【限定①】 茂華町クリスマス点火祭 [前編]
このストーリーは定期演奏会後のアフターストーリーです。
12月22日。
優月はとあるスーパーマーケットにて、誰かと電話をしていた。
「…次は何買えば良いの?」
その声は僅かに高ぶっている。電話先は妹の美優だ。
『あとはモールモール』
「モール?」
『1回で通じないの?』
煽るようなその響き。優月は思わず顔をしかめた。
「通じないんじゃなくて、モールって何?」
『え?フサフサした壁に掛けるやつ』
「少し待ってて」
『30秒だけ待っててあげる。感謝しなさい』
人に頼んでおいて何だこの人は?と思いながらも、優月は不遜な顔で調べ始めた。
「…ああ。クリスマスのモールね」
『壁に掛けるから4つ買ってきて』
「2つでいいよ。折り紙の輪っかを使うから」
そう言って優月は肩をすくめた。
『え?折り紙ー?誰が作るの?』
「…美優、僕が元美術部だったの忘れてるでしょ?」
『忘れたー』
はぁ、呆れたように深呼吸を吐き出した。
電話を切って、優月は百円ショップへと歩き出した。
「あ、」
その時誰かを見つける。
それはポスターを熱心に見つめては溜息を吐く瑠璃だった。
「…瑠璃ちゃん?」
瑠璃はここの近くに住んでいる。しかも今は受験期なので、こんな所にいるということは特段珍しいことでもない。
「…ひとり?」
それにしても彼女の動きには焦りがない。誰かを待っているというわけでもなさそうだ。
「瑠璃ちゃん?」
優月は勇気を出して声を掛けた。あまり人通りの多い所で、極力話しかけたくはなかった。
だが1人を放っておくなど優月にはできなかった。
「…あっ」
すると瑠璃はすぐに気付いた。こちらを見ては小さく無邪気に手を振り返した。
「優月先輩?」
優月が歩み寄ると瑠璃は驚いたように目を丸めていた。
「美優にクリスマスパーティーの買い出し頼まれちゃって」
彼はそのまま言って笑った。
「…そうなんだぁ。あ、定期演奏会お疲れ様でした」
「ありがとう」
優月は優しく笑い返した。
「で、何見てるの?」
次に彼が訊ねた。すると瑠璃は熱心に見ていたポスターを指さす。
「点火祭だよ」
「点火祭?」
ほら、と瑠璃は小さい指を伸ばす。
「イルミネーションの点火祭!」
「へぇ、ここの近くなんだ」
紙面には、キラキラと光るイルミネーションのイラストが貼り付けられていた。12月24日〜26日まで!と可愛げなフォントの横には赤いサンタが突っ立っていた。
「…でもね、」
しかし瑠璃は顔を少しだけ埋める。
「みんな行かないんだって」
「あらあら、受験勉強だから?」
「うん。東藤行くの私だけだから」
それを聞いて優月は徐にスマホを取り出す。
「…優愛ちゃんに頼もうか?」
そしてこう尋ねた。
「…」
しかし瑠璃の顔色が真っ青に塗りたくられた。
「…優愛お姉ちゃん、香坂先輩たちと行くんだって」
「そ、そうなんだ」
香坂白夜。茂華中学校元部長だった女の子だ。
「どうしょう」
瑠璃は心底困っているようだった。そもそも瑠璃は1人が大嫌いなのだ。
(…想大くんはどうだろう?)
「…ねぇ、想大くんはどう?」
優月は一部の望みをかけて訊ねる。
「想大くん…いいの?」
「うん。本人に聞いてみたら?」
「うん!」
「じゃあ、頑張ってね」
優月は最後、そう言って彼女と別れた。
その心は心配に満ちていた。
(優愛…お姉ちゃんみたい…)
だが瑠璃は、優月の姿を優愛と重ねていた。
スーパーを出て電話する優月は顔をしかめた。
「えっ?美玖音ちゃんと?」
『ああ!オッケーもらってな』
「…ふーん」
朱雀美玖音。どうやら彼女の顔が想大のタイプだったらしく、今は猛アタック中なのだ。
『どうかした?』
「…いや、何でもない」
想大の声には喜色が含まれている。これを邪魔するのは何だか気が引ける。ならばと黙った方が良いと思ったのだ。
「それにしても…美玖音ちゃんと行くんだ」
『ああ。後輩も彼氏と行くらしくて暇なんだって』 「そう」
仕方ないな、と優月は諦めた。瑠璃には申し訳ないが、これなら諦めたほうが早いだろう。
「…瑠璃ちゃん、放っておけないんだよなぁ」
今まで瑠璃のことは想大が何とかしてくれる、と思っていただけに悩み深い。
「…どうしょうか」
その悩みは結局、家に帰っても続いた。赤と緑の折り紙を切っては、糊で貼り付け、繰り返すうちに蛇のような長さに達していた。
「これくらいで良いのかな?」
何も置かれていない机上に、赤と緑の輪っかを並べる。乱雑に並べてしまっては絡まってしまう。丁寧に置いた彼はベッドに寝転がった。まだ定期演奏会の疲れが抜け切っていないのだ。
(点火祭…かぁ)
瑠璃が行く24日は明後日だ。25日は家族とクリスマスパーティーをするという。
「24は丁度、終業式だよなぁ。帰り早いし、どこかで時間でも潰してから行こうかな?」
茂華のレジャー施設は家から少し遠い。ならば学校がある日に駅から直接行く方が早いのだ。
「…そうしよ」
取り敢えず、瑠璃と同じ日日に行くことにした。
――当日
夕方5時。そんな時間なのに充分暗い。茂華町は自然あふれる田舎だ。山々のせいで日照時間も短い。
「…暗いなぁ」
にしても、優月は溜息を吐く。
「人が多いな」
その声にはちょっぴり呆れが混じっていた。子供が多過ぎて、旧友に会わないか心配になる。
点火は5時30分だという。それまで優月は屋台に並んで時間を潰していた。
ぴんぽろーん♪
「?」
突如、メールの通知音が鳴り響いた。優月はスマホを取り出した。
「…鳳月さん?」
その相手は珍しくゆなだ。ゆなは滅多に連絡を寄越さない。だがこうなった理由に優月は顔をしかめた。
(…またイジりか)
ゆなは非常に性格が悪い。
《ぼっちでイルミ楽しんでる〜?》
「そらきた」
予想通りの文面で逆に安心した。定期演奏会前もずっと煽られてきたので、既に優月は慣れていた。
「…ぼっちで悪かったな、っと」
優月は不遜な顔をしながらも返信した。
今日1人な理由。それは点火祭に行こうとする友達がいなかったからだ。優月は押しが本当に苦手である。故に『行く?』とだけしか言わなかった。
「…はぁ。みんな休みたいよな」
本当は25日に来る友達が多いことを、優月はまだ知らない。
フライドポテトとチキンナゲット詰めを買った優月は、闇に佇む木々たちを見つめる。よく見ると至る所に小さな電球が取り付けられている。
「んー、こっくらつくんら…」
優月は感心したように頷く。しかし言葉を返してくれる相手はいない。咀嚼しながら孤独は寂しいな、と思った。
その時だった。
「…!?」
電球に眩い光が灯る。赤と緑、桃と黄。様々な光が真冬の闇夜を灯した。寂しげな木々たちは一瞬で光り輝くイルミネーションと変貌した。
「…やば、綺麗すぎ」
しかも公園には人工的なイルミネーションも灯っている。電気代いくら掛かるんだろう?ドラム何台分かな?と思いながら歩き出した。
ここら辺は人がいない。
優月は少しばかり悲しかったが、それはそれで人生の思い出だな、と上向き思考で光を見つめた。
「…んあ?」
その時だった。
「あ、いた」
可愛らしい服に身を包んだ少女。髪をひとつに結び上げた彼女はこちらを一点に見る。
「優月先輩?」
その声で優月は確信した。
(本当に1人だったんだ…)
古叢井瑠璃。彼女はただ1人孤独そうだった。
しかし何故か…それは可愛らしく見えた――。




