[真意]熱い吐息。
「うちの父が愛していたのはエルザの母、フローラだろう?」
思わずそう答えていたフリード。
それは、知ってはいた。
だからこそのあの部屋の写真たちなのだろうと言うことも。
ただの友達だったとは流石に思えなかった。それくらい、鈍い自分にだって理解はできた。
寡黙な厳しい父がエルザに対してだけあんなにも饒舌になるのにも、そしてあんなにも優しい瞳を向けるのにも驚いたけれど。
それが彼女の母に対する想いからだと理解してからは納得もしたのだ。
何よりも。
自分がエルザとの婚約を望んだときの、あの日の父の反応が忘れられない。
最初は驚いて。
でも、すぐに笑みを浮かべた父。
そして、どこか遠くを見るようなあの瞳を。
知らなかった。
父が、あんな顔をするなんてことを。
あんな笑みを浮かべると言うことを。
自分に対しては見せたことのない、そんな優しい笑みをしたことを。
父と母との結婚が極めて政略的なものだろうというのは想像がついていた。
家族としての愛情までがなかったとは思わない。
それでも、そこには恋のような激しい感情は芽生えようがなかったのだろう。
自分という子供があってもなお、父と母の間には家族以上の関係は見えなかった。
互いに尊重はしていたんだと思う。
でも、そこまで。
物心がついてから、彼らが寝室を共にするところは見たことがない。
自分が知らないだけ、ではないと思う。
子供心にも、そういう関係にはどうしても見えなかった。
「貴族の結婚なんてそんなものだろう?」
そう言ったのは確かグリード・テルラムントだったか。
確かに。
その従兄の言う通り、だと。
貴族の政略結婚とはそんなものだ。
愛は、家族として尊重されるもの。
互いを求め合うようなそんな強い愛は、貴族にはない。
それが当たり前だとそうは思っていた。
自分のエルザへの思いは別にして。
「フリード兄様もそのことはご存じでしたのね。だったら」
ベアトリーチェの指が、フリードの手に絡みつく。
軽く握ってきただけではあったけれど、なぜかその手を振り払えなかった。
「お兄様。あのアルベルト様の瞳が、ただの恋した人の娘を見る目に見えますか?」
座っていたソファーから滑り降りフリードのそばまできて両手の指を彼の手にからめ。
下から顔を覗き込むようにして目を合わせるベアトリーチェ。
その熱のこもった瞳に、酔いそうになって。
「あの瞳は、ただの想い出を懐かしんでいる目では、ありませんわ」
その真っ赤な唇が。
熱い吐息と共に、そんな言葉を囁いた。




