【第13話:この場所で、働いている意味】
「この前、TikTokで見ました。
…ほんとに、ここだったんですね。」
そう言って入ってきたのは、初めて見る女性のお客さんだった。
なでしこ店内の奥、フリルのカーテン越しに、キャストの誰かが目を丸くした。
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ここ最近、“SNS見て来た”というお客さんが明らかに増えている。
特にTikTokの「1分だけ見て」シリーズは、静かな拡散力を持っていた。
堅香子では、深夜帯に来る常連の中に、
「Xの堅香子ナイト、毎晩見てる」なんて言う人も現れ始めた。
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なでしこのある日。
営業前、鏡の前でメイクをしていたキャストの1人が、ぽつりとつぶやいた。
「なんか……最近、ここの空気好きかも。」
誰に向けたわけでもないその一言に、隣にいたもう1人が小さく笑った。
「わかる。」
ふたりはそれきり何も言わず、ただリップの色を確認しながら頷き合った。
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堅香子の深夜帯でも、ひとりのキャストが控え室でスマホを見ながらつぶやいた。
「これ、私だ。」
深夜3時の投稿に、こっそり写っていた後ろ姿。
“自分”が切り取られて、誰かに見られて、来店の理由になっている。
“なんとなくいる”存在じゃない。
“働いている意味”が、じんわりと染みてくる。
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まだ、何かが大きく変わったわけじゃない。
でも、店の名前が、外から届くたびに
キャストたちの中で、小さな誇りが育っていく。
「自分がここにいることには、きっと意味がある。」
それはまだ確信じゃない。
でも、歩く先にちゃんと光があると思えるだけで、
今日の出勤が少しだけ、誇らしくなる。




