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金曜日の雨は知らない①

 第一章

 ボロ屋の名探偵



 僕の仕事は名探偵の助手だ。


 いや、仕事というのは少し語弊がある。

 まだ学生の身で賃金は一銭たりとも、もらっていないのだから。


 名探偵というのは、そこで寝っ転がっている男のことである。


 彼の名はケースタイン。

 こちらは探偵というのに語弊はないが、専業の職業探偵ではない。

 兼業あるいは副業、いや探偵が趣味と言った方が正確だろう。

 一度、気になり出したら最後、自分が納得するまで止まれない、「事件」と聞くととりあえず首を突っ込みたくなるタイプの人間である。



 そんな彼も日がなゴロゴロしているわけではない。歴とした肩書きがある。


 王立魔法学園 応用推理学研究室教授。


 本業は学校の先生というわけだ。


 つまり、この男と僕は教授と生徒であり、探偵と助手の関係なのである。



 ここ、王都エルストイには国が運営している学園が存在する。

 初等、中等教育を経た後に入学が許される高等教育課程だ。

 15歳から4年間通って卒業していくのが一般的だ。

 学費が恐ろしく高いので、実質的には貴族専用の学び場となっている。


 僕も貴族の端くれとして、1ヶ月前に最高学年の4年目の学園生活を迎えたばかりだ。


 僕の学園生活なんてものは灰色で、特記することもないので割愛させていただく。


 ひょんなことから、ケースタイン先生に出逢い、こうして暇な時間をぬっては探偵活動のお手伝いをしているというわけである。


 私は助手として先生のもとにいる。


 名刺にも、

 王立魔法学園 応用推理学研究室 助手

 と書いてある。


 しかしその実態は、雑用係だ。


「助手君」


 いつものように先生に呼ばれる。


 僕は目を閉じる。

 返事をする前に、心の中で三秒数える。

「どうかしましたか」


「紅茶が冷めた」


 ・・・・・・やっぱりそれか。



 僕たちがいるこのボロ屋を、

 探偵事務所――と教授は言う。

 僕から見れば、雨漏りする廃倉庫である。いや事実、廃倉庫だ。


 壁紙は半分剥がれ、

 床板は踏むたびに悲鳴を上げる。

 窓は閉まらず、隙間風が常に吹いている。


 それでも教授は満足そうだ。


 いつのまにか椅子にかけて、今朝入れた紅茶に口をつけたらしい。

 先程まで寝腐ってたとは思えない気品を感じさせる雰囲気を醸し出し長い脚を組み直す。


 せっかく淹れたのに、冷めるまで寝てたのはどこのどいつだ。



「温度というのはね、助手君」


 先生は紅茶を掲げる。


「真実と同じで、扱いが難しい」


「ただの猫舌では?」


 教授は気にもとめていない風だった。

 都合の悪いことは聞こえない都合の良い耳の持ち主らしい。


 新しい湯を沸かす。

 やかんの底が焦げている。


 まったく、ここに通うようになってから何度紅茶を用意したことか。


 およそ1年前に僕を魅了した明晰な頭脳はどこへ行ったのやら。


 カラン


 乾いた金属音が部屋に響いた。

 郵便受けに何か届いたみたいだ。


 先生の目が動く。


 野生の獣のような反応だった。


 取ってこいとは言われていないが、飼い犬のように従順な僕は郵便受けを開けて、今届いた封筒を取り出した。


 中身は確認せず、先生に手渡す。

 封筒を裏返して差出人を確認しているようだ。


 こちらから差出人の名前は見えない。しかし、良い相手ということは先生の表情を見れば一目瞭然だった。


 飢えた獣が獲物を見つけたように、ニヤリと笑っていた。





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