森は出会いの場
人目を避けるように再び逃亡者生活を歩んでいる俺たちは、森の奥へと入り、モンスターや獣達と対峙しながら先へ先へと進んでいた。
ブルーノの話だと、この森は違うモンスターの管轄で、シルバ達が入ってくることはないそうだ。
つまり、俺たちと全く関係ないから無遠慮に襲い掛かってくる。
これが本来の旅の姿だよね。
俺達休む。
モンスターとか獣が出る。
戦う。
食えるもんは、その場で調理をして食う。
寝るときは完全に交代制で、火を囲んで過ごす。
前回の旅がちょろすぎた。
移動はシルバの上だし、モンスター襲ってこないし、獣が襲ってきても移動頭数が多かったから逆に襲う感じになったし…挙句、炭酸泉にまで入り、宝の山の中からお土産まで持たせてもらった。
うん!世の中って上手くいくときは恐ろしく上手くいくし、上手くいかないときはビックリするくらい上手くいかないものである。
つまり、現在の俺たちは、疲れてる上に全員寝不足なんだよね。
サフランとアジュに至っては、最悪なくらい黒い人格になってしまっている。
清いままのサラが哀れなくらいだ。
「この間、隣の村を通過したから…今どの辺だ?」
「木の種類が少しづつ変化しているから、国境近くの村に近いかもしれんな。」
「エル、飛んでみた方が早いんじゃない?」
アジュに言われて、鞄から簡易的な地図を取り出して、重力魔法で空へと舞いあがった。
「あっちがこうだから…んで……ん?あの建造物は何だ?ダンジョンか?遺跡か?」
国境方面とは違う方向に、緑色のでっかいピラミッドのような遺跡のような建造物が見えた。
大体、ああいうモノの側には遺跡かダンジョンかなんかで、モンスターがいるんだよな。
一応相談するために一度地上に降りた。
「俺達の進む方向とは違うんだけど、少し外れたところに見たことのない建造物があったんだが…」
《ここらへんだと…みどりのひとがいる》
「緑の人?」
「本でしか読んだことがないが、緑人族じゃないか?」
緑人族って俺も兄ちゃんと同じ本でしか知らないけど、確か肌が緑色で、髪が茶褐色で統一されている少数民族だったかな。
植物の声が聞こえる不思議な耳を持っていて、森の申し子って呼ばれてるんだよな…確か。
兄ちゃんと読んだ本って難しいのばっかりだったからうろ覚えなんだけど。
「エルとアジュは俺と一緒に読んだことあるからわかるだろ?」
「うん。あの本面白かったからよく覚えてるよ。緑人族ならこの辺に居ても頷けるね。変わった植物が多くなってきたし。」
兄弟が頭良すぎて涙が出そうです。
あの本、確か(世界民族全集)ってやつで、世界中のあらゆる種族が掲載されてる図鑑みたいな本だから似たり寄ったりな説明とかもあってごっちゃになるんだよ。
やっぱり、兄弟がチートなのかもしれない。
「おかしいですわね…都にいた時に聞いた噂なんですけど…」
「ああ、私も聞いた。緑人族は、隣国の奴隷狩りにあったとかなんとか。」
「隣国では薬師不足が深刻化しているという。それを補うために秘密裏に捕らえたから噂レベルなんだろ。」
「ってことは、あの遺跡みたいなのは無人ってことか?」
集落跡ならば、少しはゆっくり過ごせるかもしれない。
皆、疲労困憊しているのに、気を張っていかなくてはならない国境側の村に行くのは不安だ。
「少し歩くけど、日にちを跨ぐほどではないから行ってみないか?」
『賛成!』
《ほうこうわかるから、ついてきて。》
俺の考えが言わなくても通じているのか、皆即答でブルーノの後ろをついていった。
ブルーノも簡易的な地図と俺の言った方向だけで道案内が出来るんだから、本当に賢い良い子です。
自分たちを遮るように生えていた植物が、徐々に変化して道を開けていくように曲がったり、減ったりして先に進む速度が上げられるようになってきた。
これは、集落跡が近いのかもしれない。
でも、植物と会話できるんだったら、こんなにすんなり人を通す様に生えてていいのだろうか?
自在に植物を変えられるって書いてあったから、集落に近づかないようにバリケードみたいな生え方をさせられる気がするんだけど。
これでは、どうぞいらしてくださいって言ってるようなものだと思う。
もしかして罠とかあったりするのかな?
でも、それだったらブルーノが反応するはずだし…これは大人しく付いていくしかなさそうだ。
《もうすぐだよー。》
間延びしたようなのんびりしたブルーノの口調に、警戒しようと思っていた自分が馬鹿らしく感じた。
「集落に人の気配がある。弱々しくて小さいから子供かもしれない…急ごう。」
「了解!早く行けるように魔法を使うよ。」
全員に重力魔法を掛けて体を軽くさせ、走る速度を上げた。
本当なら邪魔な草木を水で切ってしまおうと思っていたけど、不思議と邪魔になる草木はなかった。
「森が、早くいくように促してるみたいだ…」
呟いた瞬間、急に蔓が垂れ下がってきて俺の頬を撫で、その流れがまるで俺の言葉に反応したようで、背筋がゾクッと泡立った。
なんだか怖いから早く目的地に向かおう!
《みえてきたよ…これは…》
「何かの襲撃を受けた後だな…それもそんなに日が経っていない。」
俺達は、あまりのことに言葉を失った。
目の前に広がる風景は、この先も忘れることはないだろう。
俺が空から見た建築物以外、すべてが壊され、焼かれ、人の姿がない廃墟。
しかし、微かに火の燻りが残っていて、住居があったであろう場所から煙が上がっていた。
《えん…あっちからにおいする》
ブルーノに言われて重い足を動かし、建築物の入口らしき所へ辿り着いた。
そこには、アジュ位の大きさの子供が、唇を嚙みしめて何かを燃やしている炎の前に立っていた。
「来るのが…遅い…」
振り返った子供は、書物で書いてあった緑人族とは違って、手足が緑色だがその他は肌色で、髪は茶褐色。
瞳は、涙が浮かんでは落とし、濡れた頬をそのままに拳を握り締めていた。
「森が言っていた…力になる奴が来るって…でも、遅い。みんな連れて行かれた…抵抗した長は殺された…」
言葉は少なかったが、状況が飲み込めた。
きっと、殺された長を一人で弔っていたのだろう。
「遅いと言われても、俺たちはここに立ち寄る予定もなかった。それを責められても困る。」
「そうだよ。たまたまエルが、このでっかいのを見つけたから来ただけだもん。」
なんとなく変な責任を感じ出していた俺をフォローするように、兄ちゃんとアジュが子供に言った。
子供は、二人の言葉を聞いて驚きながら息を飲んだ。
「お前たち、導かれた者じゃない?」
「導かれたかどうかはわからないけど、ここに来るのに苦労はしなかったかな。」
「ならば、導かれたものだ!なんでわからない!」
「数時間前に、この建物を見かけただけなんだから何もわからないよ!」
「導かれた者でなければここに来れない!森が許さない!」
「じゃあ、なんで俺たちの前に侵入者がいたんだよ。」
「あいつらは…同胞を使った…汚い奴ら…」
うん。俺分かってる!
この展開はあれですね。
こいつ連れて、奴隷解放ですね。
つまり、隣国に喧嘩売った上に滅ぼす一歩手前までやれってことですね。
よし!仮死状態になって、アイツぶん殴ろう!
この展開、絶対運命的な流れだろ!!
スタンピード的強制イベント第二弾!!
あー、俺なんで飛んじゃったかなぁー…それに建物無視すればよかったなぁー
「エル…」
「うるさい。口を開くな。殴るぞ。」
「お前、本当に俺に容赦ないな。」
「言いたいことは手に取るようにわかる。」
ポールは、子供の前へ行くと跪いて、血に濡れた拳を大きな手で包み込んだ。
「仲間を…この小さくて生意気な俺の主が救ってくれるそうだ。一緒に行くか?」
「ポールさん、お前の主は何にも言ってねーよ。つか、これ以上お荷物いらねーし。あと、さりげなく俺の悪口言ってんじゃねーよ。」
「本当か!?あたし、力になる!」
「おまえ、女かよ!!!ってか、聞かないねー…俺の話。」
兄ちゃんとアジュが、俺のがっくりと落ちた肩に手を置いて、やれやれとため息を吐いた。
「エル、流石に女の子一人ここに置いて行くのは気が進まないだろ?」
「そうそう。なんだかんだで甘々エルは、見捨てるなんて選択しなく、連れて行くんだから無駄な抵抗しない方がいいよ?」
「ごもっともで…」
「私たちも連れてくださってるくらいですからね。」
サフランが止めを刺してきた。
知ってる?それって自虐も入ってるんだぞ!
分かるよ…これが、勇者の分岐なのか魔王の分岐なのか知らないけど圧し折ってやる!
隣国の悪者どもめ…俺を巻き込んだことを後悔させてやる!まだ、会ったことないけど!
はー…奴隷解放とか…奴隷ハーレムとか夢でしかないのかもしれないな。
俺、チート無いし!
男として兄ちゃんにも、下手したらポールにも負けてるからね!
せめて巨乳美女が居ますように!熟女も歓迎!きっとハーレムとかなんないから肩透かしだろうけどね!
こうしてまた森で仲間を増やした俺でした。とほほ。




