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第二演習室 再び

   午後三時〇分


 ロクマの挨拶をもって、ゲリラ演劇『諮問委員会×奥の院「霊現象は誰の手に!」』の幕は閉じた。開催前から話題を呼んでいた諮問委員会の説明会が、まさかの観客を大いに騙した演劇だったこと。忌み嫌われていた奥の院と、大人気のロクマが開催したこと、そしてそのロクマの歯がピンク色に染まっていたことなど、数年は語り草になるような出来事が一日に何回も発生したため、その場で鑑賞できたものは自慢し、途中で逃げ出したものは後悔し、見に行かなかったものは羨むという、大学における伝説のイベントとなった。


 その中でも奥の院の人気の上昇は凄まじいもので、五人は構内を歩くだけで写真をせがまれるようになり、嫌われていた頃よりも苦労することになった。


新生寄る辺商の三人は、作戦が無事終了したことを大いに祝福してくれた。京都から手土産として持ってきた八つ橋は、ミツメを大いに喜ばせた。イチジョウは彼らにもあの時何が起こっていたのかを説明し、深く感謝を述べた。事の顛末を聞き終えた時、寄る辺商の三人は盛大に笑った。そして同時に「あなた達らしい終わり方だ」と、恐らく最大の誉め言葉を述べたのち、また東京に遊びに来ると言って、彼らの都へと帰っていった。



  三月十七日 七号棟前



「あ! 『新釈 ゴースト・バスターズ』の人だ」


 そんな風に声をかけられ、イヌマキは辟易した。ゲリラ演劇後の奥の院の人気上昇にともない、彼らの除霊方法の面白さも急激に広まった。諮問委員長ロクマが大学新聞で講評した「馬鹿っぽいのに理に適う除霊を淡々とこなす『新釈 ゴースト・バスターズ』」という講評を行ったため、その渾名が広まった。今では構内に普及しすぎて、奥の院という名前を知らないものすら存在しているという。ロクマとしても最大限、奥の院を持ち上げてやろうとした結果ではあるのだが、彼女たちからするとありがた迷惑な話である。


「あ……、はい。一応、奥の院の者ですが」


 ささやかな抗議として、イヌマキは元の組織名で自己紹介をしてみるが、相手の女学生は有名人に会えたことに興奮して、そんなことを微塵も気にしていないようだった。


「写真撮ってください!」


 キラキラとした笑顔でそう懇願され、イヌマキは断り切れなかった。元々写真に映ることが苦手だった彼女は、何とも言えない微妙な顔でカメラに映った。女学生は感謝を述べながらも、「こんな控えめな人が幽霊を倒せるんだろうか」と、若干不信に思いながらも上機嫌に去っていった。


「おはようございます」


 第二演習室に入ると、既に他の四人はそろっていた。


「遅かったね、どうしたの」

 いつもの調子でミツメが言う。やはりこの人たちには、第二演習室が良く似合うと、イヌマキは思った。

「すみません。下で写真をお願いされて……」


「お前もか、イヌマキ。俺もそろそろ困ってきた」


「私は大いにウェルカムだ! 何せ有名人になった気分だからな!」


「もし声掛けがいやなら、ヨツツジに隠密術を教えてもらうと良い。あいつはそれで乗り切ってるらしいからな」


「でも皆、私たちのことを『新釈 ゴースト・バスターズ』って言うのだけは納得できないわ。これも全部、ロクマのせいね、迷惑な話」


 話の流れで、ミツメが怒ったように言う。しかし彼女は心なしか嬉しそうだった。女優の様に扱われるのが、内心気に入っているのだろう。


「ロクマはあれ以降、やけに張り切ってるからな。それが災いを呼んでしまっているのは奴らしいが……」

 イチジョウも呆れたように言うが、そこにもう嫌悪は感じられなかった。


「でも、第二演習室が帰ってきたのは僥倖でしたね」


 ロクマも、奥の院に迷惑ばかりかけていたわけではなかった。第二演習室の返却がその良い例である。はじめロクマは張り切りすぎで、七号棟のすべての部屋の所有権を奥の院に譲ると主張していたが、大学側の許可が流石に下りなかったことと、奥の院側も潔く断った。彼らに必要なのは権威などではなく、滞りなく作戦会議が進行できる場所なのであった。



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