【第10話:限られた席で、できること
「レナさん、少し時間もらえますか?」
ナナが声をかけてきたのは、月曜の昼下がりだった。
まだ眠そうな顔。でも、そこにはいつもと違う気配があった。
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堅香子は特殊な店舗だ。
営業時間は朝5時まで。
席数は10席、キャストは常に1〜2人。
いわゆる“深夜帯”が最も強く、密度の濃い接客が求められる。
現在は幹部キャストの応援で回している状態。
なでしこからスカウトしたキャストもいるが、体制は不安定だ。
平日は来店10名、週末は18名が目標。
特に週末は、朝5時の営業終了までに5名のお客様が残っている状態を維持したい。
それがこの店の“売上の柱”であり、“空気”でもある。
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「正直、ずっと回すだけで精一杯で……。
でも、今のままだといつまでも応援頼りで、根っこが育たないと思って。」
ナナが広げたノートには、スカウトキャストの名前と、過去の稼働履歴が丁寧にまとめられていた。
勤務帯、来店傾向、リピート数、SNSの動き──小さな情報の積み重ねだった。
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「金・土の深夜に、“固定メンバー”をつくろうと思ってます。
なでしこ組の中でも朝方まで残れる子に声をかけて、
週末限定でも“堅香子の顔”って立ち位置を作りたいんです。」
「最初は人じゃなくて、“流れ”を定着させたくて。」
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レナはしばらく黙ってから、ゆっくりと口を開いた。
「ナナ……いつの間に、そんなに考えるようになったの?」
「……任されたからには、ちゃんとやりたいって思ったんです。」
その言葉に、レナは目を細めた。
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「週末18名って、簡単じゃない。
でも、10席のうち5席が朝まで埋まる状態を作れたら、それってすごいこと。
“狭さ”は、“満席の強さ”にもなるからね。」
「平日は?」
「接客密度で勝負します。常連さんの滞在率を上げたいので、週ごとの分析もしてます。」
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“相談”という名の“報告”。
レナはそれを静かに受け止めながら、確かに感じていた。
──この子はもう、自分の店として動いている。
「次は、報告いらないくらいに、ナナが全部動かしていいよ。」
ナナは、はにかんだようにうなずいた。
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限られた10席で、どれだけの空気を作れるか。
堅香子の“リズム”が、ようやく回り始めようとしていた。




