春休み
博多南小学校・職員室
昼下がり、カーテンから差し込む春の陽射しの中。
赤間先生が湯呑みを手に、ぽつりとつぶやく。
赤間先生:「…なんか、静かすぎるねぇ」
東郷先生:「ほんと。あの子らおらんくなってから、休み時間に廊下で腹抱えて笑うこと、なくなったもん」
ふたりの脳裏には、授業中に双子ちゃんが小さな爆笑ネタを放り込んで、クラス全員を転がした日々がよみがえる。
黒板の前で先生が耐えきれずチョークを落とした瞬間、
運動会で応援合戦そっちのけで即興コントを始めた瞬間、
そして腹筋が攣って職員室でストレッチをする羽目になった瞬間――。
そこへ隣の席のベテラン男性教員もひと言。
男性教員:「あの双子ちゃんは…芸人でも滅多におらんレベルやったね。あれは学校の宝物やったばい」
別の先生も同意し、
「静かになったけど、なんや寂しいね」
「次の爆笑の担い手が現れるかな?」
と笑みを浮かべながら話す。
けれど、誰もが心の奥でこう思っていた――。
“あの腹筋が攣った日々は、二度と戻らんやろうねぇ…”
博多南小学校・校庭
桜がまだ少しだけ残る春の午後。
入学式とクラス分けを終えたばかりの双子ちゃんが、母校にふらりとやってきた。
光子:「…なんか静かやねぇ」
優子:「こんなんじゃ、南小らしくなかばい。まずは一発かまさんと」
そう言うやいなや、二人は校庭の真ん中で即興コントをスタート。
ランドセル背負ったまま、まるで漫才ステージのようなやりとりが繰り広げられる。
ギャグの波状攻撃に、校庭の空気が一気に温まる。
そのとき――
一年生の女の子ふたりが、目を輝かせて駆け寄ってきた。
一年生A:「あっ!ギャグとコントの女神様〜っ!」
一年生B:「うちらのギャグ、見てほしいとです!」
どうやら、この二人…
双子ちゃんの動画を毎日研究し、ノートに「笑いの分析」を書き溜めていたらしい。
ギャグのタイミング、顔芸の角度、ボケとツッコミの間合いまで細かくチェック済み。
校庭の真ん中で、小さな「双子ちゃん二世」がオリジナルネタを披露。
それを見守る在校生たちからは、さっそく爆笑と拍手が巻き起こる。
優子:「あんたら、なかなかやるね〜」
光子:「これから南小は、また嵐が吹き荒れるばい」
――そう、再び博多南小に「腹筋崩壊の日々」が戻ってくる予感しかしなかった。