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一人百首  作者: 奈月遥
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だいごじゅうさんしゅ さむきよに ひえたるてにて きみなでば くるしみいたみ しづめられむや

第五十三首

寒き夜に 冷えたる手にて 君撫でば 苦しみ痛み 鎮められむや


 寒いと、手もかじかんで。

 ぽきり、と。ひび割れてしまいそうなほどに痛むの。

 自分でもさすって、労わるのだけど。

 でも、それは同じ冷え性の手なの。左右で温度の違いなんて、ほとんどない。

 むしろ、ひやりと冷たさばかりが交わされるのよ。

 どうしましょう。

 あなたに逢うのに、こんな荒れた手を見せるのも。触れられるのも。

 いやだわ。

 こんな日に限って、もらった手袋を忘れるなんて。ほんとに、だめなわたし。

 ダッフルコートのポッケに手を入れっぱなしなのも。

 それって、愛想がないって感じるわ。

 今の内に、ちょっとコンビニでもいって、ありあわせてみるとか。

 お金がもったいない。

 買ったらきっと、あなたといる時に無駄遣いしたのに気を取られて。少しの贅沢をためらってしまいそう。

 それで気を使わせたり、嫌な気持ちにさせたりしたら。

 ちょっと、自己嫌悪で泣いちゃう。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 待ち合わせ時間まであと十五分。

 ああ、この一時間と少しの間に、家まで戻ればよかった。

 いやいや、その間にあなたが来たらどうするの。

 時間もぎりぎりで。焦って連鎖反応でドジして、よくない思い出を量産するのがオチよ。

 なんて、間に。

 どうして目の前にいるの。

 手を、手を隠さないと。

 なんて、やってる間に。

 手を取られて。

 冷たいね、なんて、はにかまれたら。

 あったかくて、嬉しくて、幸せで、泣きそうになるじゃないの。

 ああ。

 さっきまでのバカな考えなんて、すっかり融けて。

 春って、こうやって雪を融かして、芽吹くのね。


さむきよに ひえたるてにて きみなでば くるしみいたみ しづめられむや


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