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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
商業都市ジュノリス編

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月灯り照らす、瞳の中

R15の範囲ですが少しだけ性描写があります。苦手な方は読み飛ばしてください。

 システムからログアウトした瞬間、まず最初に私の全身を包み込んだのは、現実世界特有の静けさだった。


 さっきまで耳の奥に残っていた骨の鳴る音も、ミーナの爆炎が空気を押し広げる音も、ネネの軽い笑い声も、クランハウス地下訓練所の石床を踏む感触も、全部が遠くへ引いていく。代わりに私の部屋にある空調の小さな音と、布団の柔らかい匂いが戻ってきた。


 VR端末をゆっくりと外すと、視界がゲームの世界から現実の薄暗い天井へと切り替わった。そこには、見慣れたピンク基調のいつもの部屋が広がっている。

 

 クッションや机、充電ケーブル、開きっぱなしのノートに加え、ミーナが前に置いていった付箋など、少しだけ散らかった生活感が漂っていた。ゲーム内の壮大なクランハウスとは全く違う、私自身のありふれた生活の場所だ。


「……なんとか無事に勝てたわね」


 私が小さく呟くと、かすれた声が現実の喉から震えるように漏れ出た。

 新生リエラ魔王軍の初陣、対人クラン、ネイキッドラオンの撃破。

 正直かなりギリギリだったと思う。

 でも、得るものはあまりにも多かった。

  

 経験値、装備、資金、豪華なクランハウスの獲得まで成し遂げている。


 加えて大幅な装備更新や死霊術・中級の解放、インスタントダンジョン踏破と、あまりにも情報量が多すぎる。

 今日一日の出来事だけで、普通の配信者なら一ヶ月くらいは擦れそうな特大イベントが立て続けに起きているのだ。


 というか、うちの優秀なプロデューサーであるミーナは絶対にこのネタを最大限まで擦り倒すはずだ。サムネや動画を細かく分け、切り抜き導線を作り、ネネの斥候戦から私の捕食に至るまで、すべてを余すところなく素材化するに違いない。


 彼女は本当に頼れる相棒であると同時に、数字に対して底知れない熱を持つプロデューサーなのである。


 私はベッドからゆっくりと起き上がり、少しだけふらつく現実の身体を大きく伸ばした。 現実の低身長で妙に柔らかいこの身体は、ゲーム内に比べてはるかに動かしづらい、けど今日は勝ったいい気分のままなのか妙にバランスがとりやすい。


 たぶん、自分でも扱いに困る部分はあるものの、最近はグラビアとかコスプレとかでこの身体を動かすのに余計な力が必要なくなったのかもしれない。

 ってなんでそんなこと考えているんだろうか私は、自然なことなんだから自然でいいのに。


「喉も渇いたし、デカフェのミルクコーヒーでも飲もうかしら」

 こんな夜更けにカフェインを入れてしまうと、間違いなく朝まで眠れなくなってしまう。 先ほどのラオン捕食の生々しい余韻などを思い出してしまうと、なおさら危険なので、ここは迷わずデカフェ一択だった。


 私は自室のドアを開けて、静まり返った暗い廊下を抜けてリビングへと向かった。ミーナもそろそろログアウトしている頃だろうかと思いながら扉を開けると、ちょうど向こうの部屋から出てきた彼女と正面から鉢合わせた。


「あ」

「……あ」


 と、私たちはお互いの姿を認めて間抜けな声を漏らしてしまう。

 ミーナは眼鏡を少しずらしており、まだログアウト直後のぼんやりとした顔つきを見せていた。

 仮想世界での姿とは打って変わって、現実ではゆるい部屋着姿で立っている。髪も少し乱れたまま眠そうに目をこすっているこのギャップは、控えめに言ってもずるすぎる。


「お疲れさま、ミーナ」

「お疲れさまです、リエラさん……勝ちましたね」

「ええ、勝ったわねぇ」


 私たちはリビングの入口で立ったまま、どちらからともなくふふっと笑い合う。


 それは決して大きな声で笑い合うようなものではなく、叫ぶような激しい喜びに満ちたものでもなかった。戦争中の異常な高揚感がようやく抜け落ちて、現実に戻ってきた安心感からくるじんわりとした笑いだった。


「あのインフェルノ、本当にすごかったわ」

「リエラさんが身を挺して止めてくれたから撃てたんです」

「いやいや、私はかなりギリギリだったのよ。ラオンの最後なんて、ほんとに怖かったし」

「そう言いながらも、リエラさんはすごく楽しそうでしたよ」

「……そんなに顔に出てたかしら?」

「ふふ、はい」

「うわぁ……やってしまったわ」

 私は思わず両手で自分の顔を覆って天を仰いだ。

 もう完全に手遅れであり、あの狂気じみた笑顔の映像はネットの海にすべて残ってしまっている。


 間違いなく切り抜かれるし、なんなら『ラオン捕食時のリエラ様、完全に魔王』や『リエラ様、勝利の味を知る』といったセンセーショナルなタイトルがつくに決まっている。


 そんな未来の光景が、私の脳裏にはっきりと見えていた。

 頭を抱える私をよそに、ミーナは少しだけ楽しそうな表情を浮かべていた。


「大丈夫です。あの映像なら間違いなくかなり伸びますから」

「全く慰めになってないのよ」


 私はジト目を向け、冷蔵庫へと向かった。

 冷蔵庫の中には、牛乳とデカフェコーヒーを混ぜて少しだけ甘くした作り置きのミルクコーヒーが入っている。激しい戦闘を終えた後の疲れた身体には、こういう甘さがちょうどいいのだ。


 私が冷蔵庫の前に立ち、取っ手へ手を伸ばしたその瞬間、背後でミーナがハッと息を呑む気配がした。


「リエラさん……それ」


 彼女から妙に硬い声がかけられる。


「ん? それって、賞味期限でも切れてた?」


 首を傾げ、冷蔵庫を開けながら後ろを振り返った。

 ミーナは私の腰のあたり、正確に言えばいつもなら何もないはずの腰の後ろの空間をじっと見つめている。

 彼女の視線がそこに完全に釘付けになっているのを見て、私はさらに不思議そうに首を傾げた。


「いきなりどうしたの?」

「尻尾が……尻尾が、あります」


 信じられないような声で答えた。

 私は一瞬、彼女が何を言っているのか全く理解できなかった。


 開け放たれた冷蔵庫の冷気が頬に触れ、棚の奥にあるミルクコーヒーのボトルが目に入る中、リビングの照明が妙に白々しく感じられる。

 ミーナは決して冗談を言うような顔つきではなく、むしろその表情からはすーっと血の気が引いていた。

 私はゆっくりと、自分の腰の後ろへと意識を向けてみた。するとそこには、まるで当たり前のように、背骨の少し下から伸びるしなやかな何かの感覚が存在していたのだ。


 私の意思に合わせるように、ゆらりとそれが動く。意思に合わせたというよりは、最初からそういう身体の構造だったかのように、あまりにも自然な挙動だった。


 そこにあるのは、ゲーム内で何度も見て戦闘で使い、つい先ほどラオンを捕食したあの黒く艶のある尻尾だ。それがなぜか、現実の私の腰から直接生え出ているのである。

 これほど異常な事態であるにもかかわらず、なぜだろうか、私は少しも驚きを感じていなかった。むしろ、目の前でミーナがひどく驚愕していることの方が、私にとっては不思議に思えるくらいだ。


「あはは、何を言っているのミーナ。尻尾があるなんて、当たり前じゃない……」


 私は冷蔵庫の扉を開けたまま、さも当然の事実であるかのようにそう口にしていた。その言葉を言い終えた瞬間、ミーナの目が限界まで大きく見開かれ、リビングの空気が完全に凍りつく。


 私自身も、数秒遅れて自分の発した言葉の異常さを理解した。

 現実に尻尾があることが当たり前などという認識は、明らかに狂っている。

 昨日まで、いや今日のログイン前まで、現実の私に尻尾など絶対に存在しなかったはずだ。それなのに、腰の後ろでゆらゆらと揺れるこの器官は、あまりにも自然に私の身体の一部として馴染みきっていた。


 私は恐る恐る、自分自身の腰の後ろへとゆっくり手を伸ばした。

 震える指先が黒い尻尾に触れると、そこには確かな温もりと、触れられたという生々しい感覚がある。


 おそるおそる指で触れた箇所がぞくりと震え、思いがけない感覚に「……えっ」と私自身の声が戸惑いに震えてしまう。


「リエラさん、どうか落ち着いてください」

「いや、頭はしっかり落ち着いてるわよ。落ち着いてるけど、これは一体どういうことなの……」


 そう返したものの、その先を紡ぐ言葉がどうしても見つからなかった。

 私の意思に合わせて、現実の腰から生えた尻尾がゆらゆらと揺れ動く。

 ゲーム内のアバターの身体が、現実の肉体へと浸食してきたのだ。

 

 エタファンの中の『リエラ』という存在と、現実の私との曖昧な境界線が、またひとつ決定的に溶け落ちてしまったのだ。


 ミーナはぎゅっと唇を噛み締め、明らかに脳内で何かを激しく考えている顔つきになった。未知の現象を怖がってはいるものの、それ以上に現状を冷静に分析しようと努めているようだ。


 こんな異常事態に直面しても決して思考を止めないあたり、さすがは私の頼れる相棒である。


「どこか痛みはありますか?」

「いや、特に痛いところはないわ……」

「自由に動かせますか?」

「ええ、問題なく動かせるわ」


 私は尻尾を軽く持ち上げてふりふりしてみせる。

 そのスムーズな動きを見て、ミーナの表情はさらに一段と真剣なものになった。


「現実に作用する……? そんなまさか……。いや、でも心当たりは……」


 ミーナがひとりぶつぶつといっている。


「なにか、あっち側で変わったことありました? 獲得ログとか……」

「ごめん正直覚えてないわ。ラオンを食べて勝って、クランハウスに行って装備更新して、ダンジョンまで行って……」


 私が指折り数えるように振り返る。


「確かに情報量が多すぎますね」

「本当にその通りよ」

「リエラさん、その尻尾、触ってみてもいいですか?」

「ええ、いいわよ」

「では、失礼します……」


 許可を出したものの、他人の手に直接触れられると想像以上にむずむずとした感覚が走る。


「んっ……ふぅ……んんっ」


 背筋にぞくぞくとした電流に近い何かが走り、身体がびくびくと過敏に反応してしまう。ミーナは感触を確かめるように力を入れたり抜いたりしながら、私の生々しい反応をじっと観察しているようだった。


「ちょ……あ……ふぅ……み、ミーナ……んふぅ……」


 私が情けない声を漏らして身悶えしていると、彼女は確信に満ちた声で、


「リエラさん……これ、間違いなく本物ですね」


 私は荒い息を吐きながら、


「え? ああ、うん……どうやら間違いなくそうみたいね」


 力なく肯定することしかできなかった。

 デカフェのミルクコーヒーを飲みに来ただけの、ありふれた夜の現実。

 そんな日常の空間に、私の尻尾が生えているという異常が入り込んでいる。

 私は昂る気持ちを抑えるように、ゆっくりと深く息を吐き出した。


「……ミーナ、先にミルクコーヒー、飲んでいいかしら?」


 私が尋ねると、ミーナは一瞬だけ固まったあと、深く息を吐き出した。


「はい。まずは落ち着いて飲みましょう。その後、しっかりと記録を取ります」

「やっぱりそうなるのね」


 苦笑すると、彼女は


「……当然の対応です」


 と真顔で返した。

 私は冷蔵庫からミルクコーヒーのボトルを取り出した。

 グラスを二つ用意し、片方に注ぎながら、腰の後ろで揺れる尻尾がテーブルの脚にこつんと当たる。


 間違いなく現実の物理的な音が響いた。その小さな硬い音を聞いただけで、胸の奥が不穏にざわついてしまう。私は冷たいグラスをしっかりと握りしめ、ミーナへと手渡した。

 

 グラスを受け取りながら、ミーナは私の尻尾をじっと見つめる。


「あの、それ……もう少し触ってもいいですか?」と尋ねてきた。


 私はそれに戸惑いながらも先ほど、立っていられなくなってしまったことを思い出す。


「ええ、いいわよ。でも、ここじゃなくてお部屋へいきましょう」


 くるくると髪の毛をいじりながら、少し恥ずかしがりながらそう言うと、何となく察したのか彼女も少し頬を染めて頷いた。


 すっかり深くなった月灯りが、静寂に包まれたリビングを薄暗く照らしている。

 現実に生え出た尻尾が、私の意思に呼応してゆらゆらと揺れ動いていた。

 仮想世界であるはずのエタファンは、まだまだ私たちを離す気がないらしい。ゲームと現実の境界が、またひとつ音を立てて崩れ落ちていく。


「なんか、すっごい……その、気持ちよかったから……じゃなくて……すごく敏感っぽいから……えっと、優しく触ってね……」


 私は自室の扉を閉め、部屋の照明が暖かなオレンジ色に染まるのを見届けた。

 いつもなら、一日の疲れを癒すための安らぎの空間。けれど今夜は、尻尾の感触が加わったことで、何気ない場所さえも少しだけ別の場所のように感じられた。


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― 新着の感想 ―
ゲームが現実(リアル)を侵食してきたか やはりエタファンはただのゲームじゃないんだな?
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