金曜日は雨を知らない③
第三章
ギルドにて
ギルドの扉は重い。
押すたびに、木と鉄が擦れる低い音が鳴る。
その音にはいつも、外と内を分ける儀式めいた響きがある。
中は熱気で満ちていた。
酒と汗と革の匂い。
笑い声。罵声。椅子のきしみ。
金属が触れ合う乾いた音。
ここには常に“生き延びた人間”の空気がある。
明日死ぬかもしれないという自覚をした者だけが持つ、奇妙な明るさだ。
先生はその喧騒の中を、まるで舞台の中央を歩く役者のように進む。
歩みは奥の受付カウンターの前で止まる。
私はその後ろを肩を窄めてくっ付いて歩く。
どうしても威圧的な空気に圧倒されてしまう。
受付にて、先生は手紙を指差し、こいつを読んでくれと注文した。
これから手紙を送ってきた人物に会って話を聞くということだろう。
「ただいま外出中ですが、30分ほどで戻ってくる予定です。待合室で待たれますか。」
先生は外用の猫を被って、愛想よく応える。
「いえ、こちらで待たせていただきますので、お気になさらず。
久しぶりにギルドの雰囲気も味わいたいですし
では失礼」
教授は不満を言わない。
こういう時の彼は静かだ。
まるでオモチャを買ってもらいたくて礼儀正しくする子供のよう?
それだけ手紙の内容が興味深かったのだろう。
会話を終えて向かったのは冒険者ギルドの入り口から見て左側面に配置された掲示板だった。
ここには冒険者のために、この都市で起こっている事件や情勢、気象情報などが無料で提供されている。
冒険者ギルドの右奥に併設されている酒場の反対側にあるので、こちらの雰囲気は落ち着いている。
木製の掲示板には羊皮紙が何枚も重なり、乱雑に貼られている。
一枚一枚ざっと目を通してみる。
汚職
大物貴族による着服。一部資金が裏金として犯罪組織に受け流されているという疑惑も。
殺人
連続婦女殺人事件の証拠発見。一番新しい5件目の現場で魔力痕跡発見か。
英雄譚
ノートルコークダンジョン80階層到達。エスパークパーティーを筆頭に人類未踏の領域に踏み込む。まもなく期間するとのこと。
流行り病
原因不明の風邪が流行。スラム街から徐々に拡大中。感染力は高いが重症度は高くない
不作
ここ一ヶ月続く日照りで、農作物が壊滅。市場での価格高騰が見込まれる。
こう眺めてみるとマイナスなニュースが圧倒的に多い。
不幸な話題の方が需要があるというのも都市ならではなのかもしれない。
「物騒ですね」
口に出してみたが、先生の耳には届いていなかった。
先生は真剣な眼差しで掲示板を眺めていた。
自分の世界に入ってしまったらしい。
私はその横顔を見る。先生の目は掲示板の全てを読み取らんと絶えず動いていた。
一枚の紙で、眼球が一瞬止まる。
その教授の目は、読むというより“測って”いたるようだった。文字の裏側にある真実を。
咄嗟にどのニュースが気になるのか聞こうとしたその時、ギギギッとギルドの扉が開いた。
ギルドにある一団が到着した。




