43.選択
「ハル、きたか」
「王様。要件は? また暇つぶしですか?」
「お前は随分と可愛げがなくなったな」
「うるさいですよ」
今では王様は暇があれば私を呼びつけてくる。
今では定期的にここへ足を運ぶようになっていた。
最初の緊張が嘘みたいに今では自然に話せる。
「今日はあのペットを連れてないのか?」
「……そうですね。家でお留守番してますよ」
この人は本当に人をイラつかせるのが上手い。
他人の嫌なところを的確についてくる。
「まぁいい。今日はちゃんと用がある」
「なんですか?」
多分、いつも通りロクな事じゃない。
「露骨に嫌そうな顔をするなよ。いつものやつだ?」
「また? 随分と恨まれてますね」
「それがこの国の王になるということだ。わかったら仕事を果たせ。俺との約束だろ?」
「わかりました」
私は膝をついて応じる。
「今回も大した奴らではない。早く片付けてこい。知りたいんだろ?」
「ちゃんと、わかってます」
いつもやってる仕事。
もう慣れてしまった。
決してこの感覚に慣れてはいけないんだと思う。
それでも目的のためには手段を選んでられないから。
知りたいだけなんだ。
なんで消えたの?
なんでいなくなったの?
なんで私を捨てたの?
私はあの人ともう一度だけ会いたい。
たった一度だけでいいから。
たった一つだけ答えてくれれば満足だから。
自分で作った満たされない空間。
これでは何も埋まらなかった。
大切を強引に作った。
だから、もう私はそれでいい。
それでもあの子は私を裏切らないでいてくれるはず。
これでいいはずだから、知らなくちゃいけない。
私を満たすものがなんなのか知りたいだけなんだ。
その方法が人の道を外れていても、私は選択する。
◇
暗い。
部屋は黒で染まっている。
何も感じないし、何も見えない。
何も感じる必要はない。
目の前には、跪く最後の一匹。
「待ってくれ!!!」
「……何を?」
「聞いてくれ!」
「だから、何を?」
鬱陶しい。
早く終わらせたい。
1秒でも時間が惜しい。
でも、最後だから聞いてあげる。
私は優しいでしょ?
でも、そいつが話すことに価値なんてなかった。
この国がどうとか、自分達の境遇とか。
彼は長々と話し続ける。
私にとってはどうだっていい話。
自分達が苦しければ、何をしていいわけでもない。
やり方を間違えても許されるわけではない。
鏡を見せられているようで心底不愉快な気持ちになる。
「どうだ? あなたも協力してくれないか?」
「……」
最後にはそんなことを言う。
「あなたはシキ様の側にいたんだろ?」
不快だ。
「終わった?」
「……え?」
「もういい?」
片腕を吹き飛ばす。
劈くような悲鳴。
これの発する何もかもが不快だ。
もう終わりにしたい。
帰りたい。
「あなたは間違えた」
これが私の知ってる、人という生き物の本質。
「歩きだす方向を間違えた」
夢をみて、信じて、裏切られる。
「それがわかっているはずなのに、それでも進んだ」
夢をみさせて、信じさせて、最後には裏切る。
「道はいくらでもあったはず」
いくらでも叶え方はあった。
「あんなことがあったのに」
たくさんの人が傷ついた。
「それでも暴力に頼った」
あなた達にはそんな力はないのに。
「暴力で変えようとした」
そんなことしても何にもならないのに。
「その責任はとらなきゃならない」
わかってても選んだんでしょ?
「結末は受け入れなきゃならない」
それが選ぶってことだと思う。
「あなたは今から自分が選んだ暴力で終わる」
私もきっといつか。
「私から言えるのはそれだけだよ」
そんな未来が待っているんだと思う。
「まっ――」
また一つ消し去った。
すぐに振り返って私のための道具にお願いする。
「後のことはよろしく」
「姫様のためならなんなりと」
私はいつかきっと罰を受ける。
もう受けているのかもしれない。
目的とか信念とか、なんだったのかわからない。
どうしたいのかわからない。
なんで、こんなことになったのかわからない。
なんで、言うことを聞いているのかわからない。
なんで、知りたいのかわからない。
なんで、もう一度会いたいのかわからない。
だから私はわからないもの全部を手に入れる。
もう失うのは辛いから。
失うことの方が怖いから。
私達の家がみえる。
いつものようにドアを開ける。
「ただいま」
「おかえり! ハル!」
私の作り出した決して裏切らない忠実な大切。
あの人の次は失敗しない。
きっとそのために知りたいんだ。
そう思って自分を納得させる。
私は与えられた特別を全て利用する。
それが叶えられるのも私だけの特別だと信じてる。
私は選ばれた人間なんだから。




