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霊装使いになれなかった俺が、九尾と契約した日  作者: 三科異邦


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14/36

研鑽の時

翌日、朝。


 身体はまだ重い。

 昨日の妖怪戦と、代償の兆候で、寝起きから全身が鉛のように重い。


 だが、父の言葉を思い出す。


「尾を使うな。押し出すな。流れを作れ」


 ……これが、今日の課題だ。


 教室はいつも通りだったが、

 俺が座ると微妙に視線が集まる。


 昨日の“野良妖怪騒ぎ”の影響か、

 クラス内には少しざわめきがあった。


「……西園寺くん、顔色悪いね」


 隣の席の女子が、小声で囁く。


「……大丈夫だ」


 でも、俺の頭の中は戦闘と修行のことでいっぱいだ。

 尾はまだ出せない。

 使えば、代償が膨れ上がる。


     ◆


 放課後。


 学院の裏庭に出る。


 ここは、霊力が安定して流れる場所だ。


 葛葉が、静かに告げる。


「……まずは、霊力の循環だ」


 身体の中で、霊力を回す。

 手のひら、足の裏、胸の奥。

 目に見えない経路を意識する。


 ……簡単ではない。


 一歩間違えれば、胸の奥が熱くなり、痛みが走る。


 何度も倒れ、息を切らす。

 周囲の空気も微かに揺れる。


     ◆


 「……もっと意識を集中しろ」


 葛葉が言う。


 俺は、呼吸を整え、霊力を足先から頭まで、

 まるで水のように巡らせる。


 だが、まだ不十分だった。


 胸の奥で、じくりと痛みが走る。

 代償の兆候――

 小さな発熱のように、身体が反応する。


「……くっ……!」


 何度も倒れ、地面に膝をつく。

 心臓が重く脈打つ。


 でも、尾は出さない。

 “押し出さず”、内で回す。


     ◆


 日が傾き、辺りは夕焼けに染まる。


 何度目かの挑戦で、

 霊力の流れが、わずかに滑らかになった気がした。


 だが、身体は限界寸前だ。


 額から汗が滴る。


「……これが、精一杯か」


 葛葉は、静かに頷いた。


「……まだだ。

 だが、良い兆しだ」


 呼吸を整え、意識を集中する。


 ……やっと、胸の奥が大きく熱くならなくなった。

 代償の小さな兆候も、少しだけ抑えられた。


     ◆


 その時、背後で声がする。


「……玄弥くん」


 振り返ると、マトリだった。


 少し心配そうに見下ろす。


「……大丈夫ですか?

 昨日の妖怪戦、

 まだ影響が残って……」


「……ああ、なんとか」


 無理に笑う。


 だが、マトリの視線は鋭く、離れない。


「……でも、無理はしないでください」


 わかっている。

 彼女は自分なりに心配している。


 俺も、頭を下げる。


「……ありがとう」


     ◆


 夕焼けの光が、霊力で揺れる。

 風が静かに吹く。


 尾はまだ出せない。

 でも、循環できるようになった。


 ――父の言葉通り、代償を少しだけ抑えられた。


 だが、安心はできない。


 世界は静かに、少しずつ、

 九尾の復活と自分の血の覚醒を待っている。


 まだ、序章に過ぎない。


 俺は、立ち上がり、夜空を見上げた。


 ――次の戦いに備え、

 今日も、己の内を磨くしかない。


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