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婚活全敗の50歳窓際社員ですが、昔フラれた同級生と地下アイドルに通ってたら人生がちょっとだけマシになった件  作者: 雪だるま
第二章

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 日曜の夜。


 高橋美咲のマンション。


 ダイニングテーブルには、珍しく洋食が並んでいた。


 白身魚のムニエル。

 小さな前菜。

 スープ。

 サラダ。

 そしてワイン。


「のだぁ?」


 伊藤レイ(51)は席につきながら首を傾げた。


「今日はなんかオシャレなのだぁ」


「そう?」


「レストランみたいなのだぁ」


「まあ、ちょっとね」


 美咲は平静を装っていた。


 しかし内心。


(この人、また高級店でやらかしそうなのよね……)


 だった。


 前回。


 高級レストランでのレイ。


 ・メニュー価格に動揺

 ・フォーク持ち直し三回

 ・水飲みすぎ

 ・緊張をごまかすため突然喧嘩を売る


 かなり酷かった。


 だが。


 変にプライドだけは高い。


 なので。


 真正面から「マナー教える」は絶対ダメ。


 傷つく。


 拗ねる。


 面倒。


 だから美咲は考えた。


 “自然に覚えさせる”。


「はい」


「のだ?」


「今日はナイフとフォークね」


「うむ!」


 レイは妙にやる気だった。


 理由。


 “なんか大人っぽい食事”だからである。


 五十一歳児。


「……」


 美咲は静かに観察する。


 レイ、危なっかしい。


 だが前よりマシ。


 以前なら完全に握り方が変だった。


「……」


 美咲は自然に自分の動きを見せる。


 レイはチラチラ見ていた。


 完全に真似している。


「のだっ」


 切れた。


 魚を綺麗に一口サイズ。


「……」


 レイ、自分で感動。


「のだぁ……」


「どうしたの?」


「吾輩ぁ……」


「うん」


「今ちょっと高級ホテルの男みたいだったのだぁ……」


「気のせいね」


「のだぁ!?」


 しかし。


 今日は珍しくレイが素直だった。


 というより。


 褒めると伸びるタイプなのである。


「でも前より綺麗よ」


「のだっ♡」


 一瞬で機嫌が良くなる。


「うむぅ♡」


 単純。


「さっすが吾輩なのだぁ!」


「はいはい」


「覚えるの超早いのだぁ!」


 レイは完全に調子に乗り始めた。


「やはり吾輩ぁ!」


「うん」


「本来は上流階級側の男なのだぁ!」


「絶対違う」


「眠れる才能が開花してるのだぁ!」


 美咲は笑いを堪えた。


 予想通りである。


 この男。


 遠回しに褒めるとすぐ調子に乗る。


 だが。


 真正面から否定すると不貞腐れる。


 五十一歳だからこそ。


「ワイン飲む?」


「のだっ♡」


 レイはグラスを持つ。


 しかし。


 妙に慎重。


 以前みたいにガブ飲みしない。


「……」


 美咲は少し感心した。


「ちゃんと香り見てる」


「うむ!」


 レイは真顔だった。


「この前ネットで勉強したのだぁ!」


「へぇ」


「高級店で恥かきたくないのだぁ……」


「……」


 一瞬。


 美咲は少しだけ黙った。


 レイは見栄っ張りだ。


 でも。


 本当に嫌なのだろう。


 “場違いな男”になることが。


 若い頃なら。


 誤魔化して騒いで終わった。


 今は。


 ちゃんと覚えようとしている。


 その不器用さが少し愛しかった。


「……」


 レイはムニエルを食べながら感動していた。


「美味いのだぁ……」


「良かった」


「洋食ってぇ!」


「うん」


「もっと胃に重いイメージだったのだぁ!」


「店によるわよ」


「美咲の料理ぃ!」


「うん」


「なんか優しいのだぁ!」


 レイは本気で嬉しそうだった。


 美咲は少し笑った。


「はい」


「のだ?」


「パン」


「うむぅ♡」


 レイは受け取る。


 そして。


 数秒後。


「……のだぁ」


「なに」


「吾輩ぁ……」


「うん」


「今なら高級レストランでも戦える気がするのだぁ!」


「戦う場所じゃないのよ」


「フォークにも勝てるのだぁ!」


「前回負けてたものね」


「のだぁ……」


 レイは思い出して落ち込んだ。


 高級レストラン。


 緊張。


 価格。


 空気。


 全部怖かった。


 だが今。


 美咲の家で練習している。


 なんか変な話だった。


「……」


 レイは少し照れ臭そうに言った。


「美咲ぃ」


「うん?」


「ありがとうなのだぁ」


「……」


「吾輩ぁ」


「うん」


「こういうの知らないまま死ぬタイプだったのだぁ」


 美咲は少し目を細めた。


「大げさ」


「大げさじゃないのだぁ!」


 レイは真顔だった。


「吾輩の人生ぃ!」


「うん」


「ストロング缶と唐揚げだったのだぁ!」


「知ってる」


「なのに今ぁ!」


 レイはワインを掲げる。


「ムニエルなのだぁ!」


「語感で感動しないで」


 二人とも笑った。


 そして。


 食後。


 レイは妙にドヤ顔でナプキンを置いた。


「ふっ……」


「なにその顔」


「完璧なのだぁ」


「どこが」


「吾輩、完全に上流階級の男なのだぁ」


「五分前パンくず床に落としてたわよ」


「のだぁ!?」


 しかし。


 レイは本当にちょっと嬉しそうだった。


 誰かに恥をかかないよう教えてもらうこと。


 それ自体が。


 人生であまりなかったのかもしれない。


「……のだぁ」


 レイはソファで満足そうに呟いた。


「次は本物の高級店行くのだぁ!」


「そうね」


「吾輩、もう怖くないのだぁ!」


「それは良かった」


「うむ!」


 数秒後。


「……でもぉ」


「うん?」


「エスカルゴ出たら逃げるのだぁ」


「子供なの?」

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