眼鏡はお洒落アイテム
結構な時間兄ちゃんもアジュ達も待った気がする。
なんでかって?
既に真っ暗だからね!!
ポールも筋トレがてら俺を抱きかかえていただけど、俺が恥ずかしくなってきて降ろしてもらった。
別に、ポールが大変そうとかそういう優しさじゃないからな!
兄ちゃんは、仕事が早くてしっかりしてるから、こんなことがあるなんて信じられない。
本来だったら兄ちゃんが、探して予約をしておいてくれた素敵なレストランでミルクティーを飲み、侍女と騎士の帰りを優雅に待つ。
そんなシチュエーションだったのに…下手に探し歩くわけにもいかないから待ってたけど流石に遅すぎでしょ!
「流石に、そろそろ探しに出た方がいいかもしれないな。」
「やっぱりそう思うよな…日が落ちたから人気もなくなってきた。これ以上は危険だろ。」
俺の意図を感じ取ったようにブルーノが俺にすり付いてきて鼻をピクピク動かした。
「ああ、まずは、にい…じゃなかった。ライを探しに行こう。その後、三人だ。」
―オンッ!-
なんて偉いんでしょう!ちゃんと大型犬みたいに鳴いたよ!
満面の笑みでブルーノの頭を撫でまわしてから、ポールと共に歩き出した。
一応、村ではあるが、規模としてはうちの村よりは栄えていて人が多い。
町に近いのだが、この国に町というものは存在していないのだ。
国の方針で、一か所に住む人の人数と規模を制限している。
暴動等が起こり辛いように対策しているらしい。
だからいくつも村が点在している。
ここは、ちょっと規定に引っかかってもおかしくない位の大きさだな。
嫌だねー…きっと大臣クラスのコネがある奴が統治してんだよ、きっと。
ブルーノにしたがって歩いていると、何やら広場に人が集まっていた。
側にある建物の多さから見て、ここが村の中心のようだ。
騒がしいけどなんだろ?
ブルーノが、俺のスカートを甘噛みして引っ張ったのでしゃがみこんだ。
「どうした?」
《あのなかから、みんなのにおいする。》
小声で短く話し、騒ぎの中心に仲間がいることを知ると眩暈を覚えた。
「黒、あの中に私の連れが全員いるんだが…」
「あー…頭痛い話ですね。宿探しに先行きます?」
「お前が、今言ったこと全部ライに話すわ。」
「すいません。冗談ですよ。」
「俺も冗談だよ。」
「俺じゃなくて私でしょうが。」
「おっと…まぁ、こんだけの騒ぎじゃ聞いてないか。」
「気を付けてくださいよ。それこそライに言いつけます。」
「それは冗談で言ってないな?覚えとけよ。」
お互いにあの人の山に入っていきたくないから、ついつい無駄話が長くなった。
いや、どうして集まってんのかな?ってことは思ってるし、心配だってしてるよ?
「あの、あの人の集まりは何ですか?私、来たばかりだからよくわからなくて…」
ぶっこんで行かないで人だかりの周囲にいた少年に、ぶりっこ全開で話しかけてみた。
本当は女の子とかが良かったんだけど、何故か周りにいないんだよね…兵士も疎らだし。
「えっと、何でも役者みたいな美形が集まって話をしていたから、それを見ていた人達が群がってきたんだよ。うちの村じゃ、なかなか役者なんて来ないから……君も可愛いね。引っ越してきたの?」
「えっ…私は、旅をしていて…お父様の言いつけで隣の国へお使いに行くの。…ってなんで手を握るのかしら?」
「あっ!ごめん!可愛かったからつい…別に、疚しい気持ちなんてないからね!?」
おいおいおいおい!初対面の女の手を握るなんてとんでもない奴だな!
つか、俺がピンチになってんのに、なに微笑ましく上から目線で黙って見てきてんだよ!ポール、ぜってー許さん!
ブルーノすら相手の少年を退かそうと鼻で押してるのに!
「いいえ、お気になさらないで?私、本当にこの辺りのことに慣れていないから、手を握るのは礼儀なのかと思ってしまっただけですから。」
「おい、ジャン!お前、可愛い子と話してるけど誰?」
「イアン、この子旅をしている子なんだって…変なことするなよ?」
「は、初めまして。私、エミルと申します。この子は、ブルーノ。それと…そこに突っ立っているだけで何もしないのは、一応私の護衛をしている黒ですわ。少しの間、滞在する予定ですのでよろしくお願いいたします。」
分かってきたぞ…つまり、こういう風に人が集まっていったんだな。
こりゃ、早めに兄ちゃん達を回収して帰らないと埒が明かない。
ぽーっと俺を見つめる少年二人には悪いが、ここで退散させてもらおう。
「どうやら、あの人の集まりに私の連れがいるみたいなので、連れて帰らないといけませんの。
また、お会いしたらいろいろ教えてくださいね。」
「「ああ…」」
あからさまに残念そうにするなよ。俺は、心痛くて泣いちまいそうだ。
何重にも吐いた嘘で胸焼けしてきた。
二人に頭を軽く下げて、人の中へと意を決して入って行こうとした。
うん、入れない!
なんなのこれ!!
バリケードじゃん!
「ちょっと、すいません。」
おい!声かけても届かない位何かあったのかよ!?
こんな美少女が声かけてんだぞ!
途方に暮れそうになった時に、初めてポールが動いた。
遅いんだよ!このモブ騎士!
ポールが俺を一気に持ち上げて肩車をしたのだ…マジで此奴なんなんだよ!!!
「おい!なんで持ち上げんだよ!普通、お前が中にぶっこんでくもんだろうが!」
「お嬢様、言葉が下品です。」
きぃぃいいいいいいい!!!こいつ絶対に俺に恨みがあるんだ!覚えてろよ!!!!宿に着いたら目にもの食らわせてやるからな!
ポールとの言い合いで、つい大声を出してしまい、怒りで険しい顔をしてる俺に視線が集まった。
場をごまかす様に愛想笑いを浮かべていると、兄ちゃん達を見つけた。
兄ちゃんがいつもと違います。
兄ちゃん!!!なにそれ!!!眼鏡じゃん!!
鼻血噴くかと思ったよ!決まりすぎてるなー…そんでもって側に群がってる女は何?
「おい、降ろしてくれ…」
「お嬢様、何が見えたか知らないが、人殺しだけはしたらダメだぞ。」
「するか!…ったく、なんだと思ってんだよ。」
肩車から解放され、すっかり注目を集めた俺の前には自然と道が出来ていた。
兄ちゃんの周りだけじゃない。
アジュにもサフランにも男が群がっていた。
どいつもこいつも…サラはどうしたんだ?
サラを探すと、何か悪口でも言われたんだろう、花壇のわきで座り込んでいた。
アイツ、意外に豆腐メンタルだからな…
ブーツのかかとを高く鳴り響かせて騒ぎの中心に立った。
「あなた達、私をどれだけ待たせる気?私は、なんてあなた達に言いました?」
『え…エミル様』
「私は、温かいミルクティーを飲みながら宿でゆっくり過ごしたいの…旅で疲れちゃったからあなた達分かるわよね?
それと、皆様は…私の連れに何か用があるのですか?なんなら、私が聞いてもよろしくてよ?」
仲間と村人の間に立ち、背に仲間を庇いながら俺史上最高の笑みを浮かべて問いかけた。
すると、群がっていた村人がおずおずと少しづつ離れていった。
貴様らのような非常識なモブ達に、俺の仲間の邪魔をされたかと思うと反吐が出るぜ!
少しの滞在しかしないんだったら、嫌なお嬢様でも何でもやってやる!
「エミル様、申し訳ございません。主にご足労いただくとは…従者失格ですね。」
「「お嬢様、申し訳ございません。」」
「まったくだわ!貴方達は私のものです!私を一番に考えて行動して頂戴!またこんなことがあったらお仕置きするから…行くわよ!」
サラの頭を軽く小突いて立ち上がらせ、しょんぼりしている肩を数回叩いた。
宿に着いたらうまいもんでも食わせてやろう。
俺の後ろを兄ちゃん、アジュとサフラン、サラの順でついてきた。
開かれた道の先には、サムズアップしてるポールと尻尾を振ってるブルーノが待っていた。
今日のポールはムカつくので、宿に帰ったらお仕置きします。
「おい、みんなしっかりしてくれよ…」
どっと疲れが押し寄せて、両肩を落とした。
人が全くいないところだったら座り込んでいたかもしれない。
「ごめんね。広場でちょうど三人と会って、気を利かせてくれて眼鏡をプレゼントしてくれたんだよ。
素顔を隠した方が執事っぽくなるかもしれないって…それで早速かけたら人に囲まれちゃって…」
「まさか、あんなに人が群がってくるなんて思わなかったんだ…ごめんなさい。」
「私も失念でしたわ…」
「私は止めに入ったんだが…」
「うん、予想できたから…まぁ、四人とも無事でよかった。あんまりにも遅いから何かあったのかと思ったよ。」
人気の少ない道に入って、申し訳なさげにしている四人に向き直り笑いかけた。
「それで、宿は決まったんだよね?」
「「「それが…」」」
「決まってないの!?」
参った!これは参ったぞ!
この時間だと素泊まりはできるだろうけど、夕飯抜きかもしれない。
ん?兄ちゃんが建物を見てるけどどうしたんだろ?
「どうしたの?」
「そこの君たち…さっきから尾行してきているけどなにかな?」
え!?もう、追手にバレたの!?早くね?
あー、アレだけ目立っちゃったしなー。
兄ちゃんの言葉に、あれこれ悪い方向へ考えを巡らせ、一人で頭を抱えていると建物の影から二人の少年が出てきた。
さっき話しかけた少年たち、ジャンとイアンだった。




