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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
始まりの街レアルタ編

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《TALE-TELLER》

 一度捕らえた獲物を絶対に逃さないとばかりに、ネネは完全に俺の胸から離れなくなった。


「やばーい……ふっわふわのもちもちだぁ」


 そう言いながら、彼女はぐりぐりと俺の胸に頬を押し付けてくる。


「マジ語彙力なくすわ~~……」

「ちょ、ちょっとネネさん……」

「んへへぇ……」


 だめだこれ。彼女は完全に出来上がった酔っ払いである。


「あたし、このお胸に住むぅ……」

「住まないでください」


 ミーナが即座にツッコむものの、それにもかかわらずネネはまったく離れようとしない。むしろ、さらに腕へ力を込めて抱きついてきた。

 衣服越しに伝わる体温は驚くほどに柔らかく、女性特有のしなやかな重みがある。

 そして、互いの吐息がかかるほどに顔が近かった。驚くほど整った顔で、知らず知らずのうちに胸の鼓動が早くなる。

 いやほんと近い……相手はミリオンインフルエンサーなのに、なんだこの空間は。

 ミーナはというと、ギンッと鋭い目でネネを睨んだかと思えば、次の瞬間には「まぁ酔っ払いだし仕方ないか……」みたいな顔をしている。

 目まぐるしく変化する彼女の感情は忙しそうだ。最終的に彼女は大きくため息を吐き、完全に何かを諦めた顔だった。

 ネネはもうまともな会話ができる状態じゃないし、俺も胸へくっついた大型カリスマ獣人をどう扱えばいいのかわからないのだから、状況を考えればそりゃそうである。

 するとその時、ミーナがすっと両手を広げた。

「……?」と、俺は思わず首を傾げる。

 彼女の意図が読めず、俺を招いているのかと戸惑ってしまった。

 いや待って、何となく意図は理解できた。

 が、一度構図を整理しよう。

 今、俺にネネがくっついていて、その状態で俺がミーナにくっつくのだろうか。

 ……なんだこの謎の連結は。

 彼女のこれまでの健気な奮闘を思えば、まぁいいかという気になってくる。

 事務所探しから登記、ネネの対応や引越しまで、全部ほぼ一人で回してくれていたのだ。 そう思うと、やっぱり労ってあげるべきだろう。


「……ミーナ」

「はい?」

「お疲れ〜」


 と、俺はそのまま彼女へ抱きついた。

 すると、「えへへ〜……」とミーナが一気に笑顔を崩した。

 完全に年相応の女の子の顔になっている。

 そのまま、彼女は俺の頭を撫で始めた。


「よしよしです〜」


 え、こっち!?


「子供あつかいか!」

「リエラさん、かわいいのでよしです」

「雑ぅ!」


 けれども、その空気感は不思議と悪くなかった。

 彼女の細い腕の温もりが暖かく、包み込まれるような感覚に安心してしまう。引越しの疲れもあるのか、なんだか変に気が緩んでいた。

 そんな中、ミーナが少し困ったように


「……寝室、どうしましょうか」と呟いた。


◇◇◇


 ――特に深い意味はない。


 いや本当に、多分ないはずだ。

 まずミーナのベッドには、あの酔っ払いネネを寝かせる必要がある。

 そうなると余るのは、もう片方のシングルベッドだけだ。

「…………」

 そう、俺とミーナの二人が、一つのシングルベッドに入り込んでいた。

 ……それって本当に大丈夫なのだろうか?

 今の俺は見た目が完全に美少女だからセーフなのだろうか。

 しかし中身の問題もあるし、いや、最近もうその“中身男だから”という理論もだいぶ怪しくなってきている。

 え?え???と、俺の頭の中は混乱でぐるぐるしていた。

 だが、そんな俺を置き去りにして、隣から「すぅ……」と静かな寝息が聞こえてきた。

「……え」と横を見ると、なんとミーナはすでに寝ていた。

 寝るのが早すぎる。いやまぁ、そりゃそうか。

 彼女は最近ずっと働きっぱなしだった。

 敏腕プロデューサーみたいな顔をしているけれど、本当はまだ大学一年生の女の子なのだ。

 そう思うと、なんだか急に愛おしく見えてくる。

「……お疲れさま」と小さく呟きながら、俺はそっとミーナの頭を撫でた。

 指先をすり抜ける柔らかい髪の感触と、鼻腔をくすぐる少し甘いシャンプーの匂いが心地よかった。

 するとその瞬間、ぎゅっとミーナが寝たまま俺へ抱きついてきた。

「わっ」と驚いたが、しかも結構しっかりと腕が回されている。

「リエラさん……」ふにゃふにゃの寝言が聞こえる。

「しゅき……」

「…………」

 俺は予想外の展開にしばらく固まってしまった。

 突発的な事態を前にして情報量が多すぎるが、これはただ寝ぼけているだけだ。うん、そう、多分そうに違いない。

 彼女は疲れているし、ベッドから落ちたら危ないから仕方ない。

 そう、これはあくまで安全確保のための措置なのだ。

「……はいはい」

 と、俺は誰にともなく言い訳をする。

「落ちちゃうと大変だもんね」

 と呟きながら、俺はそのままミーナをぎゅっと抱きしめ返した。

 胸に飛び込んできた身体は暖かく、俺の腕の中に収まるほどに小さかった。触れる肌のすべてが柔らかく、確かな存在感がある。

 そして安心したみたいに、ミーナの腕の力が少し緩んだ。

 隣の部屋からは、ネネの「んにゃぁ……」みたいな酔っ払った寝言も聞こえてくる。

 なんだこれ。騒がしくて変な状況だけれど、でもちょっと楽しいかもしれない。

 俺はそのまま静かに目を閉じた。

 新しい生活の匂いに優しく包まれながら、ゆっくりと眠りへ落ちていった。


◇◇◇


 ――ちゅんちゅん、と鳥の鳴き声が聞こえる。

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、新居特有のまだ生活臭の薄い空気を照らしていた。そして、俺の腕の中では、すぅ……すぅ……とミーナが寝ていた。


「…………」


 いや、深い意味はない。本当に、本当に深い意味は一切ないのだ。

 これは事故であり、引越し疲れや酔っ払いネネへの対応が重なった不可抗力である。その結果として偶然こうなっただけで、決して変な意味ではない。

 でも近いな?めちゃくちゃ近いし、しかも寝顔が無防備すぎる。

 寝てる時は年相応どころか、小動物みたいにすやすやしている。

 危ない、これは見続けると良くない。

 変な感情が芽生えてしまうと思い、俺は慌てて視線を逸らした。

 するとその瞬間、隣の部屋から「ぅぅぅぅぅ……」と地獄みたいな呻き声が聞こえてきた。


◇◇◇


「えっと……ほんとごめん」


 朝のリビングには、ミリオンフォロワー越えのカリスマインフルエンサー、天神ネネの姿があった。

 なお、現在の彼女は絶賛正座土下座中である。

 悲しい、あまりにも悲しい絵面だった。

 昨日まで“都会の強い女”だった存在が、床へ額を擦り付けながら謝っている。


「お祝いだーって思ったら、テンション上がっちゃってぇ……」


 と、完全に二日酔いの声を出している。

 対してミーナはにっっっこにこで、怖いくらい上機嫌だった。

 なんなら後光が見えるほど、オーラがキラキラしている。


「ぜんっぜんいいですよ!」


 と満面の笑みで答え、「あ、水飲みます? 二日酔いキツくないですか? まだベッド使ってていいですから」

 気遣う様子はとても優しい。優しいんだけど逆に怖くて、ネネも若干引いて「……?」みたいな顔をしている。


 でも、最終的に彼女は「まぁいっか」って顔になっていた。

 適応力が高いあたり、さすが配信者である。

 俺はというと、ミーナの異様な上機嫌な理由をなんとなく理解してしまっていた。

 そのため、平和のためにあえて触れないことにした。


◇◇◇


 そんなこんなで、朝食と水分補給を終えたあと、俺たちはせっかく揃ったからと企画の打ち合わせへ入った。

 テーブルの上にはノートPCやタブレット、そして資料が並んでいる。

 ただしその中に、見慣れないけれども見慣れた資料が混在していた。


「あ、リエラさん身分証明の提出ありがとうございます」

「へ?」

「契約書です」と、唐突にミーナが切り出す。

「えっと、私、それ、いつだした?」


 身に覚えがなさ過ぎて声が上ずる。


「ここに引っ越すときに出してくれましたよね? ポストに入ってましたよ」

「え、あ、あぁ、えっと?」


 俺は困惑する。

 俺の身分証は基本的に小田山健二のものなのだけど、どうなってんだ?

 それを出したのか? ケンジオダヤマよ。


「キャッシュカードもお返ししますね、お給料楽しみにしててください!」

「ん? お、ああ」


 と、俺は手渡されたものを受け取る。

 返却された身分証明書には「小田山莉恵」とあり、キャッシュカードも莉恵のものである。生年月日もなんかわからないけど若返っていて、今、俺は20歳の小田山莉恵そのものらしい。

 俺の頭の「?」マークは置いといて、ミーナは軽く事務作業を終えると、完全に仕事モードへと入った。

 男の身体から女の子になるなら身分証明書も女の子になるくらいの現象が起こってしまうのか?

 それ以上の思考はミーナのキリっとした声に遮られた。


「では」


 ミーナが眼鏡をくいっと上げるような仕草をした。

 眼鏡はかけてないけど、空気が完全にそれだ。


「ここからの私たちの段取りを確認します」


 そう告げられ、俺とネネが姿勢を正す。

 内容は、大きく分けてネネ加入、新事務所発表、クラン設立の三つだ。

 これらを――ほぼ同時期に行うという。


「まず」


 ミーナがノートPCの画面を切り替え、


「私とリエラさんはオークダンジョンの攻略を進めます」


 現在、俺たちはまだ深層攻略途中であり、ネームド戦はあったが、正式な攻略完了ではない状況だ。


「ボスを討伐後、その時点で、クラン《新生リエラ魔王軍》を設立します」


 続くように、そこが最初の大きな節目になる。宣言された。画面に表示されるその名前は、うん、改めて見るとだいぶヤバい。


「そこへ、ネネさん加入」


 ミーナがネネを見ると「いぇーい」と、ネネが軽くピースサインをして見せた。

 だが、これだけでもエタファン界隈に与えるインパクトはかなり大きい。

 今のネネはもう普通に配信業界上位層である。

 その存在が“リエラ魔王軍”へ入るのだから、話題にならないわけがない。

 さらにミーナが続けて、


「翌日にはネネさんが、私の設立する事務所へ加入します」

「おぉ〜内部的にエタファンがリーク情報になるっぽい流れだね、盛り上がりそう」


 ネネが感心したように拍手をした。

 そこで、俺はふと思い出した。


「……そういえば、事務所名って、結局なんだったの?」

「ふふふ」

 ミーナがちょっと得意げに笑った。


「――《TALE-TELLER》です」


 ミーナの発音がよすぎたため、俺は改めて、


「……テイルテラー?」


 と反芻する。

 最初聞いた時、俺は普通に“TailTerror”、つまり尻尾の恐怖みたいな意味かと思った。

 実際、俺もネネも尻尾あるし魔王軍だし、なんかそれっぽいネーミングだ。

 でも、「違います」とミーナが指を立てる。「Tale-Teller」とは語り部を意味する。

 「尻尾と、物語」と彼女は言葉を紡いだ。

 そこで、ミーナの視線が俺とネネへ向いた。


「ネネさんは獣人アバター」

「そうだね~」

「リエラさんにも尻尾がある」

「あるわね」とやり取りが続く。

「そして」とミーナが静かに笑い、

「裏テーマとして、物語の尻尾をつかむ、つまり“エタファンの謎を解き明かす”意味も込めてます」

「…………」


 その瞬間、俺は少しだけ鳥肌が立った。

 あぁ、なるほど、そういう意味を込めた名前だったのか。

 ただの配信事務所やインフルエンサー集団ではなく、“語る側”であり“掘り下げる側”になるということ。

 世界を、物語を、そして謎を解き明かしていく、そんな壮大な意味が込められていた。


「うわぁ、ミーナちゃん、やっぱ頭いいよねぇ」

 ネネも素直に感心して手放しに称賛する。

「えへへ」

 褒められてちょっと照れている姿は、年相応でかわいい。


 だが同時に、彼女は恐ろしいくらい未来を見ている。

 ネネが加入した時点で、このクランと事務所は間違いなく運営、いや、業界にとって“無視できない存在”になるだろう。

 リエラ、ミーナ、ネネ。この三人が揃った時点で、世間への影響力が桁違いに跳ね上がる。しかもそこへ、“魔王軍”という強烈なコンセプトまで加わるのだ。


「……ふふ」


 気づけば俺は少し笑っていた。

 楽しい、単純にすごく先の展開が楽しみだと思えている。

 配信、攻略、クラン、事務所。それにエタファンの謎を捕食しながら解き明かす。

 これまでバラバラだった要素が、今まさに全部繋がり始めている。


「……なんか」


 俺は椅子へ深く座りながら小さく呟く。


「本当に、始まるのね」


 そう口にすると、ミーナとネネが同時に笑い声を上げた。


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― 新着の感想 ―
身分証とかもどうなるのと思ってたがまさかのご都合展開(知らない設定)だと!? 改変とか別の世界線に移動してる感じ?って事はワンチャン会社に行っても何も言われなかった説?
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