大魔王様のすんごいところ
「とにかく、僕は頑張ったんですよ、勇者様っ」
褒めて、褒めて、と言いたげなキノコの魔王に一体何を言えと?
私は「へー」とか「ほー」とかでその場をしのぎながら石壁の廊下を進んでいた。
もう一匹いる筈の魔王はどうしたかと言うと、四匹の魔王が口を揃えてこう言った。
「「「「超、照れ屋」」」」
実害が無いならまあいいや、と私も割り切った。
しばらく無駄話をしながら進んで行くと、唐突にリンゴの魔王がはしゃいだ声を上げた。
「あっ、扉が見えたわ。……大魔王様ぁ〜。今、貴方のリンゴの魔王が行きますぅ〜」
体の脇に腕をくっつけて走るリンゴの魔王の進む先に、確かに扉があった。
漆黒のその扉は、壁や床よりずっと細工が細かく、そして重厚感に満ちていた。開けられるかな、という不安が頭をもたげてくるくらいには。
「っつーか、結局、大魔王ってなんなの。あんたらのボスってことくらいしか、私は知らないんだけど」
「はあ、そうですよね〜。それがですね、」
何か続けようとした山ぶどうの魔王の台詞を奪い取るように、振り返ったリンゴの魔王が言った。
「ふっ。大魔王様はすんごいのよぅ」
「どこがすごいのさ……」
目を眇めてみせると、やつは不敵な笑みを深めた。
「鼻があるんだからぁ!」
「……鼻ですか」
思わず敬語になった。
「そうよぅ。鼻よぅ。そして、すんごい麗しいんだからっ!」
どうも彼ら魔王にとって、鼻は重要な位置を占めているらしい。皆して首を縦に振っている。
鼻が無いくせに鼻息を荒くしてリンゴの魔王は続ける。
「この世で最も魔力が強くて、最も美しい! それが、我らが大魔王様よ!」
最強の魔力と最高の美貌? 胡散臭いにも程がある。
そんな事を考えながら私は目の前の扉に手を掛けた。
「ふうん。そんなにすんごいのに、なんでこんなとこにいるのよ……って、おいおい」
黒い夜空のような扉は、音も無く軽々と開いた。
扉の奥に広がっていたのは、またしても闇。
けれど間を置かずに、ぽっと明かりが灯された。
一瞬眩んだ目を軽く擦り、私は部屋の中を見渡す。
円形のその部屋には、中央に一脚の椅子が置かれていた。背もたれの長いビロード張りの椅子はまるで玉座だ。
その椅子には、一人の男が座っていた。