瑠璃たちの修学旅行 【京都編 上 】
古叢井瑠璃…純粋無垢の優しい性格。
伊崎凪咲…瑠璃の親友。少し厳しいが優しい。
鈴衛音織…武将のような喋り口調をする。
久城美心乃…瑠璃たちと同じ吹奏楽部。
矢野雄成…瑠璃と別のクラス。普段は鬼の吹奏楽部長。
ホテル、というより旅館に到着した瑠璃たちは、入所式を終え、部屋へと入る。
「わぁ!和室だぁ」
瑠璃が驚くと、凪咲は「驚くこと?」とほんのりと苦笑いを浮かべる。
「いやぁ、懐かしいなって。大内にいた時はお家が和室だったんだよ」
「大内。ああ、前住んでたところねー」
凪咲はそう言って、リュックを下ろした。
「えっと、6時30分から夕飯でしょ?何だろうね?」
「さぁ?」
すると、音織がふたりの間に入り込んでくる。
「…ねぇねぇ、恋バナしないか?」
「えっ?恋バナ?」
瑠璃が頬を赤らめる。
「そうそうー!せんかい?」
「私、瑠璃の恋バナ聞きたい」
「な、凪咲ァ」
瑠璃は仕方なく、恋バナをすることにした。
その後、大宴会場での食事だった。
「わぁ。麻婆豆腐だぁ」
「味、薄そう」
瑠璃と凪咲はそう言って、前を見る。前では、代表の生徒が話していた。
「皆さん、美味しく頂きましょう!いただきます!」
その言葉から食事が始まった。
「うーっ、美味しい」
瑠璃はそう言って、今にもとろけそうな豆腐を頬張る。凪咲も「ホント」と言う。
「甘味がしてとても良い」
音織も嬉しそうに食べている。
そうして夕飯が終わると、風呂の時間となった。
「やっぱり、いいお湯だったぁ」
瑠璃はそう言って、ドライヤーで乾かした髪をそっと撫でた。うねりの付いた綺麗な髪。
「…さぁて、恋バナするんでしょ?早く部屋に帰ろ」
「えぇー、分かったよ…」
凪咲の押しに負けた瑠璃は仕方なさそうに、部屋へと戻った。
その日の深夜。
『瑠璃ちゃんって彼氏いるんでしょ?』
美心乃が訊いてくる。うん、と瑠璃は頷いた。
『小林想大先輩だっけ?』
『そうだよ』
『いいなぁ。私も彼氏欲しい』
『いいでしょ?この前ね、デート行ったんだぁ』
すると音織が『とても良い』と言う。
『遊園地行ったの。そしたら想大くん、子供に水鉄砲で打たれちゃって、びしょ濡れになったの』
その言葉に、凪咲がヒクヒクと笑いを堪える。
『えっ?何で小林って人、好きになったの?』
『うーん。1番、私に話しかけてくれたからかな』 『へ、へぇ』
『いちばんの馴れ初めはね…』
その後、まだ瑠璃の恋バナは続いたが、いつの間にか皆は寝静まった。
翌日。
「ほー、これだけか」
旅館を出た生徒の人数を見て、先生は苦笑いをした。朝の散歩に行くと言われて来た人数は10人余り。その中には瑠璃と凪咲がいた。そうして、生徒たちは祇園の町を歩き出した。
チョロチョロと透明な水が流れる。小川と小鳥のせせらぎ。趣があるな、と瑠璃は思う。
「空気が綺麗とはこのことだね」
「ほんと」
澄んだ空気が肺の奥まで澄み渡る。気持ちいい。
瑠璃はチャッとフィルムカメラを構える。
「ねぇ、凪咲一緒に撮らない?」
「えっ?いいけど」
2人はフィルムカメラを構え、2回シャッターを押した。すると瑠璃は満足そうに、写真を見て微笑んだ。
そうして朝の京都を堪能していると、あっという間に旅館へと戻った。
「…おはよぉ」
部屋へと戻ると、音織がふぁぁ、と欠伸をする。
「ただいまぁ」
瑠璃がそう言って、フィルムカメラをリュックへ仕舞った。
「私も早く起きればよかったなぁ。ふぁぁ〜…」
美心乃がそう言うと、瑠璃はクスクスと笑った。
その後、朝食を終え、班別研修になった。
「あ、あそこだね。移動のタクシー」
班長である凪咲がそう言って、黒いワンボックスカーを指差す。車の元へ着いた4人は、近くにいた40歳ほどの男性に話しかける。
「おはようございます。運転手さん、よろしくお願いします」
手配されたタクシーの運転手に、凪咲が小さく頭を下げた。
『よろしくお願いします!』
それに呼応するように、瑠璃、美心乃、音織が頭を下げる。
「元気ですね。運転手兼ガイドの横山です。よろしくね」
運転手は人の良さそうな笑みを浮かべて、ドアを開けた。自動で開くドアに4人は入り込んだ。
「あ、涼しい」
美心乃が言うと、ホントと凪咲も目を丸める。ひやりと肌に感じるのではなく、肌に触れる程度の涼しさ。朝はこれの涼しさが丁度いい。
そうして、向かった先は清水寺だ。
ーAM9時 清水寺ー
「わぁ」
大きな門だ、と瑠璃は門を抜ける。そして石造りの階段を上る。すると本堂へ到着した。
「さて、ここが本堂です」
横山のガイド通り、ここは本堂だ。木造りの手摺り越しには、京都の街並みが壮大と並んでいた。
「この本堂は国宝に指定されているのは知っていますか?」
「知らないです」
瑠璃が言うと横山は苦笑いをした。正直に答えた瑠璃だが、その後、凪咲に肘打ちを食らった。
「…わぁ、綺麗!」
音織と美心乃が写真を撮る。
「さて、急がないと他の生徒たちが来ちゃいますよ」
「…ホントだ」
再びフィルムカメラで凪咲と撮った瑠璃は、人の波に詰められる生徒を見て呑気そうに言った。
しかし白いシャツに黒いズボン。どこの学校も制服は同じだな、と瑠璃は思った。
「みんな制服おんなじだね」
音羽の滝へ続く階段を下りながら、美心乃にそう言う。
「そうだね。私もコンクールで皆と合流する時、制服見て間違えかけたから」
しかし凪咲は首を横に振った。
「いや、胸元の校章、見れば分かるでしょ」
「そうだけど」
美心乃が言うと、瑠璃は小さくため息をつく。
「はぁ。制服って個性出ないから、ホントは苦手」
突然のカミングアウトに凪咲は眉をへの字にして笑った。
「まぁ、演奏に個性は関係ないし、制服は学校の顔だし。多分、私服でも許されるの、冬馬高校か東藤高校くらいだよ」
そう言うと、きゅん!と瑠璃は思わず声を上げた。
「…私、東藤高校に行こうかな?」
「いいんじゃない?彼氏と同じ高校」
すると、今まで音織と話していた横山が、3人を見る。
「へっ?古叢井さん、彼女おるん?」
そう尋ねられると、瑠璃は恥ずかしそうに笑う。
「はい。3つ上ですけど」
「ええねぇ。青春やな〜」
波長の合う会話を聞いて、いいなぁ、と凪咲は口を尖らせる。
「音羽の滝で願ってきなぁ」
横山のからかいと同時に、音羽の滝へと到着した。朝一番なので人が少ない。しかし数十分後には、修学旅行生の波でいっぱいになるのだろう。
そうして着いた場所は音羽の滝。
屋根から横へ突き出た1本の柱から、ちょろちょろと水が流れる。
「この滝にはご利益があってな、左が学業、真ん中が恋愛成就、右が健康なんだ」
「へぇ」
すると瑠璃は迷うこと無く、真ん中の滝へと歩みだした。
「あの子、恋愛成就の意味分かってる?」
それを見た凪咲が心配そうに言うと、美心乃は首を横に振った。
「しかし、愛に満ちた日々とは羨ましい」
その傍ら、音織は悲しそうだった。音織は癖のある口調からか、男子が全く寄ってこない。
そうして坂を下ると、土産屋へと到着した。
「ふふっ、想大くんと優愛お姉ちゃんと優月先輩にお土産を〜♪」
「へぇ。何買うの?」
美心乃がそれとなく訊ねると、瑠璃はニコニコと笑う。
「想大くんと優愛お姉ちゃんには御守りとキーホルダー。優月先輩にはしおりを買うの」
「へ、へぇ」
そこには、何故だが温度差があった。すかさず、もうひとつの質問を投げかける。
「じゃあ、さっしーとシュウには?」
「あ、さっちゃんと秀麟君には八ツ橋だよ」
「もう決まってるんだ」
「この前、楽器のパートを決めた時に、リクエストされた」
すると凪咲が瑠璃の頭を撫でた。
「それ、この前、笠松先生が私に言ってたよ」
「えへ!バレてたんかいな♪」
瑠璃は後ろめたそうにそう言った。実はお土産の話をしている途中、笠松が突然話しかけてきたことがあったのだ。まさか本当は聞かれていたとは。
「部員全員に八ツ橋買って来たら、目を瞑っててあげる言うてたよ」
凪咲が悪魔のように囁くと、瑠璃は「分かったよ〜」と渋々ながらも買うことを了承した。
「それホント?」
美心乃が訊くと凪咲は口角を持ち上げる。
「ウソに決まってるでしょ?」
「あの子、将来、詐欺に遭わないか心配…」
その言葉には、凪咲も大きく頷いて同意した。
すると老舗の店に到着した。
「わぁ!色んな味があるー!さっちゃんの言ってた通りだぁ」
「…ほんと」
イチゴやチョコレート、ラムネの味がした彩り豊かな八つ橋がずらりと並んでいた。全てが美味しそうだ。
「買っちゃった!」
結局、瑠璃は満足そうに、全員分の八つ橋を購入した。
「リュックがパンパンじゃん」
美心乃が言うと、瑠璃は「うん」と頷いた。
これは嘘と明かすのも酷なので、バレるまでは黙っていることにした。
そうして、次にタクシーは伏見稲荷大社へと向かった。
ー10時30分 伏見稲荷大社ー
「…わぁぁ」
唐紅の鳥居は千本鳥居。瑠璃たちは鳥居をくぐりながら歩いていた。
「鳥居が綺麗!」
「ほんとぉ。ここが家の前にあったらな」
「あったら入るの大変じゃない」
音織と凪咲が言い合う。瑠璃は鳥居の柱を見る。
「なんか書いてある」
寄贈者の名前だろう、と瑠璃は思っていると、ある場所へ辿り着いた。
「そういえば横山さん」
瑠璃が横山の方を見る。
「狐さんの口元って何をくわえてるんですか?」
その質問に横山はカラカラと笑う。
「鍵だよ。その鍵はね、稲荷大神の宝物庫の鍵だと言われている」
「へぇ。鍵なんですね」
瑠璃はスッキリしたように、トコトコと歩き出す。
あれ、と瑠璃が足を止める。
「おもかる石じゃん」
そう言って凪咲と美心乃が寄ってくる。
「ふふ、占ってみようかな?」
凪咲はそう言って、頭の中で願い事を唱える。
《みんなと東関東大会で金賞穫れますように!》
その念の元、凪咲は石を両手で持ち上げる。
(思ったより…軽い?)
凪咲は思わず目を丸くする。意外と軽かった。軽ければ叶う…のか?
「凪咲ちゃん、どう?」
「うん!思ったより軽かったわ。まぁ重いことに変わりは無いけれど」
「えぇ。じゃあ私も!」
「彼氏との縁でも願いな」
「うん!!」
凪咲の辛口に瑠璃は素直に頷く。普段よりも素直だな、と凪咲は思った。
《ずっと想大くんと居られますように!》
瑠璃は必死の祈りの元、石を持ち上げる。
(うっ…!重っ)
予想外の結果に思わず顔をしかめた。
「瑠璃、どう?」
「瑠璃ちゃん?」
凪咲と美心乃が心配そうに駆け寄る。
「ふへへへ。か、かぁるいなぁ〜♪」
瑠璃は、やせ我慢を発動させながら、石を置いた。
(…待って。重かった。やばい…)
瑠璃は顔を青ざめさせた。はっきり言えば、グロッケンや和太鼓などの楽器よりも重かった気がした。
結局、この後、八坂神社にて縁結びの御守りを買うことが決定した。
【続く】




