研鑽の時
翌日、朝。
身体はまだ重い。
昨日の妖怪戦と、代償の兆候で、寝起きから全身が鉛のように重い。
だが、父の言葉を思い出す。
「尾を使うな。押し出すな。流れを作れ」
……これが、今日の課題だ。
教室はいつも通りだったが、
俺が座ると微妙に視線が集まる。
昨日の“野良妖怪騒ぎ”の影響か、
クラス内には少しざわめきがあった。
「……西園寺くん、顔色悪いね」
隣の席の女子が、小声で囁く。
「……大丈夫だ」
でも、俺の頭の中は戦闘と修行のことでいっぱいだ。
尾はまだ出せない。
使えば、代償が膨れ上がる。
◆
放課後。
学院の裏庭に出る。
ここは、霊力が安定して流れる場所だ。
葛葉が、静かに告げる。
「……まずは、霊力の循環だ」
身体の中で、霊力を回す。
手のひら、足の裏、胸の奥。
目に見えない経路を意識する。
……簡単ではない。
一歩間違えれば、胸の奥が熱くなり、痛みが走る。
何度も倒れ、息を切らす。
周囲の空気も微かに揺れる。
◆
「……もっと意識を集中しろ」
葛葉が言う。
俺は、呼吸を整え、霊力を足先から頭まで、
まるで水のように巡らせる。
だが、まだ不十分だった。
胸の奥で、じくりと痛みが走る。
代償の兆候――
小さな発熱のように、身体が反応する。
「……くっ……!」
何度も倒れ、地面に膝をつく。
心臓が重く脈打つ。
でも、尾は出さない。
“押し出さず”、内で回す。
◆
日が傾き、辺りは夕焼けに染まる。
何度目かの挑戦で、
霊力の流れが、わずかに滑らかになった気がした。
だが、身体は限界寸前だ。
額から汗が滴る。
「……これが、精一杯か」
葛葉は、静かに頷いた。
「……まだだ。
だが、良い兆しだ」
呼吸を整え、意識を集中する。
……やっと、胸の奥が大きく熱くならなくなった。
代償の小さな兆候も、少しだけ抑えられた。
◆
その時、背後で声がする。
「……玄弥くん」
振り返ると、マトリだった。
少し心配そうに見下ろす。
「……大丈夫ですか?
昨日の妖怪戦、
まだ影響が残って……」
「……ああ、なんとか」
無理に笑う。
だが、マトリの視線は鋭く、離れない。
「……でも、無理はしないでください」
わかっている。
彼女は自分なりに心配している。
俺も、頭を下げる。
「……ありがとう」
◆
夕焼けの光が、霊力で揺れる。
風が静かに吹く。
尾はまだ出せない。
でも、循環できるようになった。
――父の言葉通り、代償を少しだけ抑えられた。
だが、安心はできない。
世界は静かに、少しずつ、
九尾の復活と自分の血の覚醒を待っている。
まだ、序章に過ぎない。
俺は、立ち上がり、夜空を見上げた。
――次の戦いに備え、
今日も、己の内を磨くしかない。




