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第10話『仲間集めの試練』

 六月に入り、梅雨の気配が空気の中に滲み始めていた。


 放課後の部室は、蒸し暑い空気に満ちていた。あかりは床に座り、膝を抱えていた。


 黒髪のショートボブが汗で額に張り付き、胸がレース越しに柔らかく息づいている。


 四人は部室に集まっていた。


 この部室は、さきが手配したものだった。


 さきはこれまで活動していた「認知科学・データ分析研究部」で、学外発表で多くの実績を積んでいた。


 それが評価され、さきが提出した部室申請は生徒会と顧問教師の審査をすんなり通過した。


 あかりたちはこの部室を間借りする形で使わせてもらっている。


「ねえさき、これ何?」


 あかりが棚の上を指差した。カップラーメンの空き容器が三つ、行儀よく並んでいる。


 しかもどれも同じ銘柄——「濃厚味噌バター」。蓋には油性ペンで日付が書かれていた。6/1、6/3、6/5。きっちり一日おき。


「ああ、それは顧問の」


 さきが画面から目を離さずに答えた。


「こもん?」


「この研究部の顧問。桐山誠子先生。認知科学の専任講師。元研究員で、ここで作業しながらカップ麺を食べるのが習慣みたい。一日おきに濃厚味噌バター」


「えっ、先生がここでごはん食べてるの? この部室で?」


「厳密には先生の部室でもあるから、問題ない。そもそもこの部室の申請書には先生の署名が入ってる」


 あかりが空き容器を手に取って匂いを嗅いだ。かすかに味噌の残り香。


「さきがお願いしたの? 先生に」


「お願いというか……必要な書類に必要な署名をいただいただけ」


 さきの口元がかすかに——本当にかすかに——上がった。


「先生って、どんな人?」


「優秀よ。元々母の知り合いでもあって、学会での評価は高い」


「へえ」


「あと、極度にお人好しで、論理的に説得されると断れない体質」


「……それ、褒めてる?」


「事実を述べている」


 さきがノートパソコンの画面をあかりに向けた。部室申請書のPDFが表示されている。


「この申請書、提出から承認まで二日。通常は二週間かかる。先生が推薦書を書いてくれたおかげで最短で通過した」


「すごい! さきが頼んだの?」


「頼んだというより、先生が断る理由がない状況を整えた」


 みゆが扇子を止めた。


「……さきちゃん、それって」


 あかりとみゆが顔を見合わせた。


「……先生、大丈夫? 騙されてない?」


「騙してない。全て事実に基づいている。事実の並べ方に少し工夫があるだけ」


 さきがカップ麺の空き容器を丁寧に重ねてゴミ袋に入れた。


「先生は便利——いえ、頼りになる方。今後も色々と協力してもらう予定」


「便利って言いかけたよね!?」


「聞き間違い」


 隣ではみゆがおっとりと扇子をあおぎ、豊かな胸がゆったり揺れる。


 さきは腕を組み直し、クールにノートパソコンを睨んでいる。スリムな曲線が、知的さを際立たせていた。


-----


さきが、話題を変えた。


「9人揃わないと正式な女子部は作れないって……野球のルール、厳しすぎるよね」


 あかりがため息をついた。3人だけでは合同練習の限界を感じ始めていた。


 男子部員たちは敬意を持って見守ってくれているが、チームとしての練習には人数が足りない。


 ——あかりが少し間を開けて発言した。


 「ねえ、河川敷のゴミ拾いをやらない? もともと野球部として周辺の簡易清掃はやってたでしょ。」


「うん。」


みゆがうなづいた。


「その延長線でさ、河川敷まで範囲を広げて集中的にやるの。ちょっとハードだけど、誠実に地域貢献してる姿を見れば、本気で興味を持ってくれる子が来るかもしれない」


 みゆが優しく微笑んだ。


「そうだね、河川敷のゴミは気になってたよ。みんなのために……私も頑張るよ」


 さきが眼鏡を押し上げた。


「データ的にも有効ね。地道な活動の継続は心理的信頼獲得率を30%向上させる可能性がある。注目を集める手段としては合理的だわ」


「注目狙いじゃないよ、さきちゃん」


 あかりが笑いながら言った。


「あくまで地域貢献。本気の野球部として、やるべきことをやるだけ。そこに共感してくれる子がいたら嬉しいなって話」


 さきは一瞬黙り、それから小さく口元を緩めた。

「……訂正するわ。動機の純粋性がむしろ信頼獲得の主因になる、と」


 こうすけが部室の隅でスケッチブックを広げ、静かに頷いた。


「僕も力になるよ。」


 翌日の放課後、四人は河川敷の集中清掃に取りかかった。


 無防備感の段階的な獲得も兼ねて、三人は制服を脱ぎ、下着姿で作業に臨むことにした。


 あかりのライトブルー、みゆのオレンジ、さきの緑——三色のレースが秋の夕陽に映える。


 ゴミ袋とトングを手に、川沿いの草むらへ分け入る。


 これまでの簡易清掃はグラウンド周辺の落ち葉やペットボトルを拾う程度だったが、河川敷となると規模がまるで違った。


 茂みの奥には不法投棄されたビニール傘や弁当の空き容器が散乱し、川縁の岩の隙間には錆びた空き缶が挟まっている。


 土手の斜面には雨で流されてきたらしいコンビニ袋が点々と引っかかり、一望しただけで気が遠くなるような量だった。


 「……これ、今日だけじゃ絶対終わらないね」


 あかりが額の汗を拭いながら呟いた。トングで掴んだ空き缶をゴミ袋に放り込む。乾いた音がやけに大きく響いた。


 作業を始めてまだ三十分だったが、じっとりとした汗がライトブルーのレースに染みて、生地が肌に吸いつき始めていた。


 屈んで草の根元を探るたび、肩紐がするりとずれ、ライトブルーのブラから右の乳首がぽろんと飛び出した。


 硬く尖ったピンク色の先端が汗で濡れて艶やかに光り、秋の陽に照らされて微かに震えていた。


 あかりは一瞬息を飲み、慌てて直そうとしたが、手が止まらずそのまま作業を続けた。


 あかり自身、その感覚に気づいていた。けれど手を止めなかった。恥ずかしさの中で手を動かし続けること——それ自体が無防備感を鍛える修練だと、体が覚え始めていたのだ。


 みゆは黙々とペットボトルを集めていた。しゃがみ込んで草の根元を探り、泥のついた容器を一つずつ丁寧に袋へ入れていく。


 キャッチャーで鍛えた低い姿勢が、こういうところで活きる。ただ、深く屈み込むたびにオレンジのレースの肩紐が大きくずれ落ち、豊かな胸元から大きな乳首が完全に露わになった。


 汗で湿った桃色の乳輪がくっきりと浮かび上がり、柔らかな胸の上で重く揺れながら風に晒されていた。


 みゆは慌てて片手で直したが、すぐに次のゴミに手を伸ばした。


 「はあ……結構きついね、これ……」


 「想定以上ね」


 さきが腕時計に目を落とした。さきの細い体には汗の筋が幾条も流れ、緑のシンプルなレースが薄く透けて白い肌の輪郭を際立たせている。


 岩場のゴミを取ろうと前屈みになるたび、緑のブラの肩紐がするりと落ち、左の小さめの乳首がぽろんと露出した。


 形の良い薄ピンクの先端が空気に触れて硬く立ち上がり、汗の雫が乳首の先から滴り落ちていた。


 さき自身はそれを意に介する様子もなく、データの記録を続けていた。


「二時間経過、ゴミ袋三つ。進捗率は全体の二割程度。このペースでは最低三日はかかる」


 通学路に面した土手の上を、帰宅途中の学生たちがちらちらと見ながら通り過ぎていく。

 

 下着姿で黙々とゴミを拾う三人の姿は、遠目にはどう映っているのだろう。


 犬の散歩をしていた白髪の老人が足を止め、しばらく眺めていたが、結局何も言わずにゆっくり歩き去った。


 近所を散歩する主婦たちも遠くから視線を向け、立ち止まりかけて、しかし声をかけるほどではなく、そのまま歩いていく。


 視線の中に、ほんの少しの関心と——彼女たちの真剣さへの、まだ言葉にならない何かが混じっていた。


 日が傾き始めた頃、三人は土手に腰を下ろした。ゴミ袋は三つ。河川敷の広さに対して、あまりにも少ない成果だった。


 風が汗ばんだ肌を撫で、三人は思わず身を寄せ合った。冷えていく空気の中、互いの体温がじんわりと温かい。


 「明日も来よう」


 あかりが言った。疲れた声だったが、迷いはなかった。


 二日目。


 三人が河川敷に着くと、先客がいた。


 田中先輩と男子野球サークルの部員が三人、すでにゴミ袋を手に作業を始めていた。


 「先輩……」


 あかりが目を丸くすると、田中先輩はトングを肩に担いだまま振り返った。


 「お前らだけにやらせとくわけにいかないだろ。もともとうちのサークルの活動の延長なんだし」


 「先輩にやらせるためじゃなかったんですけど……」


 「知ってる。だから来たんだよ」


 男子部員たちは特別な感慨を見せるでもなく、淡々と作業に加わり、ゴミを拾う手に集中していた。


 彼女たちの真剣な姿が、余計な意識を自然に遠ざけていた。


 茂みの奥の大きなゴミは男子が引っ張り出し、細かい分別はさきが指示を出す。


 みゆが回収したゴミ袋を集積所まで運び、あかりは川縁の岩場を重点的に攻めた。


 岩の間に手を伸ばすたび、水飛沫が飛び散り、ライトブルーのブラがずり下がって両方の乳首が完全に露出した。


 濡れて透けた布地から飛び出したピンクの乳首が硬く尖り、冷たい水滴が乳輪を伝って滴り落ちていた。


 あかりは一瞬だけ唇を噛んだが、すぐにトングを握り直した。恥ずかしさはまだある。


 でも、それが少しずつ——日焼けのように——慣れていく感覚があった。


 こうすけは土手の上に座り、作業の合間にスケッチブックを開いては手を動かしていた。


 描いているのは、汗だくで泥に膝をつきながらゴミを拾う六人の姿だった。


 下着姿の三人の体に陽光が当たり、汗が光る瞬間の美しさを、こうすけの鉛筆は丁寧に追いかけていた。


 昨日と同じ犬を散歩させていた老人が、再び土手の上から作業を眺めていた。


「若いのに本気でやってるんだな…」


 と小さく呟きながら見守っていた。


 近所の人たちも足を止めて話す声が聞こえ始め、


「あの娘たち、ゴミ拾いしてくれてとても助かるわね」


と、彼女たちの誠実さに感心するような空気が生まれていた。


 人手が増えたことで、一日目の倍近い範囲をカバーできた。夕方までにゴミ袋は八つ。河川敷の半分ほどが片づいた計算だ。


 土手の上を通り過ぎる学生の数は、昨日より少し多い気がした。足を止めて眺める者も何人かいた。


 その視線の質が、微かに変わり始めていることに、三人はまだ気づいていなかった。


 三日目。

 陽射しは暖かかった。


 三人はもう迷いなく作業に取りかかった。二日間で体が清掃のリズムを覚えていた。


 どこにゴミが溜まりやすいか、どの角度でトングを入れれば効率がいいか。


 言葉を交わさなくても、自然に役割分担ができている。下着姿であることへの羞恥心も、一日目とは比べものにならないほど薄れていた。


 作業を始めて三十分ほど経った頃、汗の量が増えてきた。


 さきの緑のブラの肩紐が何度もずり落ち、左の乳首がぽろんと露出しては直す動作を繰り返していた。


 あかりも同様に肩紐が滑りやすく、屈むたびに乳首が飛び出しそうになる。


 みゆのオレンジのブラに至っては、豊かな胸の重みで肩紐が頻繁に落ち、大きな両胸が何度も陽光の下に晒された。


 さきのもう片方の片方の肩紐がずり落ちたとき、


「…データ上、このほうが30パーセント効率的。」


 そう言って、さきは迷わず緑のブラを脱いだ。細い白い上半身が完全に顕になり、小さめの薄ピンクの乳首が秋の陽にさらされた。


 あかりとみゆも納得したように頷いた。


「確かに…何度も直すの面倒だよね」


 あかりとみゆも、ブラジャーを脱いだ。


 三人とも自然にショーツ一枚の姿になり、汗が直接肌を伝う感覚の中で作業を続けた。


 河川敷の空気は、もうその姿を完全に当たり前の光景として受け入れていた。


 男子部員たちも昨日に続いて参加してくれていた。田中先輩は今日も黙って作業をし、時折あかりたちの袋がいっぱいになると新しい袋を渡してくれた。


 夕方。最後の一区画——川の合流地点近くの草地——のゴミを回収し終えたとき、三人は顔を見合わせた。


 「……終わった?」


 みゆが信じられないという顔で辺りを見回した。


 三日間で集めたゴミ袋は、合計十七。河川敷は見違えるほどきれいになっていた。陽に照らされた川面がきらきらと光り、草の緑が鮮やかに映える。


 三人は河川敷の水道で手と顔を洗った。冷たい水が汗と泥を洗い流し、ほっと息がつける。

 

 水滴が素肌の上を流れ落ち、三日間の疲労と達成感が同時に体を包む。


 上半身裸で水を浴びる三人の姿を、犬の散歩をしていた例の老人や近所の人たちが自然な目で見守っていた。


 「お疲れさま」みゆが笑った。


 「ゴミ袋十七個。三日間の累積作業時間から効率を算出すると——」


 「さきちゃん、今日はデータなしで」


 「……了解」


 さきの口元がわずかに緩んだ。データ抜きでも、達成感というものは確かに存在するらしい。


 三人が笑い合っていたそのとき、背後から声がかかった。


 「あの——」


 振り返ると、一人の少女が立っていた。

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