[紅唇]ベアトリーチェ。
※ここからは本編ですが、しばらくフリード視点の三人称で綴っていきます。
よろしくお願いします。
「お兄様は騙されているのです!」
こんなところに呼び出していきなり何を言うのだろうとあっけにとられ。
フリードは目の前にいる従妹、ベアトリーチェのその言葉を反芻し、そして。
「何を、誰に、騙されていると言うんだい?」
なるべくゆっくりと、諭すようにそう声をかけた。
子供の頃から思い込みが激しかった覚えはある。
エルザを紹介しようと招いた子供の頃の茶会でも、話を半分も聞かないうちに泣き出して手におえなかった記憶。
兄弟のいない自分にとって、テルラムントの家の子らは子供の頃から兄弟のように育った従兄妹たちで。
このベアトリーチェのことも本当の妹のように思っていたから。
そうでなかったら、わざわざこんなところに来たりもしなかった。
彼女のその誘いも、一蹴して終わっていただろう。
王宮に隣接された図書館には個室のラウンジがあって、会議や会食、学生の勉強会などなどいろいろな催しで利用されていた。
防音設備も整っていて、少々の音な廊下にも漏れることが無い。
それこそ中で楽器を鳴らしても大丈夫なくらいだ。
貴族院の学生もよく利用するこのラウンジ。
卒業生を招いて何かをするにもちょうどいい位置にあり、それこそ卒業してからでは貴族院の敷地に入るのにも躊躇することもあるから、在校生卒業生のどちらにとっても都合のいい場所でもあったけれど。
そんなラウンジを貸し切って、男女が一対一で会うと言うならまた話は違ってくる。
なんなら、ここは貴族同士の密会などにも利用されることがあるから。
貸切で予約する場合の代表者は当然名前が残るとしても、それ以外の入室者は特に記録に残らない。
図書館と言う名目上、基本的に貴族であれば誰でも入館できる資格があった。
流石に警備上の問題からかそれが平民である場合は許可なきものは出入り口のゲートで弾かれることにはなるのだけれどそれでも。
誰にも内緒で誰かと会うにはここほど適した場所は無かったから。
そう言う意味で、婚約者エルザに内緒で別の女性と二人きりで会うなど、フリードにとって通常だったら考えられないことでもあった。
「騙しているのはアルベルト様、なのでしょうけど。お兄様、本当にお心当たりはありませんか?」
まどろっこしいその言い方。
貴族の女性にはありがちな、婉曲的なその表現に、少し苛立って。
「父上が、なんだって?」
ちょっと強めに、ぶっきらぼうにそう返す。
言った側から少し強く言い過ぎただろうかと反省し、ベアトリーチェの顔を覗き込むと。
「ごめんなさいお兄様。わたくし、お兄様のことが心配で心配で」
と、泣き出しそうになる彼女。
「ごめん、強く言いすぎた? 泣かなくてもいいから一体何があって何を言いたいのかもう少しわかるように教えてくれないかな?」
顔を抑え、涙を拭くような仕草をするベアトリーチェのその口元、真っ赤なルージュで彩られたその唇が、ゆっくりと開く。
「アルベルト様はエルザ様を愛しているのですわ」
ズキン
その言葉は、フリードの心の奥に突き刺さるように。
響いた。




