12.進むべき道
「大丈夫? ハル?」
「大丈夫だよ! 全く問題ない」
あの日からアキは過剰な程、私に気を遣ってくれるようになった。
悪い気はしないが、少しやり過ぎな気もする。
あれからも練習という名の特訓は続いたが、アキは今までよりも近く、すぐに触れられる位置で待機するようになった。
行きも帰りも、自由に歩けるようになった家の中でも、私が何かするたびについてくるアキ。
正直、気分はよかった。
私はアキがあれだけ怒っているのを初めてみた。
敬語で怒鳴るアキは少し怖かった。
シキは私に謝罪をしてくれたが、ここまでの力があるなんて知らなかったんだからしょうがない。
いずれは知らなきゃならなかったことが、前倒しになっただけだと思うようにした。
誰も悪くない。悪いとすれば、その事実から逃げてきた私だけだ。
◇
それからも目標に向かって、私達は順調に進んだ。
シキはいたりいなかったりするけれど、だいぶ慣れてきて、少しの間ならアキから離れられるようにもなった。
でも、アキから離れて時間が経つと、心に黒い雲がかかったような感覚に襲われて、不安で頭がおかしくなりそうになる。
そうなってしまったら、アキの元に戻り、抱きしめてもらって不安を解消する。
それを繰り返せる回数も、離れていられる時間も日を追うごとに長くなっていった。
「本当に大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫! アキがいるから怖くないよ!」
もうそれがお決まりの会話になっている。
そして、私がこの特訓をしていく中で、幼少期のように限界を迎えることはなかった。
私は威力だけでなく、使用できる量も時間も底が見えないほど増えていた。
◇
「だいぶいい感じだね」
シキは嬉しそうに言う。
「はい! アキとシキのおかげ!」
「誰かさんのせいで、全部ぶち壊しになるところでしたけどね……」
あの日から、アキのシキへの態度は日に日に悪化してる気がする。そもそも、初めて会った時から少しおかしかった気もするけど。
「あの時は悪かったよ。アキ。機嫌を直してくれないか? 君にそんな態度でいられると僕は悲しいよ」
「そうだよアキ。シキは知らなかったんだから、しょうがないよ」
そう、悪いのは私だと思う。
「………………わかった。ハルがそう言うなら」
なんとか説得できた。
「ありがとうアキ! 大好き!!!」
そう言って私はアキに抱きつく。
「シキ様。ハルに免じて、ですからね」
「わかってるよ」
なんとか、わだかまりも解けた。
この二人には仲良くしていてほしい。
私のせいで二人の関係が崩れるのだけは嫌だから。
◇
「これからのことを話さないとね」
シキが話を切り出す。
「ハルはどうしたい?」
私はシキに問われて黙ってアキの方を見る。
「このまま同じことをしていても、ハルは前へは進めないと思う」
「はい…………」
その通りだと思う。
このまま、過ごしていても多分、何も変わらない。
「………………魔物と戦ってみないか?」
「シキ様!!!」
アキが声を荒げる。
それでもシキは冷静だった。
「アキ。待ってほしい。前にも言ったし、この前の出来事から再度、約束もしただろ? 嫌なことを強要なんてしないって。でも、このままじゃ何も変わらないと思う。それはアキもわかってるんじゃないか? 」
「…………………………」
アキは黙る。
「わかってるだろ? ハルのために何かしてあげたいって思ってるのは僕も同じだよ」
そう言ってシキは私の方を向く。
「だから嫌だって言ってもいい。それなら別のことをしよう。でも、ハル。今のままじゃダメだ」
わかってる。わかってた。
「なんでもいいよ。アキじゃない。ハルが選んでくれ。それを全力でサポートする。約束する」
力強い言葉。
自分で決めたこと、そして二人に求められているもの。そこから考えても、私が出す答えは一つしかない。
「やります………… 魔物と戦います」
「ハル?!」
アキのこんなに狼狽えた姿は初めてみた。
でも決めたから。
「待って……待ってよ。私はまだそれははやいと思う……」
なんとか説得しようと言葉を探しているアキ。
「アキ………… 」
そんなアキの目を見て、しっかりと話す。
これは私の言葉で伝えなきゃいけない。
「これからも一緒にいたい。だから私が一番必要とされていることを頑張らせてほしい」
「……………………」
「それに決めたでしょ? 二人で乗り越えて行こうって。寄りかかってしまうと思うけど、私も頑張るから」
「でも、ハルは昔………………」
「わかってる。それでも今の方が大事だから………… ね?」
そう、私はアキがいなきゃダメなんだよ。
「………納得はしてない」
「うん……………………」
「でも、ハルが決めたなら、私はそれを尊重したい」
「ありがとう………………」
「でも約束して。私の側を絶対に離れない。これだけは何があっても譲れない。絶対条件」
「わかった。絶対に守る」
私とアキの新しい約束。
「決まったみたいだね」
「うん………………」
「そうと決まれば、早速準備しよう」
優しくそう言うシキ。
「大丈夫。二人とも絶対に僕が傷つけさせない」
「アキもハルも私の大切な仲間だからね」
そう言ったシキは笑顔だった。
私は大切な人に求められてることをする。
アキが本当は私に魔物と戦うことを求めていると知ってるから。
過去に何があったって関係ない。
アキが忘れていいって言ったから。
できなきゃ、アキが離れてしまうかもしれない。
だから戦うと決めた。私の自身なんかより優先すること、しなきゃならないことがあるから。
それだけは揺るがない、これが私が決めた私の意思だ。




