7.運命診断
手を、引かれた。
そこから伝わるぬくもりをコウは知らない。温かい。…優しい。
「…ど、して、助けたんですか?」
ボサボサの髪をしたコウを見て、彼は言う。
「髪、切らねぇとな。うっとおしいだろ?」
返答に、コウの求める答えはなかった。ルカの足取りは軽く、そして早い。体力の落ちている今の身ではしんどいものがあった。それでも今、掴んでいる手は離さない。
――不安定、なのだ。
ゆらり、ゆらり。消えてしまいそうな、まるで、陽炎のよう。それは明鏡止水のごとく。
「息苦しいよな。俺達には、この世界は」
ポツリとルカが言う。コウは否定も肯定もせずに、ただ唇を噛み締めた。
「奪われるか、奪うか。そのどっちかしかなくて、俺達異常者はいつだって前者だ。拒否権なんてありゃしねぇ。」
速度が緩まった。大分離れたからだろうか。
「俺達は等しくなくちゃいけないんだ。差別なんてくそくらえだ。そのためには異常者としての起源を知る必要があると思う。」
「俺達は何故産まれた?この異常はなんだ?……調べなくちゃならねぇ。そのためには、人も必要だ。」
コウを向く。
彼は あ、 と小さく呟く。
――あぁ、そうか、これか僕は、……―この光に、惹かれた、んだ。この瞳に、魅せられたのだ。
息が、うまくできない。
「コウ。一緒に来てくれ」
お前の力が必要なんだよ。
断ることなんて、出来なかった。
*
「――コウ?」
アカリの声にハッとする。ついボーッとしてしまったようだ。
あれから幾ばくも経ってはいない。2人であの部屋―ソリット・スクアが集まっている、人気のない―に向かうところであった。そう遠い距離ではないけれどなんとなく時間をかけて歩く。
というか、考え事をしていたのだ、自分は。
言わなければ、ならなかった。
「……アカリ、」
「なに?」
しばし言えず、口ごもる。なんていえばいいのか、わからない。
「……僕たち異常者には、タイプがあります。特に後天的なものと先天的なものは…決定的なんです。先天的な異常者のほうが少なくて、何より異常を身に纏うものが多い。」
アカリはじっとコウを見る。その一言一言を、逃さないようにと。
「……僕たちの中で、その先天的なタイプなのはきぃ先輩。そして、ルカ兄です。しかし、きぃ先輩はその異常を自らの言霊、異常で打ち消す。そうやって、相殺する。でも、ルカ兄は違います」
コウは首を振った。
「ルカ兄は、その異常を使う。日常的に、使う。僕もまぁ使いますけど、僕は後天的なタイプですから、影響はないに等しいのです。でも、ルカ兄は、――…」
そこで、口をつぐんだ。
コウはアカリに真剣な表情で向かい合う。
「……どうか、お願いがあります。ルカ兄を見失わないでください。″そこ″に、ルカ兄はいます。決して見失わないで。忘れないで。」
運命を変えるためには、何か代償が必要だ。コウには確率を変えるしかできない。だから、彼を助けることもできない。
コウは目をつぶった。
いつか、貴方が。
アカリは、小さく、けれどもしっかりと頷いた。
運命診断、もといコウ編終了です。次章ではほかのキャラ主役になります。よろしければ今後ともお付き合いください。




