6.運命診断
アカリは走っていた。
――お前が、全部。
悪いんだと、言われた。
遠い昔に…そう、告げられた。
コウや…彼らソリット・スクアと一緒にいるときは、楽しすぎて…彼らの優しさに甘えていた。流れてしまえばいいのだと、そう傲っていたのかもしれない。
コウと仲良くなりたかった。そのためには、自分から歩まなければダメなのだとわかっていたのに。
「コウくん…!」
後ろ姿。
「あ、アカリさん。もう…大丈夫ですか?」
首もとに巻いたマフラーを指先で軽く押し上げ、コウは手に持っていたスマホをしまう。
「ちょうどメールをしようと思ったんですが…よく考えましたが、貴方のアドレスきいてなかったですね」
くすくすと笑むコウに、アカリは確かにとほんのり笑みを浮かべた。
それから、少し考えてから、指差す。
「あちらで、少しお話しませんか?」
異論はなかった。
*
ぽかぽかとした陽気。そよぐ風がほんのわずかにアカリのセミロングの髪を揺らす。
「僕は、ルか兄に助けられたんです」
「え、」
「ふふっ、どうせきぃ先輩からきいているのでしょう?彼、結構おしゃべりさんで…もないですかねぇ…」
ふと思い直して、コウは最後の方を口ごもらせる。
え?
「きぃ…?!って、…まさかあの、保健室にいた…?!」
「おや、自己紹介してなかったんですね。どこまで話したんでしょう…えぇっと、仮に、僕が彼にお話したところまで知っている、という認識で話させてもらいますね。」
アカリは頷く。カンなのだろうが、的を得ていた。
――『よく、知っている』
そういうことだったのか…そうアカリは心の中で頷いた。道理でやたら話がスムーズだと思ったのだ。
あとからもう一度問い詰めないと。
ともあれ、そうコウは話を戻す。
「ルカ兄は、従兄弟同士ではあったのですがお会いしたことはなかったんです。知っての通り、我が家は異常者を忌子として扱われてましたから…兄さんに会うことは固く禁じられていました」
知らない異常者であるルカを考えることもあった。一体どういう人なんだろうか、どんな生き方をしてきた人なのか。考え出すとキリがなくって。
「だから、初めて会ったときには誰なのかわからなかった。影が薄くて、いつのまにかそこにいて」
――…お前が幸、だな?
光の入らない部屋の中、彼はそう呟いた。
食事は1日に2回、いつのまにか出されていたから、人と出会うことなんてほとんどなくなっていて、だからこそ、誰かと会うのは久しぶりで。
「最初は…、こわくって。」
誰だろう、って。
「そしたら、『お前、生きたいか?』ってきいてきたんです。きっとルカ兄はわかっていたんでしょうね。あのときの僕は、生きながら死んでいましたから。」
その言葉に、自然と頷いていた。満足したのか、差し出された手。
――じゃあ、一緒に行こう
掛けられた、温かい言葉。
「そうして、ルカ兄のところに引き取られ、今はおばさんたちの所で生活をしています。ルカ兄のおかげで、異常を少しだけ、嫌いではあるけど誇りになれた」
この異常がなければ、こんなにも幸福な生活を続けれなかっただろうから。
「アカリは、異常をどう思いますか?」
「私には異常はない…でもそんなに、悪いものとは思わないよ。素敵な力だと思う」
だって、その異常でルカはコウを助けたのだから。
「――……優しいですね、アカリは。僕は、君を傷つけました…それでも、僕は、君を知りたい。貴方の優しさの奥を、知りたいんです」
「私も傷つけた。でもやっぱり、コウくんと仲良くなりたいの。」
ふわり、コウは笑んだ。
「僕たち、もっと仲良くなれそうですね」
「うん!よろしくね。あ、とりあえず…」
アカリは、スマホを取り出す。
「メアド交換、しよ?」
キョトン、としたような表情でコウは目を何度か瞬かせると、くすりと小さく笑みをこぼした。
はい、と、彼は頷いて周囲に花を散らしたのであった。




