44.平等
私は選ばれた人間だ。
「早くすませてこい」
「はい、王様」
だから王様の道具に選ばれた。
膝をついて忠誠を誓う。
この世は残酷だとそれを知った。
この人に刻み込まれた。
◇
こうなる前は全てが順調だった。
私だけの忠実な道具達。
可愛い可愛い次の大切。
そんな大切を手に入れた少し後。
満たされない充実が私を覆った日々の中で、それは突然訪れた。
「俺のために尽くせ」
城に呼ばれて王様にそう言われた。
すぐさま拒否をした。
あの人の道具から今度は王様の道具へ。
そうなるのは死んでもごめんだった。
ただ相手が違うだけ。
知ってるか、知らないか。
それをわかってるだけ。
対等になる為に望んだ権利だった。
でも、目的をなくした今はただの足枷でしかない。
それでも護ると決めた、王になると誓ったから。
「これが最短の道だ」
多分、そうなんだと思う。
このよくわからない争いに正解はあるんだろうか。
そう思っていたところに突然、道ができた。
それでも理由を並べて、言い訳をした。
自分は自分なりのやり方で王になるんだと伝えた。
誰かのモノに成り下がる。
それは2度と私のプライドが自尊心が許さない。
「納得できないならチャンスをやる」
平等とは素晴らしい言葉だ。
「俺と戦って、もしお前が勝てたらもう何も言わない」
「私になんの得があるんですか?」
それは甘くて優しい。
「そもそもこの機会を与えてやることでお前は得ている」
誰しもが望んで、願うだろう。
「俺はこんなこと許したことはない」
でも、そんなものはない。
「けど、お前には特別だ。だから私に屈服した後、お前の知りたがってることを教えてやる」
「……」
「大丈夫だ。勝っても負けてもちゃんと教えてやる。伝え方が変わるだけだ」
「……何のことですか?」
「アキのこと知りたいんだろ?」
この人は何でも知ってる。
「アキのこと忘れられないんだろ?」
わたしが知らないことも何もかも知っている。
「だから、それも含めて納得する為の機会をやる。俺は優しいだろ?」
「……私が勝ったら?」
この関係は対等じゃない。
「全てを教えてやる」
「私が負けたら?」
この関係は平等じゃない。
「仕事を果たせば、少しずつ教えてやる」
だから力で、暴力で対等と平等を掴み取る。
今までと何も変わらない。
「飴は必要だろ?」
確かに私は得られてる。
だから、
「わかりました」
負けるつもりなんてない。
失うつもりなんてない。
「あなたを倒して自由にさせてもらいます」
選ばれた特別な私はそう答えた。
◇
「はぁ……はぁ……はぁ」
「どうした?」
私は無様に這いつくばる。
何もできずに遊ばれている。
全てが通用せず、手札が尽きた後に思い知らされた。
私に選択肢なんて初めからなかった。
お腹を蹴られて、吹き飛ばされる。
私は血を吐いて疼くまる。
こちらに歩いてくる音が耳に響く。
恐怖で体が震える。
失う恐怖で心が支配される。
「お前は特別だよ」
顔面をを掴まれて、持ち上げられる。
抵抗する力なんて何一つ残ってない。
目を逸らすことができない。
体が動かない。
魔法も使えない。
「本当に壊し甲斐がある女だ」
「ひぃ――」
震えが止まらない。
涙が止まらない。
あの日以来、流したことなんてなかったのに。
はじめて感じる、全てを壊される感覚。
「アイツとは違う」
恐怖と忠誠を脳に刻み込まれる。
手を離されて、その場に崩れ落ちる。
「ハル。立場は理解できたか?」
「……はい。申し訳ありませんでした」
泣きながら赦しをこう。
「もう一度言う。俺のために尽くせ」
私は全部壊された。
これが本物の失うという気持ち。
私はわかってなかった。
望めば手に入ると思っていた。
手放しても願えばまた掴めると思っていた。
失っても取り戻せると信じてた。
でも、今日知ってしまった。
「はい、王様。あなたに忠誠を誓います」
この世に平等なんて存在しない。




