ログ#26「挑戦」
「ぐっは!?」
目覚めたヴァイスは屋敷の自室にいた。
ベッドで眠っていたが記憶にない。
体を起こして、そこで気が付く。
隣でスヤスヤと眠っているスミリの姿を。
掛け布団で顔しか見えない。
自分の体を見て安堵する。
衣服に脱いだ痕は見られない。
『覚えていないのですか?
では御安心下さい。
その用な事はありませんでしたよ』
「そんな心配はしてない」
『本当に記憶にないのですね。
昨日の夕方頃に泣き出したかと思えば借りてきた猫のように大人しくスミリ様に連れられて行きましたよ。
簡素にいえば放心状態でしょうか?
映像出しますよ』
「やめてくれ、いいよ。
なんとなく思い出してきた。
うが〜〜〜、一生の不覚だ。」
『はて、何度目かのですね』
「黙ってろ。
おい、おいスミリ起きろ!」
「むにゃむにゃ…………ほぁあ!!
えっち〜〜〜!
うふ〜ん、ヴァイスゥ〜昨夜はあんなに激しかったのに〜」
「俺には過去を見れる魔道具があるんだぞ!
ふざけてないで出ていけ」
「あーん!
つれないんだぁ!!
でもいつものヴァイスに戻ったな!」
「言ってろ!!
………でも、ありがとうな。」
「………うん!
当然だ!
妻だからな!」
扉を閉めた廊下からはスミリの笑い声が聞こえて徐々に小さく遠ざかっていく。
「騒がしい奴だ」
『そうですね。
おぼろげな記憶の中、よくぞっと言った所です』
「黙ってろ!」
(憑き物が落ちた。
払われた気分なのは気の所為かな?
スミリ、……俺らしく………。)
「俺なりにやってみるよ」
「あぁ、ヴァンはヴァンらしく頑張れば良いんだよ。
っで?
何が黙ってろって?」
「いや、それは‥‥‥。」
「あ、こら待て逃げるなーーー!!」
それから2日後の事、いきなりあの男が屋敷へと訪問してくる。
玄関でコートを執事から受け取って着込んでいる途中にフブキ・ネーロは現れた。
外では彼の従者と、この屋敷の使用人達が止めようとしていたのが分かる。
「スミリはいるかーーーー!!!
あの小生意気なヴァイスを懲らしめに来たぞ!!
おっお!?
久し振りじゃないか、元気だ──」
「悪いが定期検診なんだ。
お前に構ってる暇はない、スミリと遊んでろ」
大声で屋敷内中に響く声にヴァイスは至って落ち着いた声音と様子で諭す。
「ごめんなさいね〜
ヴァイス君ったら照れ屋さんだから」
スミリの母、ジェマがヴァイスの背中の影から、ひょこっと姿を見せる。
彼女はこの村の祭事や医術を飛躍的に進歩させた。
彼女の育った国の知識を里に取り入れた功績からか里の運営には関わらない代わりにとトップの地位に就いていた。
「違いますよ。
コイツは自分の言動さえ違える男ですからね。
俺の中で虫以下、益虫より下の存在です」
「またまた〜
そんなこと言って〜〜
本当はどう思ってるの♪」
「くっ、このノリ。
母娘を感じる」
そのジェマが今はヴァイスに弟子入りする勢いでヴァイスの医療技術を学んでいた。
魔法を介さない治療方法はジェマの目から見ても驚愕そのモノだった。
魔法では手の付けられない重傷や魔法を使用する前に人為的や器具等で処置をする事は有っても必ず魔法がある前提だった。
だからかヴァイスの用いる器具や道具の数々は今の一般的な方法からは前時代的でしかなかった。
しかしヴァイスの行う治療スピードは魔法にも匹敵、寧ろ超えていると言っても過言ではなかった。
その成功率や完治後の痕、治療後の経過等などジェマの知る知識が崩壊した瞬間だった。
「定期?検診??
はぁ!?
お前はなにを言──」
「お前に関係ない事だ。
ウザいから退け!
あと煩い、ほんと煩い。耳キーンってなる」
文句を垂れ流しながら開いていた扉から馬車に向かう。
ジェマは仕草でゴメンね〜っとして後を付いていく。
普段なら歩きなのだがジェマが同行する際には馬車での移動が恒例化していた。
◇◇◇
ヴァイス達が去った後、客間では執事長のオノウとスミリがフブキの対応をしていた。
「じゃあなにか?
今日は、わざわざ来てやったというのに奴とは戦えないのか!?」
「だからそう申し上げているのです」
「それにお前では勝てんだろうに、学習しろ学習を!!」
「くぅぅう!!
なら用はない。
帰る!」
「帰るのか、もう来るなよ!
跳ねっ返り!」
「……おいおいおい!
止めてくれ、止めて!
引き止めて!!」
「いやだ、さっさと帰ねぇ!!」
「げふん!!」
蹴られた、お尻を擦りながら投げ出された屋敷を後にした。
「帰ったか」
「あぁ、まったく執拗い男だ!
まったく………えっ!?
ヴァイスぅ!?
なんで、え、だって?
出掛けたはずじゃあ!?
えーーーーーーなんで!?」
「あ〜〜言ってなかったか」
『あっヤベ〜なって顔をしていますよ。
ポーカーフェイスの軍人ヴァイスはもう消えましたね』
『うるせ〜〜こういう時だけ出てくるな』
「アンド………魔道具で作った偽者の俺だ。
船の家で会ったこと、あったろ?」
「あ、言われてみれば確かに!!
それは凄いな!
私のもないのか?
作って作って!!」
「出来る、が……。」
「えっほんとか!!??」
「材料がな……本当に必要になるまでリソースは残しておきたい。
なんなら現地調達で賄えたら何体でも作ってみるか?」
「おおおおお!!!
さすがヴァイス!
愛してる♪」
「はいはい」
「には!
良いこと思い付いた!!」
「嫌な予感」
「フブキの後を付けてみよう!」
「予感的中だな。」
「行こうっ行こう!
行こう行こう行こう行こう!!」
「俺は診察に行ってるからなぁ〜
行きたくないですスミリさん。」
「なるほど。
……………ははん。
ふふん。
始めて私に会った時、ヴァイスさんは見えませんでしたことよ!」
「チィッ、分かったよ。
光学迷彩だ。
それで姿を透明に消せる。
だが魔法を使えるスミリさんには意味がありませんでしたよ」
「心配ない。
風の感じでなんか分かっただけだからな!」
「なんかでお前は攻撃したのか……。」
「ん?
何か言ったか?
でだ、強い気や殺気でも放たなければ分からないさ。
特別に強い奴でもないしな!
よし出発だぁ〜♪」
「はいはい、仰せのままにマイ・プリンセス!」
「あっ!
私も透明になりた〜い」
「え〜〜」
「えーーー」
「ったく。
ほらよ!
ココ、押せ。
2タップで起動、3タップで解除だ」
ガントレットの片方を渡して腕に付けてやると自分のガントレットで実演してみせる。
「ほー、ほぉ〜!
ほほ〜〜」
ひとしきり消えては現れて消えては現れてを楽しんでいるとスミリを目撃したメイドが悲鳴を上げるという悲劇こそ起こったが2人はフブキを追い掛けることにした。
「これ、自分も見えなくなるから大変だぞ」
「見えてなくても自分の体を動かしている感覚は分かるだろ?
後は視界の移動と位置の把握って分からないか。
ようは慣れっかな」
「ほへ〜〜〜。
おん!
やっぱ慣れるのが1番だな!!
直感って奴だな!!」
壁を蹴って、よじ登り屋根を走りフブキを追い掛ける。
フブキの現在地はヴァイスが人工衛星やドローンなのだが不思議な魔道具と言う事で発見済みであり、あとはスミリが光学迷彩での移動に慣れる事とフブキに追い付くだけだ。




