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神とたたかう人でなし。  作者: 瀬々良 未完成
北部戦線の再始動
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Chapter1.0.8 ソレゾレ

「大丈夫…大丈夫…」


 あかつきさんがどこにいるのかはよく分かる。

 ()()()()()()()()()()し、()()()()()()()分かる。

 それに彼は強いからきっと何が起こっても大丈夫なはず……。


「落ち着け…私……!」


 二度三度大きく息を吸って吐く。

 今は前からくるあの化け物を倒さなければならない。私が突破されてはならない。私が突破されればそれは北部戦線の要所が破壊されることになる。私が突破されればその奥で住民の血が流れる。


 私は任されたのだ。あかつきナユタという強い人間から任されたのだ。

 大丈夫、あの小型の神獣なら何度も倒したことがある。1人で2体を相手取ったことなんて一回や二回ではない。


「大丈夫、大丈夫…大丈夫…」


 気がつけば自分に言い聞かせるようにそう呟いていた。

 任せられた。問題なんてない。これは過大評価でも何でもなくただの実力通りの指示だ。私なら絶対にあの2体を打ち倒すことができる。

 何も起こるはずはない。


あかつきさんなら大丈夫……」


 私ではどうにもならない。私はきっと何があっても()()()()()()()()あかつきさんも死なない。きっと大丈夫。


「よしっ…!」


 前を向く私。そこではだんだんと離れていく2つの火。そしてだんだん近づいてくる2体の獣。


「ここから先は……!」


 全力で地面を蹴る。槌を構える。照準はやや前方を走る右手の獣。


「通しません!!」


 全開の力で振り抜いた。

 ドゴッ

 獣の半身を打ち抜く。


「浅いっ……!」


 やや左方へと弾き飛ばしたがそれも歩みを止められるほどのダメージではなかった。


「次こそはっ……」


 再び脚に力を込める。地面から、大地から伝わる力を全て自分の推進力へと……


「はあぁぁぁぁぁ!!」


 大槌(ハンマー)を全力で振りかぶる。

 この推進力ごと全ての力をかけて振り抜く。


(…この位置なら!)


 真横に向けて振り放った大槌(ハンマー)は突進する獣の顔面に直撃し、その歩みを完全に止める。

 否、ジリジリと後ろへ下がっていくのだ。獣の身体が。


「もう1体……!」


 彼女の細腕のどこにその膂力があるのか、そのまま1体の獣を引きずりながら彼女は……


「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ドゴンッ!!

 もう1体の突進する獣ごと打ち抜いた。


「ぐっ……!」


 メリメリと全身から悲鳴が聞こえる。

 小型とはいえ全長6mほどの身体に鋼鉄の如き体表。加えて突進する勢いを真正面から受け止めているのだ。それが2体。

 しかし、そんな獣たちは身長150センチそこそこの小柄な少女の振るう大槌(ハンマー)に抗えない。2体重なり、後退させられることはなくなったが、同時に前にも進めない。

 完全な膠着状態。


「ぐっ……、あぁぁぁぁぁ!!!」


 クオンは叫ぶ。全ての力を出し切っているはずなのにそれでも彼女は決して折れずに踏みとどまる。

 ピシッ……

 何かにひびが入る音がなる。

 ピシッ…ピシッ……!

 そのおとは次第に大きくなっていき……

 バキッッ!!

 ついに割れた。いや、折れたのだ。


 それは彼女の細腕ではなく、彼女の振るう大槌(ハンマー)でもなかった。それはその獣の代名詞、その獣がそう呼ばれるに足るための象徴(シンボル)。あの天に向かってそびえ立つ大牙がついに折れた。


 ブモオオオォォォ!!!

 今まで足音と鼻息しか発さなかったその獣が雄叫びをあげる。

 しかし、それは巻き返しをはかるために己を鼓舞するためのものとは程遠く……


「これで……」


 彼女は2体の獣を後方へ弾き飛ばした、間髪入れずに振りかぶる。上方へと……。


「とどめっ!!」


 全開で振り下ろされたその大槌(ハンマー)に2体の獣はなす術もなく…


 ブモオオォォォ……

 その断末魔を残したまま朽ちていった。


「はぁ…、よし!」


 1人ではあったが何とかなった。初撃に失敗したときは少しばかり焦ったが終わってみれば、とてつもなく疲れはしたけど無傷だ。

 またそうだ。()()()()()私は死なない。


あかつきさん……!」


 私は急いで先の炎で明るくなった真っ暗な森の中へと歩を進める。


「ーーーーーー」

「!!!」


 バッと振り返る。


「……今のは?」


 何だろうか。どこからか視線を感じた。何かとてつもなく冷たくて、それでいて殺気をはらむようなそんな………。


「誰もいない……気のせい?」


 辺りを見渡しても誰もいない。戦場の空気にのまれて敏感になりすぎているのだろうか。

 こうしてはいられない。すぐに行かなければ()()()()()()()おかしくない。

 止めた足を再び動かした。焦燥感に駆られながらも注意は怠らずにさっきよりも燃え上がる森の中へと突き進んでいくのだった。


「……ふーん。あれが()()()かぁ。」


 彼女のいなくなったその地にどこからともなく現れた少女がいた。


「う~ん。まだ引き継ぎがうまくいってないみたいだしぃ~……」


 少女は真っ暗な虚空を眺めて、


「今のうちに……間引いちゃう?」


 満面の笑みを浮かべて跡形も無く消えた。



「いやー、猪狩りも久しぶりすぎて感覚を忘れてそうだぜ。」


 誰よりも先に戦闘行動を開始した男、風利かざりフーリはそんなことを呟いた。

 目の前からは突進してくる猪が2体。双方ともに全長およそ30m。


「よし、両方ともしっかり小型だな。」


 何でもないことのようにそう言い放った。


「この感じならお嬢の方も大丈夫か。」


 新入りの男女のことは一切心配はしていないが、やはり気になるのはあのお嬢様のことだ。


「中央とか西とかはこっちより忙しいそうだし、あの2人は気にするだけ無駄だろ。さて……」


 自身の頭を目の前の馴染みの怪物へとシフトする。


()()しんどいからあんまり戦うのとかは好きじゃないんだよね〜。」


 さっきまでとは打って変わってふざけたような日常の彼へと変わったのだ。


「こんな辺鄙なところに攻めてきたってなーんにもいい事ないと思うんだけどな。」


 彼はその口調も、見る人が見ればかえって気を悪くするような謙った態度も、ふざけたような姿勢も崩さない。


「本当にやってらんないぜ。わざわざ何の意味も意思もないような化け物のためにこっちは毎回命がけだ。」


 ブモオオオオオォォォ!!

 その雄叫びが耳をつん裂くほど大きく響き渡っても彼は一切気にしない。


「何百年も前から懲りずに何度も何度も……あれ、なんか腹立ってきたぞ?そういえば小生の貴重な睡眠時間まで今日は妨げやがったよな?」


 じわじわと余りにしょうもない理由で怒りが募っていく。同時に心臓がドクドクと脈打つ小気味の良い音が耳を支配していく。


「あー、だめだだめだ。腹を立てるのは疲れるからやめとこう。ただでさえ今日はしんどいのに身体が持たん。」


 一気にへらっと空気が弛緩する。心臓の音は再び耳には届かない、平常運転に戻っていく。


「それにしてもお嬢も粋なことを…」


 そういう彼が立っているのは森林の中に突然存在した空き地だった。

 その昔、とある女剣士ととある荒くれ男子が大げんかをした際にできた空き地だという噂があるが真偽の程は定かではない。


「ここなら気にせず戦えるとね。」


 我らがお嬢様の立案能力はなんだかんだ高いのでこういうときはありがたい。できれば立案なんてしてほしくはないところだが人命に関わってくることなので贅沢も言っていられない。


 ブモオオオオオォォォォォォ!!!


「さてさて全身が見えて参りましたが、引き返す気はないようです。」


 競い合うように2体の巨体な小型が突進してくる。


「やれやれ面倒くさい。」


 はぁと大きなため息を一つ吐き、再び息を吸う。



「【薙げ…ヴェルフェゴール】」



 戦場に一陣の風が吹いた。

「はてさて、小生の身体は耐えられるのかねぇ?」

 最強におどけた風利かざりフーリはわずかに笑みを浮かべていた。



「一丁上がり、ですわ。」


 優雅に焼け焦げた地へと降り立ったのは静電気でその綺麗なブロンドの髪をあっちこっちに逆立てたエレナ=ヴィッケンシュタインだった。


「全く、わたくしたちのお庭を荒らしに来るならもう少し品のいいのをよこして欲しいものですわ。」


 そう言う彼女の前にはまる焦げになった2体の猪であったようなものが転がっていた。その全長は30mに及んでいたが、その身体はボロボロに朽ち始めていた。


「フーリくんは大丈夫かしら?あの子に限って心配はないと思うのだけど…」


 そう言って真っ先に気にかけるのは自身の従者だった。新入りの2人のことは全く失念しているかのようであったが。


「とりあえずフーリくんと合流しましょう。もう向こうも終わっている頃だろうし。」


 戦闘終了後はまたあの塔の前で合流するというのは全員の共通認識だ。

 駆け出す彼女の身体は未だに電気を帯びており、月明かりの届きづらいこの森林を仄かに照らしていた。


「そういえば、クオンちゃんとナユタくんも今回から一緒に来てたわね。でもあの2人は中央や西にいたって言っていたし、一応一番楽なところを任せたし、何も問題はないでしょう。」


 少しペースを落として駆けていたが、考えごとも終わったので上げていく。

 ピピピッ……

 こんな原始的な森の中では全く似つかわしくない電子音が鳴り響く。


「……!」


 その音を聞いて彼女は少しだけ、ほんの少しだけ鬱屈とした気分になる。

 どうして私の身体はこうなんだろう。そんな感情が少し湧き上がってしまった。


 ピピピッ……

 しかしそんな考えも二度目の電子音が聞こえた時にはもうすっかり切り替えていた。


「もうすぐ着くわ。」


 彼女の声には安堵があった。いくら慣れているとはいえ生死を争う場からまた戻ってくることができた。


「おーい、お嬢ー。」


 塔の前ではそう言って手を振って迎えてくれる優しい青年もいる。


「フーリくん、大丈夫だった?」

「まぁ、いつも通りなんで特に問題は無かったです。」

「そう。」


 再び彼女は安堵した。自身の大切な従者を自身の命令で怪我をさせたとあっては、とてもではないが立ち直れるとは思えない。その程度に自分が弱いことは彼女自身分かっていた。


「あの、お嬢?」

「なぁに?」

「まだビリビリするので抱きついてくるのやめてくれません?」

「あら、これは失礼。」


 パッと離れる。自身の力の都合上使用をやめても少しの間身体に影響が残ってしまうのがたまに傷だ。自慢のブロンドヘアーもまだあちこちにはねたままだ。


「それにしても、あの2人は大丈夫ですかね?」

「そうね、思っていたより遅いわね。」


 今の現状はあまり望ましくはない。自分の計算ではもうとっくに2人とも帰ってきているはずなのに…。

 これが意味するところは彼女の計算ミスか、あるいは…


(何か計算外(アクシデント)があったか。)


 しかし、何かあれば無線で情報が来るはずなのにそれがない。


(クオンちゃん、ナユタくん…!)


 心優しいお嬢様は今日出会ったばかりのかけがえのない友達2人の無事を祈る。

 塔から見て真北の奥の奥で、燃え盛る豪炎はそんな彼女の祈りを妨げる災いのようにしか感じられなかった。


『聞こえるかい、エレナ?』


 突然無線から声が聞こえてきた。


「はい、聞こえますわ。」

『それは良かった。どうやら新人の2人は少し厄介な状態にあるみたいだ。』

「…それはどういう?」

『うーん、上からはただ厄介な状態としか言われてないからね、僕も何とも言えないんだ…。とにかく今マシロとカイセを向かわせている。合流次第救援に向かってくれ。場所は分かるかい。』

「はい、分かります。」

『そうかい、それじゃあ頼むよ。』


 無線が切られた。

 エレナはおそらく2人がいると思われる場所を眺める。そこにはただ煌々と炎が燃え盛っていた。

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