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爆乳ハーレム島の錬金術師  作者: 生姜寧也


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200/339

200:閉ざされた扉

 シェレンさんが簡単な朝食を用意してくれたので、みんなで「いただきます」をして摂る。逸る気持ちは当然あるけど、エネルギー切れで作業に支障が出るなんて事態になったら悔やんでも悔やみきれないからな。


「ごめんなさいね。私はどうしても」


 教師だからね。それは仕方ないし、ニチカもアティも薄情だなんて思うハズもない。


「代わりにボクが綱引きするんだよ!」


 超長尺の引き上げに備えて、ポーラが学校を半休して参戦してくれることになっていた。


「アタシも~~こう見えて~~力あるんだから~~」


 フィニスも農園のお仕事を休んで手伝ってくれるそうだ。なんでもピアップルのお礼もしたかったそうで。やっぱりこの島はあったかいよね。厚意を贈れば、厚意が返ってくる。

 それに……戦力面のみならず、2人が持ってるほんわかした空気は正直ありがたい。ニチカとアティも蟠りの件だけを意識しないで済むかも知れない。

 と、そんな計算はしてるけど、


「……」


 ニチカの表情は晴れない。手を繋いでいる俺に、体ごと寄りかかりそうな勢いで弱弱しく歩いている。いや、考えようによっては歩いてくれてるだけでも、という話か。これはある意味、タイムリミットが生じたことによって助けられている側面かも知れないな。もし何もない晴れの日だったら、俺が1人でハーネスを受け取って来てからアティを遠ざけて……みたな小細工も選択肢として生まれるからね。


「……ニチカ」


 頑張れ、と気持ちを込めて、繋いでいる手に力を込める。

 さっき彼女に言ったことは紛れもなく本心だ。仮にアティとの仲が戻らなくたって、ニチカはニチカとして俺の友人であり仲間であることには何らの変わりもない。

 基本的に大きなコミュニティの中で、全員が全員と仲が良いなんて有り得ないワケで。ウチの会社もイジメとか面倒くさいことはなく、表面上は円滑だったけど……「先輩Aさんと他チームのBさんは目も合わせない」なんていうことも普通にあった。当人たちも互いにそりが合わないことは分かっているから不干渉にしているのだ、と噂好きの事務員Cさんが言っていた。

 周囲はそういう2人をバッティングさせないように調整しながらでも、意外と組織は回っていくもので。寂しいけど、ニチカとアティも最悪はそんな感じでも……

 と。


「……っ」


 ニチカの方も手を強く握り返してくる。もうアティの家の前まで来ていた。

 ふう、と1つ大きく息を吐く。蟠りを知らないポーラたちは、先に行ってしまった。


「ニチカ」


 最後にもう一度ハグ。そして俺たちも彼女らの後ろについた。ポーラたちが玄関先から声を掛ける。のんびり間延びしたフィニスの「アティ~~」という呼びかけが、どこか遠くの世界で響いているかのように錯覚しそうになる。


 ――ガチャ


 扉が開く音に、一段とニチカの体が強張るのが分かった。そして次の瞬間には、俺の背中に隠れてしまう。繋いでいた手を振りほどかれて……一瞬の出来事だった。

 何か声を掛ける前に、アティが玄関先から出てくる。ポーラとフィニスを見ると微笑んだ。


「アティ、大変なんだよ」


「雨が~~降りそうなんだって~~」


 2人が早速、来訪の意図を話し始めるが……そこでアティの顔がこちらを向いた。俺を見つけて嬉しそうに口角を上げて。そしてすぐに俺の背中に居るニチカを見つけて硬直した。


「ニ……ニチカ……」


 思わず名前を呟いたという感じ。しかしその後の言葉は続かず、状況も掴めないまま呆然と立ち尽くしている。居るハズのない相手、亡霊にでも出会ったような。


「ニチカがポーチを取りに行ってくれるんだよ」


「今着てる~~水着っていう服は~~泳ぎやすいんだって~~」


「頼んでない」


 フィニスの言葉を遮るように、アティが言った。キュッと唇を結んで、目を伏せて。


「頼んでない……あ、雨で流れるならそれまで」

 

 いつもよりも早口に言い終えると、クルリと踵を返す。この場から逃げ去りたい、そう背中が言っていた。

 だけど。このまま行かせたら、きっとダメだ。ニチカもそう思ったのか、咄嗟に飛び出して、


「ア、アティ! あーし、取ってくるから! 取って来たら! は、話を!」


 だが、言葉の途中でアティは玄関へと逃げ込み、すぐに扉を閉めてしまった。その風圧でポーラの前髪がフワリと浮き上がる。


「わ!? ビックリしたんだよ」


 フィニスが困惑げにこちらを振り返る。ニチカは唇を噛み締め、下を向いた。


「……ハーネスの話が出来なかったんだよ」


 肩をすくめながらポーラが戻ってくる。


「困ったんだよ。本人も諦めるって言ってるし……最悪は」


「ダメだ!」


 ネガティブな結論をほのめかすポーラを、ニチカが大きな声で否定した。

 面食らうポーラとフィニス。ニチカは少し迷った後、


「あーしのワガママかも知れねえけど、ポーチを拾い上げたいんだ」


 アティ本人からは望んでいない(アレは咄嗟に出た言葉だと思うけど)と告げられた。それでも、ニチカの独りよがりだったとして、やるということだ。現状、彼女にはアティに返せるものが、これ以外に何も無いから。


「……恐らくハーネスは家の脇の納屋にあると思う」


 いつもそこに仕舞ってあるからな。


「アキラ……良いのか?」


 最悪は「余計なことをして」と俺までアティに嫌われてしまうのではないか。そう危惧しているんだろうけど。


「大丈夫。アティも本当はポーチを諦めたくはないハズだよ。優しい子だからね」


 メロウさんから贈られた品。世界に1つだけのプレゼント。それを失って割り切れるほど器用でも薄情でもない。

 そしてそれは同時に。危険を冒してでも自分のために大切な物を拾い上げてくれる人を、無下に扱えるような子ではないということも意味している。必ずや誠意を汲んでくれると信じられる。


「アティ! お願いだ! きっと上手くいったら、ニチカと話をしてあげて欲しい! もう一度だけチャンスをあげて欲しい! お願いだ!」


 固く閉じられた玄関扉に向けて、俺は深く頭を下げた。


「アキラ……」


 ニチカの涙ぐんだような声。すぐに隣に来て、彼女も頭を下げる。


「何がなんだか分からないんだよ……」


「アタシも~~」


 困惑するポーラたちを他所に、俺たちはしばらくの間、頭を下げ続けた。

 

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