17 本当の名は
二人は湖の畔まで来ると「彼女たちは、シルバーフェニックスの王国へ行けないのか?」ショウがフロス アクアエを見る。
すると「多すぎて、許容量オーバーになってしまうのよ。彼女たちも元いた場所を追われてここへ来たんですって」水際に座るとショウも隣に腰を下ろす。
「でも、この土地にいたお前の仲間はすでに連れ出されてる。時期にここも砂漠となってしまうんじゃないか? それとも、誰か残ってるのか?」
「いいえ。私以外、誰もいないわ」
「お前がいるから、変わらないのか?」
「……そうよ」
フロス アクアエたちが悲しそうな顔をして近寄ってくる。
「彼女たちの存在が私の考えを変えたのよ。私がいなくなったら彼女たちも死んでしまう。もう、彼女たちには移動する力が残ってないのよ」
「……そうなのか」
「大丈夫よ。心配しないで。代わりが来るまでここにいるから」フロス アクアエに声を掛ける。
「誰か派遣されてくるのか?」
「この森には大勢の精霊が避難してきてるの。だから、ここだけは守らないといけないのよ」と言うと、周りが急に明るくなったので振り返ると、様々な格好をした精霊と思われる者が大勢で取り囲んでいた。
「みんな、やっとここまで辿り着いたのよ」
そう言われてみると、どの顔も疲労のせいかやつれて見える。
『お願い。私たちを助けて』一番前にいるカラフルな服を着た十代後半に見える女性たちが訴えてくる。
「彼女たちはガーベラの精霊。彼女たちの母親に頼まれた渡り鳥が、種の彼女たちをここへ運んでくれたんですって」
「でも、まだここは危険じゃないか? 例のオバさんがまだ鏡を隠し持ってて、雇った狩り人を使って狩りを始める可能性があるだろう?」
「手は打ってあるわ」
「そうか。そうだよな。そんな危険人物、ほっとくはずないよな」
「もちろんよ。人間の中で一番許せない奴らよ」
「同じ人間として恥ずかしいよ。こんなひどい事しときながら俺を信じてくれなんて、虫が良すぎるな」
『ウフフ、それは違うわ』フロス アクアエが笑うので「なんで?」と聞くと『だって、あなたを嫌ってたら、とっくにあなたの前から姿を消してるはずだもの』
「何を言うのよ! あなたたちは、彼のしつこさを知らないからそんな事が言えるのよ! 私がどれだけ苦労してると思ってるの! 発信器や盗聴器まで付けるのよ!」
『だったら、彼から離れればいいでしょう?』
「何回も離れようとしたけど、逃げられなかったのよ!」
『では、なぜ彼にここまで話すの?』
「あなたたちが余計なことをしたからでしょう!」
『……ごめんなさい』
「でも、少しは、信じても、いいかなって、思ったから……」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「全部信じたわけじゃないからね!」
「ああ」
「自惚れないでね!」
「わかってる」
『ウフフ、ラルったら素直じゃないんだから』
「また!」
『いけない!』
「そうだ。ラルってどういうことだ?」と聞かれ、キラがフロス アクアエを睨む。
「なんで彼女たちはお前のことをラルと呼ぶんだ? お前の名前はキラじゃないのか?」
さらに聞かれて頭を抱えるので「説明してくれるんだよな」
キラは深いため息を吐くと「ラルはニックネーム。私の本名はラフェリア。キラとは、キラとはグループの名称なのよ」
「キラがグループの名称?」
「グループのメインメンバーは、全員キラと名乗ってるの」
「だから前にグループの名前を聞いたとき、教えてくれなかったのか」
「この名を名乗ることで、私たちが何者なのか、わかるようになってるの」
「一種の暗号のようなものか?」
「……ええ」
(ラフェリアか)
「そろそろ戻りましょう。寒くなってきたわ」キラが立ち上がるので「そうだな」ショウも立ち上がると「じゃあね」フロス アクアエたちに声を掛け、来た道を引き返していく。




