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ひと味違う全国チェーンの魔王さん  作者: ゆーう
2章 牧場と漁港
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その4

 クレープを食べるために『フレンドパーク』の一番奥まで入って、クレープを食べたら真っ直ぐ出てくる。

 異世界ゲートに来た客や、異世界に帰る異世界人のための土産を売っている施設とはいえ、一般人には一目見ることすらできない異世界ゲートと建物は別になっている。



「異世界ゲートって飛行機みたいに時間で到着とかするのかな」

「どうなんでしょうね。私のイメージではワープ装置のような」

「なるほど」



 一体、異世界にはどうやって行き来するのだろうか。

 謎が謎を呼ぶが、それが公にされることはない。

 なにせ、最初に異世界のゲートが開いた時は、何事かわからずここら一帯が立ち入り禁止の監視区域になり、二十四時間体勢で警戒された。

 そして現れた魔王をはじめとした異世界人は、武器を持たず、敵対行動もせず、日本語で交渉を持ち掛けてきた。

 その歴史は当初は伏せられていたようだが、あとから情報が世間に開示された。

 当時の政府は酷く国民から責められたそうだが、今では異世界人との共存もうまく行き、魔王の会社が稼ぐ企業からも税金を徴収できているので日本としてはウハウハだ。



「経済を回してくれたって意味ではありがたい話だけど」



 そのおかげでこの数年しか知らずとも、就職氷河期という言葉は使われていない。

 どこも働き手が足りない状態だ。

 だから、俺のような下っ端は一度属した企業に使い潰される。

 異世界ゲートの、一般入場口の前で待っているが、マジックミラーになっているため、中はまったく見えない。



「いつ来るんだろう」



 緊張した面持ちで入り口を黙って凝視していたアルが、ピクリと反応した。



「来た……。来てしまった……」



 魔王の近くに行ってもまったく臆さないのに、あれだけうるさいアルを黙らせるとは何者なのだ。

 アルという人間をよく知る手前、俺も緊張して見ていると、自動ドアが開く。


 そこから出てきたのは、遠目に見てもわかる、目鼻立ちの整った長い茶髪に長身の美女。

 その彼女は両手で大きなボストンバッグを抱えており、重たそうに地面に下ろした。



「お」

「お?」

「お兄ちゃんだぞ~」



 そんな彼女を見た瞬間、隣にいたアルが今まで聞いたことのないような猫なで声を出して、大手を振って歩み寄っていく。



「お、お兄ちゃん……ってことは妹」



 思わず姫川さんと顔を見合わせ、何度も目を擦って妹に近寄る兄とを見比べる。



「生命体という括りでしか似ているところがなさそうですね」



 酷い言いぐさだけど、まさしくその通り。

 アホなアルフレッド同じ異世界人と枠組みに入れてしまうのが申しわけないぐらいの美人。



「お兄ちゃん」



 今世紀最大に間抜け面をしたアルを見つけた妹は、笑顔を弾けさせる。



「なんだ、嫌がってた割には仲良さそうじゃないか」



 でも、それならなんで俺にも妹がいることも、妹を迎えに来るためにここまで来たことを話さなかったんだろう。

 そこまで親しくなっていないってことなのか、ちょっと寂しさを感じた次の瞬間。


 妹は兄のアルにハグをした――と思いきや、抱きついた瞬間にアルに足払いをして、柔道の投げ技のようにアルの体を投げ飛ばす。



「ぐわぁ」



 畳もマットもないようなアスファルトの上に背中から叩き落され、潰れたカエルのような声を出す。



「お兄ちゃん、まだ魔王さんを倒すとか馬鹿なことを言って、こっちの世界の人に迷惑をかけてるんでしょ!」



 腰に手を当てて、ひっくり返ったアルを見下ろすようにして説教の始まりである。



「お兄ちゃんが一緒に日本に来たっていうお仲間の人から連絡が来たんだよ。ちゃんと働かないで迷惑をかけてばかりだって」



 仲間の人って、あのファミレスにいた二人か。



「あと、こっちの人にもすごい迷惑をかけてるって言ってたよ」

「さ、サトーと俺は親友だから……」

「お兄ちゃん!」

「ごめんなさい。何度も食事代を借りたまま返してません……」

「それだけ?」

「仕事を探しているのに遊びの誘いばかりをして邪魔しています」

「他には?」

「それだけです」

「何回?」

「……一度や二度ではないことだけは確かだ」



 見ていて面白いので、俺も遠巻きに参戦する。



「ほぼ毎日だよ」

「お兄ちゃん……!」



 俺の後押しのおかげで、アルが絶望の表情を浮かべている。



「その人、私のいるお店で何度も食い逃げをしています」



 そして姫川さんまで一言を付け加えるが、



「まあ、全部失敗していますが」



 そのフォローは小声で囁くように言う。



「申しわけありません。うちの兄がこちらの世界の方に迷惑をかけてしまいまして」

「いや、そんな……」



 妹さんを責めたくて言ったわけではない手前、アルの身内に謝らせるのは、こちらが悪いことをした気持ちになる。



「申し遅れました。私、アルフレッドの妹、リコッタと言います。こちらの世界の年齢で言えば昨日十六歳になり、渡航許可が下りた次第であります」

「俺はまあサトーでいいや。この中じゃ一番大人だ」

「私は姫川桜。十九歳。美術の大学に通ってます」



 アルに接する態度を見ていたとはいえ、直接言葉を交わすとどうも緊張してしまう。



「異世界からの人って十六歳にならないとゲートを通れないの?」

「そういうルールがこちらの世界との間に結ばれているんですが、ご存じないんですか?」

「存じてないな……」

「私も初めて聞いた」

「そうだったんですか……。もしかしてこれ、内緒だったのかもしれません」



 困ったように口元を手で隠すが、それすらも様になっている。



「っていうか十六歳……すごく大人っぽく見えるね」

「そうでしょうか……。兄がこんななので、あまりわからないんですけど」

「アレと比べるのが悪いよ」



 ふふ、とリコッタさんは笑った。



「サトーさんも兄の扱いをわかっておられるのですね」

「迷惑かけられているからね」



 アルはゆっくりと起き上がる。

 妹のことを話さなかったのも、会いたくないのに迎えに来たのも、目の前にしたら駆け寄ったのも、色々とわかってきた。


 しっかり者の妹が苦手なんだ。



「ところで、リコッタさんはこれからの予定は?」

「いえ、なにもないんですけど……恥ずかしながら少しばかりお腹が空いています」



 ぽっ、と頬を赤らめた。



「えっと、ですね。せっかく日本に来るのなら、美味しいものをと思いまして」



 そのために向こうの世界で食事をしてこなかったわけだ。



「なら、いいところに案内するよ」

「いいところ……ですか?」

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