Break 02「Go! Go! 莉緒」
「いらっしゃいませ~、本日も”マジカルCafeゆりまま”へようこそ~」
今回のお品書きです。
……とっ特にありませんね。
それでは前回の続きからどうぞ~!
「こんにちは~」
ゆっくりと開いた扉の向こうから、新緑の風と共に一人の少女が姿を現した。
「あっ、あなたは……?」
その透き通った声、そして見覚えのある美しいシルバーヘアを目にした瞬間、莉緒の息が止まる。
彼女の脳裏に、かつて自分が店長として派遣されていた、あの名もなき港町での数々の出会いが走馬トンネルのように駆け巡った。
間違いない、あの時、共に過酷な日々を乗り越えた――。
「サッサヤ~~~~~~~ッ! 来てくれたのね~~~っ!」
莉緒は感動のあまり、理性を吹き飛ばして猪突猛進気味に少女へと突進した。
全霊の力を込めた、渾身のダイビング・抱擁。
「ぐはあっ!?」
まともに対面で衝撃を食らった少女から、短い悲鳴が上がる。
しかし、莉緒の暴走は止まらない。
「サヤ! サヤ! サヤ! サヤ! やっぱりあの港町で結ばれたわたしたちの友情は不滅だったのね!~~~」
莉緒は無意識のうちに、目の前の少女をギチギチとベアハッグで締め上げていた。
小柄なシルエットからは想像もつかないほどのホールド力だ。
抱きつかれた少女は無意識に天を仰ぎ、完全に白目を剥いて苦しんでいるが、莉緒の脳内はハピネス100%のため、一向にその腕の力を緩めようとしなかった。
限界を迎えた少女の口から、漏れ出るような掠れた声が響く。
「……いい加減に……」
「……はへ?」
莉緒がようやく、腕の中の異常な拒絶反応に気づいた。
「……いい加減にしろって言ってるんです~~~!!!」
「ぐわああああああ~~~~~っ!?」
次の瞬間、少女はその可憐な見かけによらない規格外の怪力を爆発させた。
莉緒の鉄壁だったはずのベアハッグを力ずくで引き剥がしたかと思うと、そのまま莉緒の身体を、天井へ向けて思いっきり放り投げたのだ。
ドゴォォォォンッ!!!
「…………」
パラパラパラパラ……。
静まり返った店内に、砕けた天井の木片が虚しく零れ落ちていく。
床には誰もいない。
ただ、天井の板に頭からすっぽりと埋まり、足だけをだらんとぶら下げて完全沈黙している莉緒の姿があるだけだった。
まさに、物理の法則を置き去りにした即落ちの芸術。
それから数分後。
なんとか天井から引きずり出された莉緒を交え、ちょうど客足の引いた店内で、三人はテーブルを囲んで一息つきながら会話を始めた。
まだ頭から(ぶつかった衝撃の)煙を上げている莉緒を見つめながら、まりもんは呆れたように、手元のお気に入りのハーブティーにふーふーと息を吹きかけ、温かい湯気を揺らした。
「さてと、莉緒。あんた、いきなり抱き着いちゃダメじゃない」
「てへっ、面目ない……」
莉緒はコブを作った頭をさすりながら、茶目っ気たっぷりに舌を出した。
「まったくですよ」
隣で腕を組んだ少女が、鋭いジト目で二人を睨みつける。
「いや、まさにねえ」
まりもんが全面的に少女へ同意する。
「いや、ホントに妹のサヤから聞いていた通りですね」
少女の口から出たその一言に、お茶をすすっていた莉緒の手がピタリと止まった。
「はへっ?」
「なんです?」
不思議そうに首を傾げる少女。
「あなた今……【妹のサヤから】って言った……?」
「ええ、言いましたよ」
莉緒の顔から一気に血の気が引いていく。
「それじゃあ、あなたはサヤじゃなくて……」
「今ごろ分かったんですか。わたしは【サヤの双子の姉のサキ】ですよ」
凛としたポニーテールを揺らしながら、サキは当然のように言い放った。
「えええ~~~~~っ!?」
店内に莉緒の絶叫が響き渡る。
その横で、まりもんはハーブティーを優雅に口に含みながら冷淡に呟いた。
「……今ごろ分かったのか」
「わかるか~~〜い!!! どこが違うのよッ!」
激しく机を叩いて抗議する莉緒に対し、サキは自分の美しい銀髪に触れながら首を傾げた。
「そうですか? よく見るとけっこう違うといわれるんですが。ほら、髪型とか、目線の微妙な角度やちょっとした雰囲気の差とか」
「ねえ。普通わかるよねえ」
まりもんがニヤニヤしながら追い打ちをかける。
「ですよねえ」
同調するサキ。
「ホントに区別がつかない……」
双子耐性のない莉緒は、完全に打ちのめされたように項垂れた。
そんな莉緒をよそに、サキは肩をすくめて話を戻した。
「まあ、そんなことはどうでもいいんです。いや、ホントにいきなり突進してくるんですもの、あやうく意識が消えるところでしたよ……」
「うう、すいません……」
「ホントにサヤから聞いていた通り、猪突猛進というか……」
「ごめんねえ、うちの猪娘が……」
まりもんが苦笑しながらフォローを入れるが、サキの追撃は止まらない。
「いえ、まりもんに謝ってもらわなくてもいいですよ。悪いのはこの猪娘ですから」
(こ、こいつらは……息が合いすぎている……!)
莉緒は二人の完璧なコンビネーションの前に、内心で歯噛みするしかなかった。
「まあ、それよりけっこう繁盛していますね、ここも」
サキはぐるりと店内を見回し、新天地の活気に少し感心したように目を細めた。
「ええ、おかげさまでね」
「ふふん、この私が事実上の店長代理として、フロアを仕切っているからね!」
莉緒がここぞとばかりに胸を張り、最高に輝くドヤ顔をキメる。
しかし、サキの理路整然としたフェイクロジックが、そのプライドを一瞬で粉砕した。
「店長代理って……いま、まりもんと莉緒さんの二人しかいないじゃないですか。そりゃあ、店長のまりもんの代理は莉緒さんだけでしょう」
「……うっ」
的確すぎる正論を突きつけられ、莉緒は再びフリーズした。
その様子を見届け、まりもんは悪戯っぽい笑みを浮かべて本題を切り出した。
「ということで、サキちゃん。今日からお店、お願いできるかな?」
まりもんの言葉に、サキはピタッと動きを止め、ジト目でじーーーっと莉緒を見つめた。
(ど、どうしよう……断られたら、あたしの睡眠時間がまた消滅する……!)
莉緒の心臓が、ドキドキドキと壊れた時計のように激しく脈打つ。
長い沈黙の後、サキはふっと緊張を解き、アイドル全開の極上スマイルを咲かせた。
「まっ、いいでしょう。元からそのつもりで来ましたし、妹のサヤの顔も立てないといけませんからね」
「えっ! ホントにいいの!?」
「ありがとう、助かるわあ」
莉緒とまりもんの顔に、一気に歓喜の光が広がる。
「いえいえ。それより、私とサヤからのお願いのほうは、大丈夫でしょうか?」
サキのペールブルーの瞳が、少しだけ真剣な光を帯びる。
「えっ、サヤとのお願い……?」
状況についていけない莉緒が首を傾げる横で、世界の創造主たるまりもんは、すべてを見通した顔で大きく頷いた。
「なるなる~~~。大丈夫、女に二言はないわよ」
「わかりました。それなら今日からよろしくお願いしますね」
「はい、さっそく今日の午後からフロアをお願いね」
「はい、お任せください、まりもん!」
サキの頼もしい返事に、莉緒は恐る恐る声をかけた。
「えっ、えっと……その、サキさん。さっきは本当にごめんなさい……」
サキは一瞬驚いたように目を見開いた後、莉緒の肩を優しくポンと叩いた。
「いいですよ、莉緒さん。あなたがサヤのことをどれだけ大切に思ってくれているか、本人から聞いていた通りだったし、少し安心しました。それでは、よろしくお願いしますね」
「うん! よろしく!」
莉緒の心が、最高の新メンバーへの期待で満たされた、まさにその時だった。
カウンターの奥で、まりもんが誰にも聞こえないほどの低い声で、ぽつりと不穏な言霊を漏らした。
「……まあ、莉緒には【あのこと】はまだ言えないよね」
満面の笑顔のサキと、救われた表情の莉緒。
その二人を特等席から見つめる創造主の瞳の奥に、怪しい光が微かに揺らめいていた。
(Break 02「Go! Go! 莉緒」おわり / Break 03へ続く)
マジカルウェイトレスのひとり、 莉緒が歌う、Cafeゆりままのキャラクターソングです
『安堵のラテアート』
架空アニメ 「カフェゆりまま」 莉緒・キャラクターソング
歌:莉緒
https://suno.com/s/A05T3npVP5Rp9p69
【Cafeゆりまま公式】マジカルウェイトレス名鑑:莉緒(Rio)
https://note.com/marimocyan_org/n/n4d98cdb59930?sub_rt=share_pw




