素通りはできない
日がすっかり落ちる頃には、俺達の周りに小さな集落が出来ていた。
コレって村一つ作れるんじゃないかな?
誰一人村の中に入れず、かといってみんな門番に文句を言い、問題ごとを探って首を突っ込むという事はしなかった。
皆旅慣れしているというか、シックスセンスが何かを訴えているのか、大声も出さずに黙々と夕飯の用意を始めていた。
俺でも分かるよ。だって村の中から何を言ってるかは分からないけど、騒がしい声や音が響いてるからね!
ここが、国境最後の村じゃなかったら、皆通り過ぎてると思う。
国境最後の村では、隣国に入るのに必要な書類が最終発行されるので、都で取らなかった人は大抵ここで発行してもらう。
都だと検査の目も厳しいが発行料金が安い。国境最後の村だと料金が高いが、その分検査が緩い。
検査に引っかかりそうになっても、追加料金を握らせて笑いかけるだけで通過できる。
これだったらみんな我慢して待つというものだ。
ークゥンー
聞こえないふりって駄目かな?
ブルーノから話がある合図としてスカートの裾を軽く引っ張るものがあるんだが、今それをやられている。
耳のいいブルーノの事だから中で何が起きてるか聞こえているみたいだ。
あんまり無視しても可愛そうなのでしゃがんでブルーノの頭を抱きしめるように顔を寄せた。
《なかでたいへん。えーん、えーんいってるよ。あと、いたい、たすけて、やめてってきこえる。》
「それって、助けに行けってことか…」
《つよくておおきいこえで、おとこのひとが、たくさんいってる。》
「なんて言ってる?」
《おとなしくしろ。いうことをきけ。ほふたのちょくめいだぞ。むらびとをそとへだすな。》
「なるほどね。ブルーノ、ありがとう。いい子だ。」
ブルーノの話を整理すると、ホフタの兵士が村でなんかやらかしてるってことだな。
それで、村人が拘束されたり、痛めつけられたりしてるんだろう。
聞いちゃったからには素通りできないよな。
それに、緑人族がまだ、隣国に連れて行かれていない可能性だってある。
顔を上げると、兄ちゃんが苦笑しながら俺の頭を撫でてきた。
「ブルーノが何か知らせてきたみたいだけど、行くのかな?」
「うん。アルズトの兵士じゃないのに、隣国の奴が威張り散らすって癪に障るんだよね。」
「村にホフタの人間が居て威張り散らしてるなんて異常だ。一応、ここはアルズトなんだからアルズトの駐在騎士がいるはずだよ?」
国境や大きいダンジョンの側にある村には、国から何かあった時に対処する為の騎士が5人以上駐在するのが当たり前なんだけど…
ブルーノにもう一回詳しく聞いてみても、今は子犬ちゃんだから今以上のことはわからないだろうな。
「エミル様、何やら門の付近が騒がしくなっています。見てまいりましょうか?」
「ええ、お願いするわ…黒と白二人で行ってちょうだい。何か急を要するようなら手を出しても構わない。」
「なるほど。ライと二人でコソコソ話していたから、何かあったのかとは思ったが…中に用事が出来そうだな。」
「出来るだけ手は出さない方向で頼む…お前、顔がにやけてるぞ。」
「気のせいだ。お前といると退屈しないと思っただけだ。」
俺は退屈を貪りたい!刺激的な生活とどうやったらおさらば出来るのかばっかり考えてるぞ!
にやけたままのポールは、サラに声をかけ、嫌々と首を横に振るっているサラを引きずって門へと歩いていった。
「お嬢様、周りの話だとここで野宿の準備をしている者ではないようですわ。」
「なんでも、出稼ぎに出ていたこの村の若者達のようです。」
「手を出さない選択肢が消えていってるな…あの二人、絶対に手を出す。みんな荷物をまとめといてくれ。」
サフランとアジュのいつの間にか身に付いた隠密のような情報収集能力で、少しの情報が伝わり、現状に涙目になってきた。
皆に荷物をまとめさせ、周りにいた人々が不思議そうに小首を傾げながら見てきた。
そりゃそうだ。
これから飯食って寝んべ。ってなってるのに、急に野宿の準備を片付けて身支度を整えてんだから。
「お嬢ちゃんたち、まさか騒動に加わる気かい?」
「ええ。恐らくそうなると思いますわ。お節介な護衛が騒がしい所へ首を突っ込みに行きましたから。」
「おじ様たちもいつでも動けるようにしておいたほうがよろしいかと思いますわ。」
「そう。下手をしたらここで戦争が始まってしまうかもしれない。」
ードゴォオオオオンッー
商業団のオジサンと俺、サフラン、アジュの四人は話すのをやめて一斉に音の方を見た。
門が燃え上がるように弾け飛び、四方八方残骸が火を纏ったまま散る。
爆音の正体は分からないが、ポールとサラでないことは確かだ。
村の若者達が魔法を使えたとしても強行突破するとは正直考えにくい。
自分たちの村で何が起こっているかもわからないのに、そんな暴挙に出ることはリスクしかない。
という事は、村サイドから魔法が使われた可能性が高い。
敵さんの大将は、ちょっとお頭の足りない貴族っぽいな。
それか、成り上がりのチンピラか。
どっちにしても鉄槌が必要だ。
「「お嬢様。」」
「ええ。行きますか……おじさん達もここじゃなくてもう少し遠いとこで待機した方がいい。一般人にむやみやたら魔法をぶっぱなす連中のようですからね。」
「ああ。そのようだな…先に門へ行ったのが護衛なら今一緒にいるのは、ただの従者じゃないのかね?」
「ただの従者なんて一人も一匹もいませんわ。そこら辺の騎士位なら簡単にやっつけられますよ…だから安心なさって?明日には、いつも通りの日常がやってきますわ。」
心配で表情を曇らせたままの人の良さそうなおじさんに、安心させるよう笑顔を向けて燃え盛る門へと歩き出した。
この国最後の村なんだから少しぐらいはっちゃけてもいいよな。
なんせ、向こうさんが先にはっちゃけてんだから。
近づいていくとサラとポールが若者たちを庇って立っていた。
二人とも鎧があるとはいえ、怪我をしているようだった。
「サフラン。」
「はい。」
若者達もまとめて一気に聖魔法で回復させていく。
うちの子たちを傷つけるとか許さない。
モブでも豆腐メンタルでも俺の仲間だから。
「お前らは、心配しないであっちにいる集団と一緒に居ろ。」
「でも、俺達の村だ!!こんな…こんな酷いことする奴らじゃないんだ!」
「門番も知り合いか?」
「友達だ!でも…俺たちの顔を見ても分からないんだ…」
「エル、どうやら催眠の魔法を使える者がいるみたいですわ。」
「村の連中も操られてるかもしれないな…お前らも聞いただろ?俺達に任せて下がれ。」
実力を見せるよう、徐に掌を燃え盛り続ける門の柱へ向け、小規模の氷魔法を飛ばして氷のオブジェに変えた。
「俺達に任せろ。」
ポールが若者の肩を叩いて呆けている状態に喝を入れ、集団へ行くように促してから先陣を切って歩き出した。
続いてサラとブルーノが続き、兄ちゃんとアジュとサフランが続いた。
「カンバー…お前も待っていた方がいいんじゃないか?」
「大丈夫、僕も力になれる。なりたいんだ。」
「そっか。それじゃ、いっちょ暴れますか!一応、俺から離れるなよ!」
「うん!!」
出会った時とは違う、決意に溢れた目のカンバーと連れて、後れを取らないように皆の元へ走り出したのだった。




