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一人百首  作者: 奈月遥
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だいしじゅうさんしゅ はすいけに あまおとさかす はなのわを おくりたくとも たをるすべなく

第四十三首

蓮池に 雨音咲かす 花の輪を 贈りたくとも 手折る術なく


 しづしづと雨が降っております。

 その雨音が、ぽつぽつぽつぽつ。

 蓮池を叩く度に。

 戸を叩かれたと思ったのでしょう。

 水の精が、丸く波紋を揺らして。

 その様は、夏の朝に大輪の花を蓮が飾るようで。

 空から来た客を出迎えるために、咲かせたのでしょう。

 その天より降る水の神と、地に佇む水の精とが出逢い、この一時だけ咲く妙なる花の、なんと素晴らしいことか。

 その無垢な姿は、白も敵わない透明の澄んだ生命の色。

 片の方だけでは、けして成しえない奇跡の花。

 波打つ花は、隣の花と触れて巧みに揺らぎ、変わり、それでいて、水の花としての質は失わず。

 なんと、この並べ立てた言葉の、あじけなく、悲しいことでしょう。

 無常に変わる無上の花を感じるのに、感じてもらうのに、まったくもって物足りないのです。

 わたしの情けなさに、申し訳なく思います。

 この水の花を、どうにかあなたに贈りたいと思うのに。

 大輪に咲くのに、その花は、触れれば失われてしまうのです。

 言葉に尽くすこともできず。

 けして手折ることができないのです。


はすいけに あまおとさかす はなのわを おくりたくとも たをるすべなく


 だから、どうぞ。

 ここまでいらして。

 共に雨音の花を楽しみ、わたしたちも対話の花を咲かせましょう。


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