21-1 同行
二人はホテルから出るとタクシーに乗り、最寄り駅へ向かった。
「乗ってきた車はどうするんだ?」
「仲間が引き取りにくるわ」
「発信機、付けたままだぞ」
「報告済みよ」
「で、これからどこへ行くんだ?」
「さあ?」
「どこかで俺を捲こうと思ってるから、言えないってか?」
「そのとおり!」
「……なら、付いてくしかないな」
駅に着くと、改札を通ってホームへ上がる。
「なんだ、都心へ戻るのか?」
「さあね」
入ってきた特急に乗ると、空いている席に座る。
「そういえば、あんたが乗ってきた車、どうするの?」向かいに座るので聞くと「あんたと呼ぶのはやめろって言ってんだろう。俺のはレンタカー。さっき、取りにくるよう電話した」
しばらくは海岸線を走るので外を眺めているとキラの携帯が鳴ったので席を立ち、デッキに行くと少しして戻ってきた。
「グループからか?」
「ええ」
「俺がいることを話したのか?」
「熱烈なファンに付きまとわれて大変だなって笑ってたわ」
「追い掛けるほうも大変だよ」
その後、列車の中でお昼を食べ、午後二時二十三分、終点に着いた。
「ここからどこへ行くんだ?」改札を出たところで声を掛けると「さあ?」駅の外へ出ていくので「相変わらず秘密主義だな」バッグを掛け直してあとを追う。
「なんだ、またタクシーに乗るのか?」
「付いてくることないのよ」
「いいえ、どこまでもお供します」一緒にタクシーに乗る。
「Tホテルへお願いします」運転手に行き先を告げると「船に乗るのか?」すかさず聞く。
「もう、さっきから質問ばっかり」
「何も教えてくれないからだろう?」
「教える必要ないでしょう?」
「そういう台詞は聞こえない」
「都合のいい耳ね」
Tホテルは、船着場の近くに建つ地上三十階建ての大型ホテル。
泊り客のほとんどが船の利用者で占める。
ホテルのフロント。
「いらっしゃいませ。ご予約を承っておりますでしょうか?」
「ええ。キラ、ノールマンです」
「キラ、ノールマン様。少々お待ちください」
(ヘェ、キラって本名だったんだ。てっきりニックネームか何かだと思ってた。それにノールマン。覚えてるぞ。確か一番奥の部屋だった)
彼女を追い掛けていったマンションで、表札を見て回ったときのことを思い出していた。
その後、車をレッカー移動されたことも。
「お待たせ致しました。本日一泊のご予約でございますね?」
「ええ」
「あの……お部屋はシングルで承っておりますが……」ショウを見るので「エッ? あ、ああっ! 彼は関係ないの!」
「さようでございますか。失礼致しました」
「ちょっと、向こうへ行ってよ。誤解されちゃったじゃないの」
「俺だって泊まるんだ。手続きしないといけないだろう」
「だったら、突っ立ってないで、隣ですればいいじゃないの」
「どこで手続きしようと、俺の勝手だろう?」
「お待たせ致しました。では、こちらにサインをお願い致します」
クラークが差しだすタブレットにサインをすると、ボーイに案内されてエレベーターに乗りこむ。
「すみません。予約してないんですが、彼女と同じ階に空室はありませんか?」
『もしもし、私です。今、予定のホテルに着きました……ええ、部屋からです……いるわけないじゃないですか! なんてこと言うんですか! ……きっと同じ階に部屋を取ったでしょうね……大丈夫です……ええ、お願いします』
電話を切るとノートパソコンにメールが送られてきたので、添付ファイルを見ると「次は厄介なところのようね」ティーパックの紅茶を飲みながら詳細に目を通していく。




