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爆乳ハーレム島の錬金術師  作者: 生姜寧也


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201/339

201:降下を開始する

 家主の了承を得ずに納屋を漁るのは気が引けるが、そうも言っていられない状況。遠くの空が灰色を通り越して黒ずんできている。あの雲が来たら、きっとアウトだろう。

 まあ一応は俺の所有物だから完全な物盗りとは違うと言い聞かせながら。ハーネスを回収した。

 あとは延長ヒモを作って、これと連結させる作業だ。

 というところで、ニチカが思い詰めたような表情を浮かべているのに気付いた。そして彼女は、

 

「ポーラ、フィニス」


 同行してくれている2人の名前を呼んだ。なんとなくだけど、察した。多分、事情を話すつもりだ。協力してくれる相手に秘したままというのも気が咎めていたのだろう。

 

「実はあーしとアティは」


 口を開く。苦しげな表情のままだ。

 と、そんな彼女を見て、ポーラがユルユルと首を横に振った。


「無事に終わってからで良いんだよ」


「そうだよ~~時間が無いんでしょ~~?」


 フィニスも同調する。


「2人とも……」


 その心遣いに、ニチカが声を詰まらせた。

 ポーラもフィニスも、いつもポヤポヤしてるのに、こういう大切な所では外さないよな。


『粋スギィ!!』


 黙ってゴルフ観とけ。

 って、アホに構ってる暇はないんだった。


「ありがとう。良い子だね、2人とも」


 優しくポーラの頭を撫で、フィニスにも求められるので、そっちも抱き寄せて頬にキスをする。

 ニチカは少しだけ目を潤ませ、


「……ありがとな。終わったら、聞いてくれ」


 絞り出すように言った。

 

 ………………

 …………

 ……


 ピコーンという小気味いい音と共に現れたのはヒモの先端。それを掴んで釜から引きずり出そうとするも……中々全部が出てこない。


「メチャクチャ長いんだよ」


「ゴムツタと万能合成生地……どう考えても入れた分より長えぞ?」


 そこら辺は、あまり考えちゃダメなんだよなあ。質量保存の法則が全くアテにならないという。

 俺はヒモを手に巻き付けながら、先端っぽい箇所(なんかヌメッとしてるのはスライム成分か)をハーネスに近付けると、なんか勝手にネバリハスの根の部分とくっついてしまった。ウネウネとヌメヌメが交合するような、割とビジュアル的には厳しい感じ。これこそモザイクでもかけて欲しいんだが。


「ていうか、これは手で持たないとダメだな」


 ネバリハスの根とヌメヌメ先輩のダブルバインドでここの結合はバッチリなんだけど、代わりに木などに接着することが出来なくなってる。人力で持って綱引きするしかなさそう。


「ボクもお手伝いするんだよ」


「アタシも~~力は結構あるんだから~~」


 2人が力こぶを作ってみせる。どっちも触ってみるが、割とプニプニで頼りない。

 あと1人くらい増援があると良いんだけどなあ。アティの顔が浮かぶが……すぐに嘆息と共に打ち消す。


 ニチカの水着の肩ヒモの下に布をかまして、その上からハーネスを装着させる。可哀想だけど、これでも結構痛いと思う。本人にも告げると、少し顔をしかめたが、すぐに大きく頷いた。流石は勇敢なる海の戦士。


「ビニョンビニョンなのが、まだ救いなんだよ」


 それがゴムヒモの利点だからね。途中で滑落があっても、ヒモの軟性が脱臼等のケガから守ってくれるハズだ。


「崖を行くのか」


「うん。橋脚を伝えれば良かったんだけど……」


 あそこから降ろすなら、俺たち3人が丸太橋上でヒモを握ってないといけないんだけど……どう考えてもそんなスペースはないよね。踏ん張ってる間に、俺たちの方が押しくらまんじゅう状態になって滑落するのが目に見えてる。

 なのでニチカには崖を伝って降りてもらって、俺たち3人も(足場が安定している)崖上で有事に備えるという形だ。


「頼んだぜ。あーしの命、3人に預ける」


「うう。責任重大なんだよ」


「頑張るよ〜〜」

 

 俺も気合入れないとな。ミスは許されないんだから。

 ということで、いよいよ作戦行動開始となった。


 まず近場の大きな樹にヒモの遊び部分をグルグルに巻き、縦にも通してガッチリ固定する。ネバリハスの接着力には大きく劣るが、それでも最終防衛ポイントとして期待したい。

 ただもちろん、これを過信しないように、フィニスはそこの少し前辺りに陣取り。ヒモをきつく握って、樹との結び目に負荷が掛からないようにしておく。


 その数メートル先には、ポーラを配置。ヒモの中間辺りを持ち、既に少し背中を後ろ側に倒していた。更にもっと先。俺は崖のすぐ近く。崖下のニチカの様子を見ながら、マズイと思えば即座にヒモを持つ手に力を込めて引っ張る。その力が伝わって、ポーラ、フィニスも引っ張るという寸法。もちろん口頭でも危険を知らせるが。


「アキラ」


 崖の端に立ったニチカ。震えたりはしていないが、平静なワケもない。俺はその体を抱き寄せ、優しくキスする。あったかくて柔らかくて。強いけど弱さも抱えていて。


「大好きだよ、ニチカ」


 この場面でかける言葉として適切なのかどうか分からないけど。心の赴くままに告げていた。

 キミの帰りを待っている人間が居る。無事を祈り、失いたくないと心から思っている人間が居る。それを知っていて欲しかったんだと思う。

 果たしてニチカの方も、少しだけ頬を緩めてはにかんでくれた。


「あーしも。大好きだ。今の時点でもう、返しきれないほどに恩を感じてる。絶対あーし1人じゃ、今この舞台にすら立ててねえ」


 ニチカからもキスを返してくれて……パッと未練を断ち切るように体を離した。そしてそのまま崖の端まで進むと、こちらを向いた。俺も端まで寄る。ヒモを手繰り寄せ、ほとんど余りを出さないように調整。ニチカがゆっくりと足を後ろ向きに下ろし、崖の壁面へ。そしてすぐに、体も向こう側へ行ってしまって、手が崖縁に掛かり、その手も崖下へ。

 俺は首を伸ばして、下を覗く。ニチカは両手両足で崖壁面の窪みや出っ張りにしがみついていた。そしてまた一歩、足を浮かせて次の足場を探し、移る。見ているだけの俺ですら、手足が震えてしまいそうな行程。


 頑張れ。頑張れ、ニチカ。

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