カボチャのスープ
彼女は鏡を見ていた。
そして、じっくりと顔の点検をした。
目尻のシワの具合や変な所に毛が生えていないか、ニキビができていないかと、いくつかの要点を丁寧にチェックし、それが終わると、鏡をテーブルの上に置いた。
彼女はその日も仕事に打ち込んだ。
気づけば、あっという間に時間が過ぎていった。
今晩、あきなが部屋に来て一泊する事になっていた為
、彼女は仕事が終わると、真っ直ぐ家に帰り、部屋を片付け、冷凍していたストックからご飯を作りはじめた。昨日作ったカボチャのスープも温め直した。
友達とお泊まりするなんて、もう随分久しぶりだった。最後がいつだったのか思い出せもしなかった。
準備にひと段落し、15分ぐらい経った時、あきなが部屋にやってきた。
ドアを開けると、よっ!と友人はいつも通りのテンションと笑顔だった。一昨日の電話の声からは想像できない程の落差だった。彼女は見慣れた友人の顔を見た。だが、特に目などが腫れてる様子はなかった。
「全くもう最悪よね〜。こんな事があるんだなって。ドラマかよって思ったわ。」と明るいテンションで言った。
彼女は友人を部屋に上げた。
あきなは、はいこれ、お土産。と言って、買ってきた有名店のケーキを彼女に手渡した。
彼女はありがとうと言うと、あきなは「へぇ〜変わってないね〜。」と部屋を見渡しながら言った。
「まぁねぇ。」と彼女は言ったが、もうそろそろ引っ越しをしたかった。だが、それも面倒で、重い腰が上がらなかった。
「さっそくご飯にする?」と彼女は聞くと、「いいよ!何か手伝おうか?」とあきなは言ったが、「座ってて、もう作ってあって、温めるだけだから。」と言い、断った。
「へぇ〜なんだろうな〜」とあきなは楽しそうに言った。
「煮込みハンバーグだよ。」と彼女はすぐ答えを言った。
友人は見てもいないのに、美味しそう〜と言い、彼女はちゃんとそれにツッコんだ。
1人だと作る事はない、盛り付けにも手の込んだご飯をテーブルの上に並べた。
煮込みハンバーグ、サラダ、ご飯、カボチャのスープだ。2人はさっそく、食事をはじめた。
彼女は自分で作っておきながら、美味いと思った。
あきなも美味しいと言いながら、どんどん食べた。
彼女はこのまま時間が過ぎればいいと思っていたが、
勿論、婚約解消の話は避けられない話題だった。
「いい人だったでしょ?」と彼女が昨日会った、紹介してくれた男の話にまずなった。
彼女はまだわかんないけど、まぁそうだと思うと言った。
さやかとお似合いだと思うけどな〜とあきなは言った。
あきなは男の元カノとの別れ話をどれほど知っているのだろうか?と彼女は思った。
そして、彼女は昨日男と話した内容の触りの部分だけをあきなにも話した。まるでお互いにカウンセリングみたいだったと。
あきなはその話を聞きながら笑った。
あきながその男に会った事があるのは、3回ともグループの飲み会で、何度か話をした事があったのだが、彼の元カノ話はそこまで深く知らなかったと言った。
あと、あきなはあの男に私をなぜ紹介したのか?という昨日、疑問に思った事を聞いた。
すると、あきなは「私の勘よ。なんか、2人はちょっと雰囲気が似てるのよね。上手く言葉にできないけど。」と言った。
そして、2人は晩ご飯を食べ終え、あきなが持ってきてくれた、ケーキを食べ始めようとした時、ようやく婚約解消の話に足を踏み入れた。
彼女は、彼女が作った食事の最中に、その話を持ち出さなかったのは、友人なりの気遣いだったと思った。
あきなは「一昨日はごめんね。いきなりあんな電話しちゃって。」とまた謝ってきた。
その声音は今さっきまでとは、少し違っていた。
謝らなくていい。と言うと、友人は言葉を発さず、目を次第に赤くしていった。
抑えていた感情が少しずつ、溢れてくるのが目にとれた。
そして、口を開き、ゆっくりとその話を始めた。
婚約解消の原因は彼の浮気だった。
そして、その浮気は2年も続いていたのである。
浮気相手の女が2人が結婚するという話を聞きつけ、
あきなの前に現れ、その2年間の出来事を事細かく話したのである。
信じられる?とあきなはなんとか明るい顔をしようと
していたのだが、どんどん涙が溢れ、その度、ティッシュで抑えていた。
その後、話が詳細になるにつれて、友人はさらに泣きながら話した。
耳を塞ぎたくなるような話が沢山あった。
あきなは苦しみながらも、その話を話した。
彼女はその話を聞きながら、何度も信じられないと思ったのだ。
あきなはまだ彼に思いはあると告白したが、浮気された事はどうしても許せない、心がバラバラになっている気がすると言った。
彼女はそれをただ聞いて、受け止めた。
友人の心のこりをほぐすように、頷き、話を聞いた。
彼女に出来る事はそれぐらいだった。
どうしてあきながこんな目に遭わないといけないのだと思った。
友人の元婚約者とは何度か会った事があった。
2人の関係は5年ぐらい続いていたと思う。
あきなの元彼は、そんな事をする人の様には思えなかった。
彼女は立て続けに、2組のカップルの別れ話を聞いた。
そして、2人とも傷ついた側の人の話だ。
あきなはなんとか話を終え、ひと段落すると、こう言った。
「カボチャのスープ、おかわりできる?凄く美味しかった。」
彼女はあるよ。と言い、立ち上がり、カボチャのスープを温め直し、新しい容器に入れて出した。
友人はほんの少しだけスッキリした顔になっていた。
その顔を見てから、彼女は、深い海の底にあったカボチャの夢の話を唐突にした。
もうつぎはぎの記憶になりかけた、その夢をもう一度引き摺り出し、彼女は話した。
それを聞いて、友人は作り話だと少し笑った。
彼女も笑って、否定した。
大きなカボチャと私の足が繋がれてたと。
あきなは笑い、涙を拭きながらこう言った。
「だから浮上する為に、カボチャを食べているんだね。」と。
浮上する為に、カボチャを食べてる。
彼女も笑ったが、心の底ではそうかもしれないと思ってしまった。
カボチャを食べる事によって、私は解放されるのだと。
それから2人は深夜遅くまで話をした。
なるべく明るい話を選び話した。
少女だった2人は、昔に戻ったかのように、楽しかった思い出話をした。
彼女は時間を気にして時計を見ると、
その間、時計の針はずっと動いていた。
そして、彼女はこの瞬間の儚さを胸に感じながらも、
2人は話を続けた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
話はもう少しだけ続きます(^^)
最初の書き出しが1話目と同じなのは、故意です。
個人的な話になりますが、近頃はカボチャスープよりトマトスープを沢山飲んでます(いらない情報)。
感想、評価、指摘などを頂けると嬉しいです。
ありがとうございました。




