙作をお読みいただきまして、ありがとうございました!
お馬鹿なお話でしたが、少しでもお楽しみいただけていたら幸いです。
たくさんのブックマーク、評価、ご感想ありがとうございました。
読んでいただけたことを、心より感謝いたします。
今後も、もっと『面白い』を作れるよう、努力してまいります。
ありがとうございました!




