地雷を踏んだ男!
押したり引いたり、押したり引いたり。
私と大魔王の現状である。
キスして封印を解きたい大魔王と、唇の貞操を守りたい私。
ちなみに、ファーストキスですが、なにかっ?!
そんな私に大魔王はとんでもない発言をした。
「ええい、往生際が悪いなっ。減るものでもないだろう!」
そう言って、必死で突っ張っていた私の片腕をとんでもない馬鹿力で引き剥がす。
ぷちっと、頭の中で音がした、気がした。
「ははははははははははははははははは」
乾いた笑いが口から自動的に零れ出す。
そこに不穏な響きを聞き取ったのだろう。ぴたり、と大魔王が動きを止めた。
背後で揉めていた魔王たちまでそのままの姿勢で固まって、こちらに視線を向けているのを何故だか感じた。
「お前、目が据わっているぞ」
そう言う大魔王の声が遠い。
怒りのせいだ。そうに違いない。
そして私は掴まれていない方の腕を振りかぶって、真っ直ぐに突き出した。
めきりっ、と(私にとっては)小気味いい音が室内に響く。
「……ぎゃー!! だだだだだ、大魔王様の玉座がああああああああ!」
魔王たちの(どれだかよくわからないが)そんな悲鳴が続く。
そう、私の拳が大魔王の座る玉座の背もたれに食い込んだのだ。彼の頬を掠めて。
たらり、と大魔王の額から顎先へと汗が流れ落ちた。
背もたれから拳を引き抜いて、私は大魔王の腕を振りほどいた。
右手を左手の上に重ね合わせてぽきり、ぽきり、と音を鳴らす。
「私の母さんがなんて呼ばれてるか、知ってる?」
うっすら微笑んで聞くと、目の前の男はぎこちなく頷いた。
「……センティス国『最後の鉄槌』、だろう」
その通り。
謎の魔王情報網は彼に集約されているのだろう。
「で、さ。その『最後の鉄槌』の娘がさ、普通の女の子だと、思うー?」
今度は左手の上に右手を重ねて、音を鳴らす。
ごくり、と息を呑む音が何処から聞こえた。
笑みを深めて私は言ってやった。
「なんだっけ、こういうの。……経験豊富? 間違ってないけど、なんか違うなあ。ああ、あれだ。……喧嘩上等?」
村の同年代で、私に勝てた者は皆無だ。
首もいっちょ回しておくかあ。
ごきごきっという音に、魔王たちが団子の様に固まって端っこによって行くのが視界の端に見えた。
ぐいっ、と大魔王の胸ぐらを掴んで、私はにっこり微笑んだ。
「つまりね。二千と飛んで二十二年もこの椅子で暇こいてたヤツに、私は負けるワケにはいかないの」
あんだーすたん(understand)?
そう聞いてやると、ひくり、と彼の頬が引きつった。
「勇者なんて言ったってさ、剣が得意なのは父さんだけなんだよ。私と母さんは、『拳で語り合う』派なの」
動けない相手に、なんて卑怯かもしれないけれど、乙女のファーストキスを「減るもんじゃなし」と言い切ったヤツの事など知った事か。
「覚悟、してもらいましょうか。大魔王様」
語尾にハートマークだってつけてやろうじゃないか。
後から母さんに聞いた話だが、その日、隠された洞窟の近くを通り掛かったロイド村の村人がいたそうだ。
彼はどこからとも無く聞こえてきた悲鳴に、「すわ一大事か」と、その声の主を探した。
けれどその悲鳴は一向に途切れることは無く、結局、怖れ戦いて転げ落ちる様に山から帰ったそうだ。
ごめん、ケン君のお父さん。
アイザにすれば、聖剣も只の棒以外の何物でも無い様子。
そして、ケン君一家は何時だって被害者です。