第44話 お互いを理解するのに話合いが必要不可欠
「加藤」
「良太」
「「話があるんだけど」」
◇
俺と加藤は大会の会場から少し離れた公園にやって来た。現地集合・現地解散なのはこういうときに便利だ。寄り道とかもできるし。加藤は特に何も言わずに付いてきてくれた。何が原因でまた怒り出してしまうか分からないから、注意しないといけないな。
「加藤、まずはごめん。多分、俺が加藤を何か怒らせるようなことをしたんだよな?それについて謝りたかったんだ。ごめん」
「─────違う」
加藤はそう言うと、俺を睨みつけるようにして続けて言った。
「良太は何も悪くない。私が全部悪い。良太がけがをして今日の大会に出られなくなったのも、今日までのことも全部。私が悪いの。だから、ごめんなさい」
加藤はそう言って、頭を下げた。俺は何が起こっているのか分からなかった。だって、あの加藤が、雪女と呼ばれて恐れられているあの加藤が肩を震わせて泣いていた。
なんで、泣いているの?
「か、加藤………?」
「ごめんなさい。泣くつもりはなかったの」
「………加藤、少し座らないか。お互い、誤解があるんだと思う」
俺は加藤を公園にあるベンチまで連れていき、隣り合うようにして座った。もう夕方だ。辺りは赤い色に染まっている。俺は周りの景色を見ながら、頭の中を整理した。加藤が何を考えているのか、何を思っているのか。これが分からなければ、きっとこれから加藤を理解することはできないと思った。
俺は、他の人たちと違い、家族というものが分からない。生まれながらに嫌われ、俺だけ家に入れてもらえず、倉庫の中で過ごしてきた。後々、それが〝虐待〟だと知り、俺は愕然としたのを覚えている。あれだけしんどかったこともたった二文字で表されてしまうという事実に、どうしようもなく腹が立ったのを覚えている。
お前らに俺の辛い思いが分かるのか?たった二文字で表している時点で絶対に分かっていないだろ、お前らと俺は違うんだ。
そう思っていた、祖父と出会うまでは。祖父は俺を見て、一緒に怒ってくれた。こんなことが許されるはずがないと言ってくれた。そして、世の中にはこんな理不尽なことが多くあるという厳しい現実も教えてくれた。
間違うことは誰しもある。それが人間である以上免れることは誰にもできない。
俺と加藤はその後、お互いがどう思っていたのかを話し合った。その中には誤解していることが多くあった。
例えば、
「加藤は何で怒っていたんだ?」
「怒ってない。良太に私が怒るとしたら、女の子とエッチなことをしてたときだと思う」
「………そうか」
普段から怒っているように見えるから正直、怒っているのか、怒っていないのかよくわからないけど。でも、怒っていたわけじゃなかったのか。
とか。
例えば、
「良太は今日大会出たかったよね?」
「出たかったは出たかった。でも、マネージャーの仕事がどれだけ大変なのかを理解する良い一日になったよ」
「怒ってない?」
「怒ってない。あれは加藤が悪いんじゃない。あんなのを人に向けて投げるのが一番悪い」
とか。
その後も加藤と俺は話し続けた。辺りが少し薄暗くなるまで。こんなに加藤と話せるとは思っていなかった。それもやはり加藤を誤解していたのだろう。加藤は、無表情の女の子なのではなく、ちゃんと見ていれば表情がコロコロ変わる普通の女の子なのだと正しく理解できたはずだ。俺はそれを怠っていた。それがきっとお互いをお互いに誤解することになった原因なのだろう。
「今後もよろしくな、加藤」
「うん。よろしく、良太」
加藤の微笑みを見て、俺はドクンと心臓が鳴ったのを感じた。
その後は、大会の会場の最寄り駅まで加藤と歩き、別れた。明日からまた普通に戻れるはずだ。
◇
「何なんだ、これは!」
私はそう言われて、頭を叩かれた。私は抵抗することもできず、なされるがまま。これまでの経験から、私は知っている。父親に逆らうことがどれだけ無意味なのかを。
「次、こんな結果を取ったら許さないからな」
学年〝2位〟と書かれた個表を見て、父親はそう言った。私はただ『はい』としか言えなかった。
私は自室に戻ると、机に書いた紙を見た。
学年1位 大橋良太。お前だけは絶対に許さない。
そう書かれた張り紙を見て、私は────。
第三章完結
第三章はこれにて終了です。第四章も鋭意製作中ですので、お待ちいただけたらと思います。
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