オイタは許しません
氷のオブジェを通過すると無表情で涙を流しながら立ち尽くす二人の門番がいた。
この目を見たことがある。
少し前のカンバーと同じ絶望の目だ。
きっと完璧に乗っ取られたわけじゃないから、友達を攻撃したことに胸を痛めているのだろう。
「安心しろ。あいつらは無事に安全なところへ避難させた。」
「サフラン、眠らせてやるとかできないの?」
「最近アジュも無茶ぶりしますね…聖魔法では難しいですわ。」
「…役立たず。」
「酷い!」
「そんなことしないでも俺とサラで十分だ。」
先行していた、ポール、アジュ、サフランの会話を聞いていると余裕しか感じないな。
村の住居から離れた位置にある門周辺ですら、あまりいい雰囲気ではないのに。
門番の背後には、赤い球が埋め込まれた石碑が数個浮かんでいて魔力が集まっているのが分かる。
恐らく魔兵器。
ダンジョン内外で手に入る魔力の塊である石を使って国々で作られている戦争用兵器だ。
先ほどの攻撃はこれだったんだろう。
それを受けても軽症って、騎士コンビの強靭さに驚かされるわ。
あの魔兵器は、見たところ火の属性を持つ魔石を遠隔操作して魔法を放つ。
いい趣味してますね…ってことはここが見える位置に使い手がいるはずだ。
兄ちゃんに探し出してもらうしかないな。
この兵士は騎士コンビが何とかできるそうだから、アジュとサフランの隠密コンビを先行させるか。
「ポールとサラは二人の相手。兄ちゃんとブルーノは使い手を探して対処して欲しい。アジュとサフランは村の様子を探って報告してくれ。俺とカンバーは魔兵器の対策をする。」
『了解!!』
皆一斉に指示通り動き出した。
俺は、カンバーを庇いながら魔兵器を凍り付かせ、打ってきた火の球はマントで払い落とした。
その間に、騎士コンビは疾風の如く二人の隣を通り過ぎて、鳩尾を殴って気絶させ、その場に倒れさせることなく肩に担ぎあげた。
サラもちゃんと竜騎士なんですね。やっと実感わいてきたわ。
兄ちゃんは、強化魔法を使ってブルーノと共に使い手を追い、アジュとサフランはいつの間にかいなくなっていた。
あの二人、本当にこの旅で変わったなぁ…逞しいよ。
「門番の二人は、催眠が解けているかわからないから、ロープで縛っておこう。」
「エル、ちょっと良くない知らせだよ。」
二人にロープを手渡していると背後から兄ちゃんが、重い口調で話しかけてきた。
知りたくないなー。って思ってたら頬を軽く摘ままれた。
「すぐに顔に出さないの。使い手なんだけど、子供だったよ…」
《きーするは、あれすと、よりもだめ。このこ、どれいにされてる。おやがしったらたいへん。》
ブルーノの背中で気を失っている子供に近寄ると、兄ちゃんが渋い顔をしている理由とブルーノが言っていることがよく分かった。
その子供は、透き通るような白い肌と銀色の髪、額には一本の角が生えていた。
ボロボロの麻のような生地で出来た服に、辛うじて身を包んでいる粗末な格好。
足は、裸足で足首には金属の輪が付いていて、肌が所々擦り切れて膿み出している。
極めつけは、ぶかぶかな首元から見える奴隷の焼き印で、ちゃんと処置をされなかったらしく爛れていた。
奴隷には、主人がつくときに印を打つが、二種類ある。
解放される見込みがある奴隷には、魔法で印を刻み、解放されるときにその印が消える。
もう一方は、焼き印。
罪人や一生返せない借金を抱えたもの等一生奴隷になることが決まっているものがつける。
魔法で付ける印も焼き印も効力は同じで、主に逆らうと心臓が鷲掴みにされ、最悪命を奪われる。
その為、逃げ出すこともできずに言いなりになるしかない。
何が最悪って、この子供の身なりと待遇もだけど、一角獣の子孫に焼き印を打ったことだ。
この子供は、秘密裏にさらわれてきた子供。
一角獣の子孫は、先祖はユニコーンだが、子孫を残していくうちに人へと姿が近くなっていった。
純粋で魔力も高く、魔法の適正も人間よりも幅広い。
凄いものでは、全種類の魔法が使えると言われている。
一角獣の一族は数が少なく結束力がとても高いし、家族思いの種族だ。
子供が攫われたとあっては、血眼になって探しているだろう。
手を出してはいけない種族の一つに、隣国は手を出していたのだ。
「とんでもない国だな…可哀想に…」
白磁器のような白い肌に焼け爛れている印が、とても痛々しい。
奴隷を連れてきているという事は主も近くにいるはずだ。
ちょいと捻ってやるつもりだったけど、成敗レベルに引き上げだな。
「カンバー、サフランが戻ってきても、この子に回復の魔法を掛けることは、主ではないからできない。だから、薬草を探してこのこと手当てしておいてほしい。あと、他にもケガ人がいるかもしれないから治療を頼めないか?」
「了解!治療も薬も僕の得意分野だから任せて!」
カンバーが、自分の胸を叩いてから側にあった草木に語り掛けて、あっという間に姿が隠せるほどの茂みを作って、そこへ一角獣の子供と門番二人を運び込んだ。
そろそろ中心地の方へ行こうかと思っていたところにアジュとサフランが、厳しい表情で戻ってきた。
「エル、最悪の状況だよ。」
「私達も見るに耐えきれませんでしたわ。」
「そんなに酷いのか…」
「まず、緑人族が数名捉えられていて、金属でできた檻の馬車に乗せられてたのを見たんだけど…」
「女性らしい姿の方は、どなたもいらっしゃいませんでした。」
「あ、うん。いないと思うよ。緑人族みんな中性だからね。」
「そうだったんだ。あとは、村人なんだけど、一気に催眠を掛けられるわけじゃないみたいで、女子供老人は、一か所に集められて閉じ込められてた。酷いケガをしている人ばかりだよ。」
「早く助けなくては、多くの命が奪われてしまいますわ!」
「男は催眠を掛けられているのか…労働力がある為か…催眠を使う奴が、女である可能性もあるな。」
サフランもアジュも飛び出さずによく戻ってきてくれたと思う。
騎士コンビだったら速攻暴れ出すに決まっている。
「騎士コンビは、ホフタ兵士の討伐。サフラン、アジュは捉えられている人の救出。その際、歩けないものが居たら回復魔法を惜しみなくかけてくれ。アジュは、サフランを全面的にサポートして。ケガ人は、カンバーがあの茂みで治療するから連れてきてね。」
「了解。兵士に魔法ぶつけてもいいかな?」
「かまわない。一番は自分の身だ。お兄ちゃんを悲しませるアジュールじゃないだろ?」
「エル…俺、キスしてくれたらもっと頑張れ「早くいけ!」はーーーい。」
戦闘にワクワクし出している騎士コンビとどこか気が抜けている隠密コンビを送り出し、俺と兄ちゃん、ブルーノが残った。
カンバーだけを残していくのは心配だし、隠密コンビが戻ってくるまで人手不足だろう。
「兄ちゃんは、カンバーと残ってくれる?それで、アジュ達が合流したら、俺とブルーノのところに来てほしいんだけど…」
「そうだね。流石に、戦闘慣れしていない子供を置いて行くのは心配だもんね。」
「有難う、兄ちゃん。」
「可愛いエルの頼みだったら何でも聞くよ。ブルーノと一緒だから、そんなに心配してないけど無茶しないで。」
「はい!いってきます!」
最後、また久しぶりに魔王降臨した兄ちゃんを見て慌ててその場を走り去った。
《える、らいるは、ときどきまぞくみたいになるね。》
「兄ちゃんの前で言ったらだめだぞ!もっと怖くなるから!」
ブルーノは想像したらしく、走りながら激しく頷いたのだった。




