プロローグ
この作品は、いわゆる異世界転生ものが溢れる中で、あえて「転生するまで」に焦点を当てて書いています。
もしも、異世界に行くために“戦わなければならない”としたら。
もしも、その力が「昔の妄想」だったとしたら。
少しだけくだらなくて、でも少しだけ身に覚えがあるような、そんな話です。
誰しも一度は考えたことがあるかもしれない“理想の自分”。
この物語は、それを捨てきれなかった人たちの話になります。
気軽に読んでもらえたら嬉しいです。
5/7 全体的な微修正を行いました。
首を吊るとき、人は何を思うのか。
そんなことを考える余裕は正直なかった。
畠中泰造、五十五歳。
町工場の経営者"だった"。
不景気が続き、取引先が潰れ、
資金繰りに行き詰まり、
打つ手は打ったつもりだったが、甘かった。
借入は膨らみ、支払いは滞り、最後は銀行に見放された。
社員は一人、また一人と去っていった。
責める者はいなかったが、それが余計に堪えた。
家にも居場所はなく、
責められはしない。
ただ、目を合わせなくなった。
「……すまん」
誰に向けた言葉か分からないまま、口に出た。
ここにいても迷惑をかけるだけだ。
なら、いない方がいい。
椅子を蹴った。
首に食い込む感触。
息が詰まる。
視界が暗くなる。
――終わりだ。
そう思った。
次に目を開けたとき、石の床があった。
「……なんだ、ここは」
体を起こす。
首に違和感はない。
先ほどまでの息苦しさは消えていた。
見上げると円形にせり上がる観客席。
空は妙に澄んでいる。
風だけが通り抜ける。
闘技場、そんな言葉が浮かんだ。
夢にしてはやけに手触りがある。
視線を巡らせるとそこには
人がいる。
中央にまとまって立っている。
一人や二人じゃない
十人以上……いや、十六人はいる。
スーツの男、作業着の若いの、派手な格好のやつ
年も顔つきもばらばらだ
だが、どいつも似た顔をしている
疲れている顔だ。
「……死んだはずなんだがな」
『お目覚めですか』
上から声が落ちてきた。
見上げる。
白い翼のついた人影が空中に浮かんでいる。
天使、というやつだろう。
だが妙に事務的だ。
表情が薄い。
『ようこそ、コロシアムへ』
ざわついていた連中がぴたりと黙る。
全員がそいつを見る。
『ここに集められたのは16名。全員、死亡済みです』
「ふざけるなよ」
「どういうことだ」
「夢だろこれ」
天使は意に介さない。
『これより、異世界転生権を賭けた戦闘を行います。形式はトーナメント。最終的に勝ち残った一名のみが転生を許可されます』
「……負けたやつは」
低く問う声があった。
『地獄行きです』
ざわめきが止まる。
冗談ではない、と顔に出でる。
他者の反応も様々ではあるが、
どれも納得している顔はなかった。
『戦闘には各自の妄想能力を使用していただきます。過去に抱いていた理想像、いわゆる厨二的設定。それが能力として具現化されます』
言葉を失う。
忘れたつもりでいたものが、胸の奥で引っかかった。
昔親の目を盗んでみた大人のビデオに出てきていた
"透明人間"
誰にも見られず、誰にも関わらずに済む存在
好き放題に生きていける。
昔、本気でなりたいと思っていた
妄想をふと思い出す。
「……今さらだろう」
すると脳内であの天使のような声がした。
『起動します』
「は?」
その瞬間、体の感覚が一つ抜けた。
手が見えない。
腕も、足も。
視界の中から自分が消えている。
「……おい」
嫌な汗が出る。
ゆっくり視線を落とす。
"それ"だけ、あった。
「……そこだけ残すか?普通」
思わず口に出た。
周りの何人かが振り向く。
「今、そこの人急に消えた?」
「いや、待て……あれ、なんだ」
「…見るな」
低く言う。
情けないが反射だった。
『能力:透明人間。一部不可視制限あり。戦闘能力としては問題ありません』
「問題しかないだろうが…」
吐き捨てる。
そのとき、別の場所でいきなり物が出現した。
「へぇ…面白い……」
ペンを空中で走らせ何かを書く好青年?
鳳蝶のようなモヤを纏い佇む女性
瞬間移動のようにいきなり別の場所に立つ派手な男
くだらない妄想が、現実になっていく
「……馬鹿げてる」
そう言いながら、目は離せない。
周りを見回す
総勢十六人
どいつもこいつも、何かを拗らせた顔をしている。
そして自分もその一人だ。
ここは、そういう場所らしい。
なり損ねた連中が、最後に何かを決める場所だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
まずは導入ということで、コロシアムとルール、そして主人公の能力を出すところまでになります。
これからトーナメント形式で話が進み、それぞれのキャラクターの過去や妄想も少しずつ見えてきます。
ギャグ寄りではありますが、しっかり戦闘と背景も描いていくつもりなので、引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
次回からいよいよ対戦が始まります。




